第45話「新たに見えたもの」
水場を離れた蓮は、植物の多い場所へ向かった。
水は確保できた。
けれど、食料にはまだ不安がある。
3階には見慣れない植物がいくつも生えている。
もしかすると、食べられるものもあるかもしれない。
「……探してみるか」
蓮は周囲を見渡しながら歩いていく。
しばらく進むと、赤い実をつけた低木が目に入った。
「……果物か?」
蓮は実を一つ採り、《鑑定》を使う。
『名称:赤実』
『種別:植物』
『状態:良好』
食用かどうかまでは表示されない。
「……まだ分からないか」
蓮は実を慎重に調べる。
匂いを嗅ぐ。
甘い香りがする。
それでも、見た目だけで判断するのは危険だ。
蓮は実を少し傷つけ、汁を指につけて様子を見る。
しばらく待つ。
何も起きない。
それから、ほんの少しだけ口に含んだ。
「……甘い」
変な苦味もない。
身体にも変化は感じない。
しばらく待って問題がないことを確認し、もう一口食べる。
そのとき――
『対象への理解が深まりました』
『スキル《鑑定》が成長します』
『《鑑定 Lv.2》→《鑑定 Lv.3》』
「……!」
蓮は目を見開いた。
またレベルが上がった。
だが、今回は少し違う。
「……食べている途中で?」
蓮は赤実を見つめる。
ただ鑑定しただけではない。
実際に触れて、観察して、口にして確かめた。
「……やっぱり、理解することが関係してるのか?」
まだ確信はない。
だが、少しずつ法則が見えてきた気がする。
蓮はふと、自分自身へ意識を向けた。
「……自分も見てみるか」
鑑定のレベルが上がった。
今なら、以前とは違う情報が見えるかもしれない。
「鑑定」
『名前:黒瀬 蓮』
『年齢:16歳』
『種族:人間』
『レベル:3』
『HP:108/108』
『MP:62/70』
『スキル』
『《無限成長》』
『《生存適応》』
『《鑑定 Lv.3》』
「……レベル3?」
蓮は表示を見つめた。
「俺……レベルが上がってたのか」
MPの最大値も増えている。
50だったはずの最大MPが、70になっている。
そして現在値は62
「……鑑定を使った分だけ減ったのか」
これまで何度も鑑定を使ったことで、MPが減ることは分かっていた。
今はレベルアップによって最大値そのものが増えている。
「レベルが上がると……HPやMPも増えるのか」
蓮は自分の身体を確認する。
確かに、以前より力が増したような感覚がある。
けれど――
「いつレベルが上がったんだ?」
蓮は考える。
思い当たるのは一つだった。
「……ブラッドウルフ」
あの戦い。
強敵との戦闘。
そして、最後に倒した直後に感じた、身体の奥から湧き上がるような感覚。
「あのとき……レベルが上がったのか?」
おそらくそうだ。
だが、まだ確信はない。
《鑑定 Lv.2》のときには、自分のレベルを見ることができなかった。
だから、気づかなかったのだ。
「……なるほど」
蓮は小さく頷いた。
戦闘によってレベルが上がる。
レベルが上がれば、HPやMPの最大値も増える。
そして、《鑑定》を使えばMPを消費する。
少しずつ、この世界の仕組みが見えてきた。
◇
蓮は改めて、手に持った赤い実を見る。
「そういえば……」
《鑑定》のレベルも上がった。
もう一度、赤実を鑑定する。
『名称:赤実』
『種別:植物』
『状態:良好』
『食用:可能』
「……やっぱり」
Lv.3になったことで、新しい情報が表示されるようになった。
食べられるかどうかまで分かる。
「これなら、食料を探すのが楽になるな」
蓮は周囲を見渡した。
「もう少し探してみるか」
◇
それから蓮は、見つけた植物を一つずつ鑑定していった。
『名称:青実』
『種別:植物』
『状態:良好』
『食用:不可』
「これは駄目か」
次の植物。
『名称:大葉草』
『種別:植物』
『状態:良好』
『食用:可能』
「これは食べられる」
さらに別の植物。
『名称:灰花草』
『種別:植物』
『状態:良好』
『食用:不可』
蓮は食べられるものだけを採取していった。
鑑定のレベルが上がったことで、食料を探す効率は大きく変わった。
しばらくして、赤実と大葉草を中心に、いくつかの食料を確保できた。
「これだけあれば、少しは持つな」
蓮は食料をまとめ、水場へ戻ることにした。
◇
水場には、置いてきた荷物がそのまま残っていた。
ブラッドウルフの牙。
爪。
毛皮。
そして魔石。
「……これも見ておくか」
せっかく鑑定のレベルが上がった。
今まで集めたものも、もう一度確認しておく。
まずは牙。
「鑑定」
『名称:ブラッドウルフの牙』
『種別:素材』
『状態:粗悪』
『硬度:高』
「前より詳しくなってる」
爪。
『名称:ブラッドウルフの爪』
『種別:素材』
『状態:粗悪』
『硬度:高』
毛皮。
『名称:ブラッドウルフの毛皮』
『種別:素材』
『状態:粗悪』
『耐久性:高』
「やっぱり、見える情報が増えてるな」
最後に魔石を手に取る。
「鑑定」
『名称:ブラッドウルフの魔石』
『種別:魔石』
『状態:粗悪』
『魔力含有量:小』
『魔力純度:小』
「魔力……」
魔石に魔力が含まれていることは分かった。
だが、それが何を意味するのかはまだ分からない。
「これ、何に使うんだろうな」
蓮は魔石を眺める。
価値も、使い道も知らない。
今の蓮にとっては、まだ不思議な石だった。
魔石も他の素材と一緒に置いておく。
◇
集めた食料も水場へ置いた。
これで、ここには水と食料、そして集めた素材がある。
「ここを拠点にしていけばいいか」
荷物を置いておけば、探索するときに身軽に動ける。
食料がなくなれば探しに戻ればいい。
水が必要になっても、ここへ戻ってくればいい。
蓮は水場を見渡した。
「少しずつ……生きられる場所になってきたな」
そして、自分のステータスを思い出す。
レベル3。
HP108。
MP64/70
まだ分からないことは多い。
けれど、少しずつ、この世界の仕組みが見えてきている。
「次は……もっと調べないとな」
蓮は槍を手に取った。
まだ3階には、探索していない場所が多い。
何があるのか。
どんな魔物がいるのか。
そして――
自分のレベルが、次はいつ上がるのか。
確かめるためにも、蓮はこれからも探索を続けることにした。




