「第50話 未知なる強敵」
大型の魔物が、暗闇の奥から姿を現した。
蓮は思わず息を呑む。
「……大きい」
全長は二メートルほど。
四本の太い脚で身体を支え、全身を茶褐色の分厚い鱗が覆っている。
頭部は大きく、口には鋭い牙が並んでいる。
前脚には太く長い爪。
そして、身体と同じくらい太い尾が地面を引きずっている。
黄色い瞳が蓮を捉えた。
「……こいつは、今までの魔物とは違う」
蓮は槍を構える。
まずは情報を確認する。
「鑑定」
『名称:アースリザード』
『種別:魔物』
『特徴:高い防御力』
『攻撃:噛みつき・爪・尾』
「……やっぱり硬いのか」
表示された情報は、それだけだった。
弱点までは分からない。
蓮は魔物の身体を見る。
分厚い鱗。
正面から攻撃しても、簡単には通らなそうだ。
その瞬間――
アースリザードが地面を蹴った。
「っ!」
巨体が一気に迫ってくる。
蓮は横へ飛んだ。
直後――
ドンッ!
巨大な爪が地面を叩く。
石床が砕けた。
「……まともに受けたら危ない」
蓮は距離を取る。
アースリザードが身体を反転させる。
太い尾が横薙ぎに振られた。
「くっ!」
蓮は身体を低くする。
頭上を尾が通り過ぎた。
「速い……!」
巨体だから動きは遅い。
そう思っていた。
だが、予想以上に速い。
アースリザードが再び突っ込んでくる。
「《身体強化》!」
蓮は魔力を脚へ流す。
身体が軽くなる。
地面を蹴る。
攻撃をかわし、そのまま側面へ回った。
「ここなら!」
槍を突き出す。
ガキンッ!
「……!」
槍の穂先が鱗に弾かれた。
「硬い……!」
鑑定で確認した通りだった。
アースリザードが振り返る。
蓮はすぐに距離を取った。
再び爪が振り下ろされる。
かわす。
尾が来る。
避ける。
噛みつき。
さらに距離を取る。
「攻撃する隙がない……」
蓮は魔物の動きを観察した。
爪。
尾。
噛みつき。
どれもまともに受けるのは危険だ。
なら――
「動きを止める」
蓮はアースリザードの脚を見る。
身体を支えている四本の脚。
「そこなら……」
アースリザードが突進してくる。
蓮はギリギリまで引きつけた。
そして――
横へ跳ぶ。
すれ違いざまに槍を脚へ突き込んだ。
「はっ!」
ガッ!
鱗の隙間に槍が入る。
「効いた!」
アースリザードが大きく身体を揺らした。
蓮はすぐに距離を取る。
魔物が怒ったように咆哮する。
さらに激しく攻撃してくる。
「……焦るな」
蓮は魔力の流れを抑える。
必要以上に身体強化へ魔力を使わない。
脚を狙う。
攻撃をかわす。
また脚を狙う。
何度も繰り返す。
やがて――
アースリザードの動きが少しずつ鈍くなった。
「今だ!」
蓮は一気に踏み込む。
身体強化で脚力を高める。
槍を構える。
そして――
アースリザードの脚へ、渾身の一撃を叩き込んだ。
魔物の身体が大きく傾く。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
ドンッ!
「……はぁ……」
蓮は荒く息を吐いた。
槍を下ろす。
「勝った……」
今までの魔物とは違った。
硬い。
速い。
攻撃も重い。
それでも、動きを見て攻撃する場所を探せば倒せる。
蓮は倒れた魔物を見つめた。
「鑑定」
『名称:アースリザード』
『種別:魔物』
『状態:死亡』
『特徴:高い防御力』
『攻撃:噛みつき・爪・尾』
「……やっぱり、これ以上は分からないか」
鑑定で分かることには限界がある。
実際に戦って、自分で確かめることも必要らしい。
蓮は魔物の身体から魔石を取り出した。
以前にも拾ったものと同じような石だった。
「……これ、何に使うんだろう」
使い道は分からない。
だからといって、わざわざ捨てる理由もない。
蓮は今まで拾ったものと一緒に荷物へ入れた。
「いつか分かるかもしれないし」
それだけだった。
魔石について考えるのは、そこで終わった。
◇
蓮は周囲を見渡した。
アースリザードがいた場所の奥。
これまで魔物が出てきた方向とは違う場所に、細い通路が続いている。
「……ここ、行けるのか?」
蓮は慎重に進んだ。
しばらく歩く。
すると――
目の前が開けた。
「……階段?」
そこには、下へ続く石造りの階段があった。
壁に沿って、暗闇の中へと伸びている。
蓮は階段の前で立ち止まった。
「下……」
ここまで来るまで、こんな場所は見たことがなかった。
蓮は一段目を見つめる。
「……4階があるのか」
まだ先に進むことはできる。
だが、今までとは違う場所だ。
蓮は階段をしばらく眺めたあと、今日は戻ることにした。
「明日にしよう」
新しい階層。
そこに何が待っているのか。
蓮は少しだけ期待しながら、水場へ向かって歩き始めた。




