第47話「身体強化、実戦へ」
水場を出た蓮は、槍を手に3階の奥へ進んでいた。
昨日までとは、少し感覚が違う。
身体の中にある魔力。
そして、新しく手に入れたスキル。
《身体強化》。
「……実際に戦ってみるか」
今までも魔物とは戦ってきた。
だが、《身体強化》を意識して使って戦うのは初めてだ。
どれくらい強くなるのか。
どれくらいMPを使うのか。
まだ何も分からない。
だからこそ、実際の戦闘で試してみる必要がある。
◇
しばらく進んだところで――
ガサッ。
前方の草むらが揺れた。
蓮はすぐに足を止める。
槍を構えた。
草むらから姿を現したのは、一匹の魔物だった。
灰色の毛。
四足歩行の身体。
鋭い牙。
そして、低い姿勢からこちらを睨みつける黄色い瞳。
「……グレイファング」
以前、一度戦ったことがある魔物だった。
ブラッドウルフよりも身体は小さい。
だが、その分だけ動きが速い。
特に厄介なのが、地面を蹴って一気に距離を詰める突進だった。
「動きは分かる」
蓮は槍を構え直した。
グレイファングが身体を低くする。
次の瞬間――
地面を蹴った。
「っ!」
予想通りの突進。
蓮は身体を横へずらした。
牙が目の前を通り過ぎる。
グレイファングはそのまま走り抜け、すぐに振り返った。
「やっぱり速い」
蓮は槍を構える。
グレイファングが再び飛びかかってきた。
今度は正面から受ける。
槍の柄で攻撃を受け流し、距離を取った。
「まずは普通に戦ってみる」
身体強化は使わない。
今の自分の身体能力で、どこまで戦えるのか確認する。
グレイファングが左右に動く。
蓮も視線を追う。
次の瞬間、左から飛びかかってきた。
「そこ!」
槍を突き出す。
グレイファングは身体をひねって避けた。
そのまま後ろへ着地する。
「……やっぱり簡単には当たらない」
蓮は距離を取る。
何度か攻撃を繰り返す。
避ける。
受ける。
突く。
以前戦ったときよりも、魔物の動きに対応できている。
それでも決定打を与えるのは難しい。
「なら……」
蓮は魔力を意識する。
身体の奥にある力。
「《身体強化》」
魔力を少しだけ身体へ流す。
胸から腕へ。
脚へ。
そして全身へ。
「……!」
身体が軽くなる。
足に力が入る。
グレイファングが飛びかかってきた。
蓮は横へ跳ぶ。
さっきより速い。
「……違う」
明らかに身体の反応が良くなっている。
着地すると同時に振り返る。
グレイファングがこちらへ向き直る。
「今度はこっちから!」
蓮が踏み込む。
槍を突き出す。
グレイファングが避けようとする。
だが――
「遅い!」
槍が毛皮を捉えた。
グレイファングが怯む。
蓮は追撃する。
もう一度踏み込む。
槍を振る。
魔物が後ろへ飛ぶ。
「身体強化を使うと……ここまで違うのか」
だが、魔力を流す量にはまだ慣れていない。
力を込めすぎた瞬間――
「……っ」
魔力が一気に流れそうになる。
蓮はすぐに抑えた。
「危ない……」
昨日、大量の魔力を一気に流したときの感覚を思い出す。
あのときはMPを一気に30も失った。
「少しずつ……」
魔力の流れを調整する。
身体強化の効果は維持したまま、流す量だけを抑える。
「これくらいなら……」
グレイファングが再び突っ込んできた。
蓮は待つ。
ギリギリまで引きつける。
そして――
「今!」
横へかわす。
すれ違いざまに槍を突き込む。
グレイファングが地面へ倒れた。
蓮はすぐに距離を取る。
動かない。
「……倒した」
蓮は息を整える。
身体強化を解除する。
強い倦怠感はない。
「魔力の量を調整すれば……かなり使える」
昨日より明らかに上手くなっている。
実戦の中で、どれくらい魔力を流せばいいのか少しずつ分かってきた。
◇
蓮は倒れたグレイファングを見つめる。
そして《鑑定》を使った。
「鑑定」
『名称:グレイファング』
『種別:魔物』
『状態:死亡』
『特徴:高い敏捷性』
『攻撃:噛みつき・飛びかかり』
「やっぱり、速さが特徴なんだな」
以前戦ったときにも感じていた。
身体は大きくない。
だが、その速さは厄介だった。
だからこそ、身体強化の効果も分かりやすかった。
「前より動ける」
蓮は自分自身も確認する。
「鑑定」
『名前:黒瀬 蓮』
『年齢:16歳』
『種族:人間』
『レベル:3』
『HP:108/108』
『MP:92/108』
『スキル』
『《無限成長》』
『《生存適応》』
『《鑑定 Lv.3》』
『《身体強化 Lv.1》』
「……結構使ったな」
身体強化だけではない。
鑑定にもMPを使っている。
それでも、昨日のような強い倦怠感はない。
「このくらいなら大丈夫か」
蓮はステータスを閉じる。
今回の戦いで分かった。
身体強化は、実際の戦闘でも十分使える。
そして、魔力を使う量を調整することが重要だ。
「もっと使い慣れれば……」
今より効率よく身体を強化できるはずだ。
蓮は槍を握り直した。
「次も試してみよう」
まだ3階には、知らない魔物がいる。
そして、自分自身についても分からないことが多い。
蓮は再び歩き始めた。
新しく手に入れた力を、少しずつ自分のものにするために。




