第41話「魔力を動かす」
MPの存在を知ってから、蓮には一つ気になることがあった。
自分の中に感じていた、あの不思議な力。
あれが本当にMP――魔力だというのなら。
「……動かせるのか?」
蓮はその場に座り、目を閉じた。
身体の中へ意識を向ける。
いつもの感覚。
何かが流れている。
けれど、今まではそれをただ感じていただけだった。
「……これを、動かす」
意識を集中させる。
手へ。
腕へ。
力を集めるようなイメージ。
「……」
何も起こらない。
「やっぱり、そんな簡単にはいかないか」
蓮は一度目を開けた。
だが、諦めるつもりはなかった。
分からないなら試す。
できないなら、やり方を変える。
それが、この一年間ダンジョンで生きてきた中で、蓮が身につけてきたやり方だった。
蓮はもう一度、目を閉じた。
◇
今度は力を無理に動かそうとはしなかった。
身体の中にあるものを探す。
どこから来ているのか。
どこへ流れているのか。
意識を向けていく。
「……ここか?」
胸の奥。
そこから、ゆっくりと何かが流れているような感覚がある。
蓮はその流れを追う。
胸から腕へ。
そして――
手のひらへ。
「……!」
一瞬だけ。
手のひらに、何かが集まったような感覚がした。
蓮は目を開く。
何も見えない。
何も起きていない。
「……気のせい?」
もう一度試してみる。
意識を集中する。
胸の奥から、手のひらへ。
すると、今度ははっきりと感じた。
微かな熱。
「……これか」
蓮は手のひらを見つめた。
何かが出ているわけではない。
光っているわけでもない。
ただ、そこに力が集まっている。
「これが……魔力?」
蓮は慎重にその感覚を追い続ける。
すると――
「……少し、だるい」
倦怠感が出てきた。
蓮はすぐに自分を鑑定する。
『HP:100/100』
『MP:74/100』
「……減ってる」
さっき確認したときより、MPが減っている。
「魔力を動かしただけでも……MPを使うのか?」
蓮は考える。
まだ魔法を使ったわけではない。
何かを飛ばしたわけでもない。
ただ、自分の中にある力を意識して動かしただけ。
それでもMPは減った。
「……なるほど」
蓮は小さく息を吐く。
「魔力を使うっていうのは、こういうことなのかもしれない」
◇
蓮はそれ以上、無理をしなかった。
MPが減れば倦怠感が強くなる。
それは、さっきまでの実験でも分かっている。
なら、今は無理に使う必要はない。
蓮はしばらく休む。
やがて倦怠感が弱くなったところで、もう一度自分を鑑定する。
『MP:79/100』
「戻ってる」
やはり、休めば回復する。
蓮は少し考えた。
魔力は存在する。
MPは、その量を表しているらしい。
そして、魔力を動かすだけでも消費する。
「……でも」
蓮は手のひらを見る。
「まだ、全然使いこなせないな」
今できたのは、魔力を手のひらへ集めることだけ。
それも、ほんの一瞬。
攻撃に使うこともできなければ、何かを変化させることもできない。
魔法と呼べるようなものではなかった。
「まずは……動かせるようになるところからか」
蓮はそう決めた。
◇
立ち上がり、槍を手に取る。
3階の探索は、まだ始まったばかりだ。
ここには、まだ見たことのない場所がある。
まだ知らない魔物もいるだろう。
そして――
自分が知らない力も、まだたくさんある。
「……少しずつでいい」
蓮は槍を握り直した。
魔力を自由に操れるようになる。
そのためにも、まずは自分の身体と、このダンジョンをもっと知る必要がある。
蓮はまだ見ぬ3階の奥へ視線を向けた。
そして、ゆっくりと歩き出した。




