第42話「初めての魔力」
3階へ進んでから、蓮は慎重に探索を続けていた。
2階とは違う景色。
見たことのない植物。
そして、まだ知らない魔物。
蓮は槍を手に、周囲を警戒しながら進んでいく。
そのとき――
前方の茂みが揺れた。
「……何かいる」
蓮は足を止める。
槍を構え、茂みの奥を見つめた。
次の瞬間。
茂みから一匹の魔物が飛び出してきた。
「……!」
蓮は反射的に横へ跳ぶ。
鋭い爪が、さっきまで蓮がいた場所を通り過ぎた。
「速い……!」
蓮は距離を取る。
魔物は低い姿勢のまま、蓮を睨みつけている。
「……鑑定」
『名称:ブラッドウルフ』
『種別:魔物』
『危険度:中』
「ブラッドウルフ……」
グランウルフとは違う。
だが、その動きはかなり速い。
蓮は槍を握り直した。
「……来い」
◇
ブラッドウルフが地面を蹴った。
速い。
蓮は槍を振る。
しかし、ブラッドウルフは身を低くしてかわした。
「……!」
そのまま懐へ入り込まれる。
蓮は槍を引き戻し、爪を受け流した。
だが――
ブラッドウルフは止まらない。
身体をひねり、再び蓮へ飛びかかってくる。
「くっ……!」
蓮は後ろへ下がる。
しかし、間に合わない。
爪が目の前まで迫る。
その瞬間――
『生存条件を満たしました』
『《生存適応》が発動します』
「……!」
頭の中に、あの声が響いた。
次の瞬間。
蓮の身体が勝手に動いた。
身体をひねる。
ほんのわずかに頭を下げる。
爪が髪をかすめて通り過ぎた。
「……今の……」
考えるより先に身体が動いていた。
蓮自身が驚いている間にも、ブラッドウルフは着地する。
「また……《生存適応》?」
何が起きたのかは分からない。
それでも――
今の一瞬がなければ、攻撃を受けていた。
「……助かった」
蓮はすぐに意識を切り替えた。
今は考えるより、目の前の敵を倒す。
◇
ブラッドウルフが再び迫る。
蓮は槍を構える。
そして、身体の中にある不思議な力へ意識を向けた。
「……これも試す」
胸の奥へ意識を向ける。
そこから腕へ。
魔力を集める。
「……!」
腕に微かな熱が集まった。
蓮はそのまま槍を突き出す。
先ほどより、ほんの少しだけ腕が速い。
槍の穂先がブラッドウルフの肩を捉えた。
「当たった!」
しかし、致命傷ではない。
ブラッドウルフは距離を取り、再び蓮へ向かってくる。
その瞬間――
「……っ」
倦怠感が広がった。
「もう……?」
蓮は一瞬だけ動きを止める。
ブラッドウルフが迫る。
「しまった!」
蓮は慌てて横へ飛び退いた。
何とか攻撃をかわす。
そして距離を取る。
息を整えながら、蓮は自分を鑑定した。
「鑑定」
『HP:100/100』
『MP:72/100』
「……減ってる」
魔力を動かした。
その直後にMPが減っている。
「やっぱり……魔力を使うとMPを消費する」
そして、身体に残る倦怠感。
「……無理に使い続けるのは危ないな」
蓮は魔力を使うのをやめた。
今はまだ、戦いながら自由に操れるほど慣れていない。
◇
ブラッドウルフが再び動いた。
蓮は槍を握り直す。
今度は魔力を使わない。
相手の動きを見る。
踏み込む瞬間。
身体を低くする。
爪をかわす。
ブラッドウルフが振り返る。
「そこだ!」
蓮の槍が、その胴を正確に捉えた。
ブラッドウルフの動きが止まる。
蓮は槍を引き抜き、すぐに距離を取った。
数歩よろめいたあと――
ブラッドウルフは地面へ倒れた。
「……倒した」
蓮はゆっくりと息を吐く。
槍を下ろした。
そして倒れた魔物を見る。
「……強かった」
2階で戦った魔物とは違う。
速さも、攻撃の鋭さも上だった。
それでも倒すことができた。
そして――
「《生存適応》……」
蓮は、先ほどの瞬間を思い出す。
危険な攻撃が迫ったとき。
身体が、自分の意思より先に動いた。
「……あれが、スキルの力なのか?」
蓮にはまだ分からない。
《鑑定》を使っても、詳細までは分からないだろう。
それでも一つだけ、分かったことがある。
《生存適応》は、危険な状況で何かしらの働きをする。
「……もっと調べないとな」
蓮は倒れたブラッドウルフへ近づいた。
そして、その身体を調べ始めた。




