第39話 新たに見えた力
《鑑定》を手に入れてから、蓮は必要なものを少しずつ調べていた。
槍。石。植物。そして、グランウルフから手に入れた牙や毛皮。
鑑定すれば、その物の名前や種類、状態といった基本的な情報が分かる。生き残るための手段が限られている蓮にとって、それは便利な力だった。
だが――
何度か鑑定を使ったところで、蓮は自分の身体に異変を感じた。
「……あれ?」
身体が少し重い。頭も、わずかにぼんやりしている。
「疲れた……?」
戦ったわけではない。重いものを運んだわけでもない。それなのに、身体から何かが抜けていったような感覚がある。
蓮はその場に座り、しばらく身体を休めた。すると、時間が経つにつれて重さは少しずつ消えていった。
「……何だったんだ?」
立ち上がった蓮は、近くに落ちていた石へ目を向ける。確かめるために、もう一度だけ使ってみる。
「……鑑定」
『名称:石』
『種別:素材』
『状態:通常』
情報が浮かんだ直後――
身体に、先ほどと同じ重さを感じた。
「……やっぱり」
蓮はすぐに鑑定をやめた。
「鑑定を使うと……何かを消費するのか?」
何を消費しているのかは、まだ分からない。ただ、続けて使えば身体に負担がかかる。
「今は、使える回数に限界があるってことか……」
正確な仕組みまでは分からない。それでも、無闇に使うべきではないことだけは理解できた。
◇
それから蓮は、《鑑定》を無闇に使わないようにした。使うなら、本当に知りたいものだけ。
そう決めた。
まずは、以前鑑定したグランウルフの牙を、今度は詳しく調べることにした。
『名称:グランウルフの牙』
『種別:素材』
『状態:粗悪』
表示されるのは、以前と同じ情報だけだった。
「これだけじゃ、詳しいことは分からないな……」
蓮は牙を手に取った。指で表面をなぞる。硬い。そして、とても鋭い。
実際に槍の穂先として使ってみる。近くにあった木へ突き刺した。
ズッ。
「……やっぱり硬い」
普通の木なら、かなり深く突き刺さる。蓮は引き抜いた牙を眺めた。
ただ名前を知るだけでは分からない。実際に触って、使って、確かめる。そうして初めて、この素材がどういうものなのか分かってくる。
次に毛皮を調べる。触ってみる。腕に巻いてみる。
「……暖かい」
厚い毛が、しっかりと身体を包む。蓮は毛皮の厚さや手触りを確かめていった。
そして――
もう一度、鑑定する。
『名称:グランウルフの毛皮』
『種別:素材』
『状態:粗悪』
『特徴:高い保温性』
「……増えた」
今までなかった情報が表示されている。蓮は目を細めた。
「ただ鑑定するだけじゃなくて……」
実際に調べる。触る。使う。理解する。
そのことが《鑑定》の成長に関係しているのかもしれない。
その瞬間――
『対象への理解が深まりました』
『スキル《鑑定》が成長します』
『《鑑定 Lv.1》→《鑑定 Lv.2》』
「……!」
蓮は表示を見つめた。
「レベルが……上がった」
何度も使ったからなのか。それとも、物について理解を深めたからなのか。まだ確信はない。
けれど、一つだけ分かった。
《鑑定》は、ただ使うだけで成長するわけではない。対象を知ること。理解すること。
それが関係している。
◇
蓮は、もう一度自分自身へ意識を向けた。
「……鑑定」
すると――
以前とは違う情報が表示された。
『名前:黒瀬 蓮』
『年齢:16歳』
『種族:人間』
『HP:100/100』
『MP:38/50』
『スキル』
『《無限成長》』
『《生存適応》』
『《鑑定 Lv.2》』
「……?」
蓮は表示された数字を見つめた。
「HP……MP……」
初めて見る項目だった。Lv.1のときには表示されていなかった。鑑定のレベルが上がったことで、新しく見えるようになったらしい。
「MP……38?」
蓮は自分の身体に意識を向ける。すると、以前から感じていた不思議な力の流れがあった。
「これが……MPなのか?」
蓮は考える。そして、先ほどまでのことを思い出した。
何度も鑑定を使ったあとに感じた、身体の重さ。
「……もしかして」
鑑定を使うたびに、このMPというものが減っていたのかもしれない。
「だから、使い続けると……身体が重くなったのか」
まだ確信はない。けれど、今まで感じていたことが一つにつながった気がした。
「……MP」
蓮は、その言葉を小さく呟いた。これまで感覚でしか捉えられなかった力。それが初めて、数字として見えた。
蓮はもう一度、自分のステータスを確認する。そして、《鑑定》以外の二つのスキルへ目を向けた。
《無限成長》。《生存適応》。
名前は分かる。けれど、その本当の効果まではまだ分からない。
蓮は思った。
「……鑑定のレベルが上がれば、もっと分かるのかもしれない」
新しく知ったMP。まだ分からない自分のスキル。そして、成長していく《鑑定》。
蓮の中に、新しい目標が生まれていた。




