第54話「魔力操作」
4階層の探索を始めてから、しばらく経った。
蓮は何体もの魔物と戦っていた。
ダークハウンド。
それよりも大きな魔物。
鋭い牙を持つ魔物。
それぞれ強さも動きも違う。
だが、蓮は少しずつ戦い方を変えていた。
「ここだ……!」
魔物の攻撃をかわす。
《身体強化》で脚力を高め、一気に距離を詰める。
槍を突き出す。
魔物が倒れる。
「……」
蓮は槍を下ろした。
以前より、《身体強化》を自然に使えるようになっている。
最初は魔力を身体に流すだけで精一杯だった。
今では、必要な瞬間だけ魔力を強く流せる。
それでも――
「まだ無駄が多い」
蓮は身体強化を解除した。
魔力の消費を確認する。
以前よりは減っている。
だが、もっと効率よく使える気がする。
「魔力を全部身体に流す必要はないんじゃないか?」
蓮は自分の腕を見る。
攻撃するときに必要なのは腕。
走るなら脚。
なら――
「必要な場所だけに流せばいい」
蓮は試してみる。
右腕へ魔力を集める。
「……」
魔力が腕へ集まる。
だが、うまく安定しない。
少し気を抜くと、魔力が身体全体へ散ってしまう。
「難しいな……」
何度も試す。
腕。
脚。
また腕。
うまくいかない。
それでも蓮は続けた。
魔力を感じる。
動かす。
集中させる。
繰り返す。
そのときだった。
身体の奥から、何かが変わった。
『生存適応が発動しました』
蓮の動きが止まる。
「……!」
『現在の戦闘・環境への適応を開始します』
『魔力操作への適応を促進します』
その瞬間。
今まで曖昧だった魔力の流れが、はっきりと感じ取れるようになった。
「……!」
身体の中を流れる魔力。
その位置も、動きも分かる。
蓮は意識を集中する。
右腕へ。
魔力が流れる。
今度は散らない。
必要な場所へ、魔力が集まっていく。
『魔力操作への適応が完了しました』
『スキル《魔力操作》を獲得しました』
「……できた」
蓮は自分の右腕を見つめた。
もう一度試す。
右腕。
左腕。
脚。
意識した場所へ、魔力を動かすことができる。
「これが……魔力操作」
今まで感覚だけで扱っていた魔力。
それを、自分の意思で動かせる。
蓮は拳を握った。
「これなら、もっと効率よく戦える」
《生存適応》。
今回も、自分が生き残るために必要なものへ適応させてくれた。
普通なら、もっと長い時間が必要だったのかもしれない。
だが蓮は、危険な環境の中で必要に迫られるたびに、その力を身につけていく。
「……便利な力だな」
蓮は小さく呟いた。
そして、手に持った槍を見る。
「魔力を……槍にも流せるかな」
槍を握る。
魔力を腕へ。
そこから槍へ。
「……」
ほんの少しだけ魔力が移った。
だが、すぐに消える。
「まだ無理か」
蓮は槍を見つめる。
魔力操作を覚えた。
なら、次はこれを使いこなせばいい。
蓮は再び歩き始めた。
4階層の奥には、まだ強い魔物がいる。
そして――
蓮は知らない。
これから先、さらに深い場所へ進むほど、《生存適応》が必要になる戦いが増えていくことを。




