第33話 勝利のあと
魔物が地面に倒れている。
蓮はしばらく、その場から動けなかった。
「……勝った」
何度呟いても、まだ実感が湧かない。
つい数週間前まで、あの魔物から逃げることしかできなかった。
それが今は――
自分の槍で倒した。
蓮はゆっくりと近づく。
念のため、まだ動いていないことを確認する。
「……もう、動かない」
蓮はようやく肩の力を抜いた。
◇
蓮魔物の身体を調べ始めた。
まず目についたのは、鋭い牙。
そして、分厚い毛皮。
「これ……使えるかも」
今まで倒してきた魔物とは明らかに違う。
毛皮は丈夫で、傷も少ない。
食べられる部分もあるかもしれない。
けれど――
「……今日は無理だな」
今の蓮には、解体するだけの体力が残っていなかった。
蓮は魔物の場所を覚え、その場を離れることにした。
◇
帰り道。
蓮は何度も自分の身体を確認していた。
疲れている。
傷もある。
それでも――
以前なら、これほど動き続けることはできなかった。
「……また変わってる」
戦いの中で《生存適応》が働いた。
そして、自分は勝った。
蓮は歩きながら考える。
「危険になるたびに……身体が変わる」
まだ確信ではない。
けれど、少しずつ分かってきた。
生き残るために必要なものが、自分の身体に加わっている。
「……じゃあ」
蓮は足を止めた。
もし、もっと危険な場所へ行ったら。
もっと強い魔物と戦ったら。
「もっと強くなれるのかな」
少しだけ期待する。
けれど、すぐに首を振った。
「……無理して死んだら意味ない」
強くなることよりも、まず生き残ること。
それが今の蓮にとって一番大切だった。
◇
寝床へ戻った蓮は、火を起こした。
槍を横に置く。
そして、火を見つめながら先程の戦いを思い返した。
最初は怖かった。
今でも怖い。
それでも――
「……次は、もっと上手く戦える」
そう思えた。
数週間前の自分とは違う。
何度も魔物と戦い、何度も傷つき、そのたびに生き残ってきた。
その積み重ねが、今の自分を作っている。
◇
蓮は寝床の近くにある岩壁へ目を向けた。
そこには、これまでの探索で自分が刻んできた地図がある。
歩いた場所。
魔物と遭遇した場所。
危険だった場所。
少しずつ増えてきた線を、蓮は指でなぞった。
「……ここは行った」
これまで歩いてきた場所を確認していく。
そして、まだ線が刻まれていない場所へ目を向ける。
「……この先に、階段があるかもしれない」
この階層をかなり探索してきた。
それでも、まだ見つけていない。
なら――
残っている場所を探すしかない。
「……行ってみよう」
蓮は槍を手に取った。
リベンジ終えた今、次の目的は決まった。
この階層の階段を見つける。
そして、下へ進む。
蓮は岩壁に刻まれた地図を最後にもう一度確認すると、まだ見ぬ場所へ向かって歩き始めた。




