第56話「魔力を纏う」
4階層の探索は続いていた。
蓮は魔物を倒しながら、少しずつ奥へ進んでいく。
《魔力操作》を覚えてから、戦闘は明らかに楽になっていた。
脚へ魔力を集中させる。
踏み込む。
攻撃の瞬間だけ腕へ魔力を集める。
必要な場所だけを強化することで、魔力の消費を抑えられる。
「……だいぶ慣れてきた」
だが、一つだけまだできないことがある。
蓮は槍を見る。
「これだな」
魔力を槍へ流す。
ほんの一瞬だけ、槍の先に魔力が集まる。
だが、すぐに消えてしまう。
「まだ安定しないか」
それでも諦めず、何度も試した。
そして――
その日の探索中。
蓮はこれまでより一回り大きな魔物と遭遇した。
低い唸り声。
鋭い牙。
身体も大きく、動きも速い。
「……強そうだな」
蓮は槍を構えた。
魔物が地面を蹴る。
速い。
蓮は横へ跳んだ。
爪が目の前を通り過ぎる。
「っ!」
すぐに反撃する。
槍を突き出す。
だが――
硬い。
槍が弾かれた。
「……!」
魔物が再び迫ってくる。
蓮は距離を取った。
今までの魔物なら、身体強化だけでも十分に戦えた。
だが、こいつは違う。
身体も硬い。
このままでは決定打が足りない。
「なら……」
蓮は槍を握り直す。
魔力を流す。
腕へ。
そして――槍へ。
何度も試してきた。
だが、うまくいかなかった。
それでも今は、失敗できない。
魔物が迫る。
「……もっとだ」
魔力を集中する。
身体から槍へ。
魔力の流れを意識する。
その瞬間――
『生存適応が発動しました』
蓮の中で、魔力の流れが変わった。
『現在の戦闘状況への適応を開始します』
『魔力操作による武器への魔力付与を促進します』
「……!」
これまで途切れていた魔力が、一本の流れになる。
腕から槍へ。
槍から穂先へ。
魔力が逃げない。
「これなら……!」
魔物が飛びかかってくる。
蓮は真正面から踏み込んだ。
脚へ魔力。
身体を加速させる。
そして――
「そこだ!」
魔力を纏った槍を突き出した。
ズンッ!
今まで弾かれていた槍が、魔物の身体を貫いた。
魔物が地面へ倒れる。
「……できた」
蓮は槍を見る。
穂先には、まだ薄い魔力がまとわりついている。
『武器への魔力付与に適応しました』
『魔力操作の熟練度が上昇しました』
「……」
蓮は槍を軽く振った。
魔力はまだ完全に安定しているわけではない。
長時間維持することもできない。
それでも――
「使える」
これまで届かなかった攻撃が、届くようになった。
蓮は倒した魔物を見た。
「強くなってるな、俺」
それからも蓮は4階層を進んだ。
魔力を纏わせた槍を使い、魔物を倒していく。
戦いを重ねるほど、その感覚にも慣れていった。
そして――
しばらく進んだ先で、道が途切れていた。
その先にあったのは、下へ続く階段だった。
「……」
蓮は階段を見下ろす。
その先から、これまでとは違う空気が流れてくる。
「5階層か」
蓮は少しだけ息を吐いた。
4階層で覚えたものは多い。
《魔力操作》。
そして、槍へ魔力を纏わせる技術。
だが――
ここから先は、さらに強い魔物がいる。
「行こう」
蓮は階段を下り始めた。
5階層へ。
また一つ、深い場所へ進んでいく。




