第34話 牙の槍
翌日。
蓮は再び、グランウルフと戦った場所へ向かっていた。
目的は一つ。
昨日倒したグランウルフの素材を回収するためだ。
しばらく歩くと、昨日の場所が見えてきた。
「……まだある」
グランウルフは、昨日と同じ場所に倒れていた。
蓮は周囲を警戒しながら近づく。
魔物の気配はない。
「よし……」
蓮はグランウルフの身体を調べ始めた。
まず目についたのは――
鋭い牙。
そして、分厚い毛皮だった。
「これ……使えそう」
蓮は牙に手をかけた。
引っ張る。
「……っ!」
抜けない。
「硬いな……」
もう一度、力を込める。
それでも、びくともしない。
牙は思っていた以上にしっかりと顎に固定されていた。
「これ、どうやって取るんだ……」
蓮は一度手を離した。
少し考えてから、周囲にある硬い石を拾う。
牙の根元を確認しながら、少しずつ動かしていく。
何度も角度を変える。
力を入れすぎれば牙を傷つけてしまう。
かといって、弱ければ動かない。
「……くっ」
しばらく格闘したあと――
ガキッ。
「……!」
ようやく牙が動いた。
蓮はさらに慎重に力を加える。
そして――
スポッ。
「……取れた」
手の中には、一本の鋭い牙。
先端は鋭く、想像以上に硬い。
蓮は今使っている槍を見る。
何度も魔物と戦ったことで、穂先には傷が増えていた。
「これなら……」
牙を槍に合わせてみる。
大きさも悪くない。
何より、この鋭さならそのまま穂先として使えそうだった。
◇
蓮は周囲を見回した。
そして、近くに生えていた細長い植物を何本か採った。
この植物は細いわりに丈夫だ。
一度きつく縛ると、簡単にはほどけない。
これまでにも、食料をまとめたり、道具を固定したりするのに使っていた。
「これなら固定できる」
蓮は今使っている槍の穂先を外した。
そして、グランウルフの牙を柄の先に合わせる。
根元を差し込み、その周囲に植物を何重にも巻いていく。
ぎゅっ。
さらに締める。
もう一度。
最後にしっかりと結んだ。
「……これでいいかな」
蓮は完成した槍を持ち上げた。
見た目はかなり変わった。
普通の槍とは違う。
グランウルフの牙を、そのまま穂先として利用した粗末な武器だ。
けれど――
「試してみるか」
蓮は近くの硬い木へ向かって槍を突き出した。
ズッ。
「……!」
牙が木へ深く食い込んだ。
以前の槍とは明らかに違う。
「……刺さる」
蓮は槍を引き抜く。
もう一度、突く。
今度も深く入った。
「これなら、前より戦いやすい」
蓮は新しくなった槍を見つめた。
グランウルフに勝っただけではない。
その魔物から得たものを、自分の力に変えられた。
「……使えるものは、使わないとな」
◇
蓮は残りの牙も回収することにした。
一本だけではなく、使えそうなものはできるだけ持って帰る。
そして、分厚い毛皮にも目を向けた。
「これも使えそうだな」
この厚さなら、防寒や敷物に使えるかもしれない。
肉も必要な分だけ処理して持ち帰る。
すべてを無駄にはしない。
◇
帰り道。
蓮は新しくなった槍を何度も見た。
グランウルフの牙。
自分が初めて倒した強敵の素材。
「……これからも、こうやって使えるものを探そう」
ダンジョンには危険な魔物がいる。
けれど――
生き残るために利用できるものもある。
蓮はそう考えながら歩いた。
◇
寝床へ戻ると、蓮は新しい槍を壁に立てかけた。
そして、岩壁に刻んだ地図を見る。
これまで歩いてきた場所。
まだ探索していない場所。
蓮は残された空白を指でなぞった。
「……この先に、階段があるかもしれない」
この階層をかなり探索してきた。
それでも、まだ階段は見つかっていない。
なら――
残っている場所を探すしかない。
「……明日は、こっちを探してみよう」
蓮は新しい槍を見る。
グランウルフとの戦いを終えた今、次の目的は決まった。
この階層の階段を見つける。
そして――
下へ進む。
蓮は槍を手に取り、明日の探索に備えた。




