第32話 勝利への一歩
魔物が唸る。
蓮は槍を構えた。
腕が痛い。
身体も重い。
それでも――
前回とは違う。
魔物の動きが、少しずつ見えている。
「……焦るな」
蓮は自分に言い聞かせた。
魔物が動く。
蓮はすぐには動かない。
踏み込み。
身体の向き。
前脚。
「……まだ」
魔物が跳ぶ。
「今!」
蓮は横へ飛んだ。
爪が空を切る。
そして着地した瞬間。
蓮は槍を突き出した。
ザシュッ!
「グルァッ!」
槍が前脚を捉えた。
魔物の動きが止まる。
「……入った!」
蓮はすぐに槍を引き抜く。
距離を取る。
追撃はしない。
焦ればやられる。
それは前回の戦いで嫌というほど分かっていた。
◇
魔物が怒りに任せて突っ込んでくる。
速い。
だが――
蓮には見えていた。
「右……!」
身体をひねる。
爪を避ける。
そのまま一歩後ろへ下がる。
魔物が振り返る。
蓮は槍を構えた。
「……ここだ」
魔物が再び踏み込む。
蓮はギリギリまで待った。
そして――
身体を低くする。
魔物の腹の下を狙う。
「はあっ!」
槍を突き上げた。
「グルァァッ!」
深く入った。
魔物が大きく身体をよろめかせる。
蓮は槍を抜いて距離を取った。
魔物はまだ立っている。
「……まだか」
蓮は息を整えた。
怖い。
けれど、もう逃げない。
◇
魔物が最後の力を振り絞る。
身体を低くする。
蓮も構える。
「……来い」
魔物が地面を蹴った。
一直線。
蓮は動かない。
ギリギリまで引きつける。
そして――
「今!」
一歩横へ。
爪が空を切る。
魔物の身体が蓮の横を通り過ぎる。
その瞬間。
蓮は全力で槍を突き出した。
「これで……!」
槍が深く突き刺さる。
魔物の動きが止まった。
そして――
ゆっくりと地面へ倒れた。
◇
蓮は動かなかった。
槍を握ったまま、倒れた魔物見る。
「……」
まだ信じられない。
前回は、何もできなかった。
逃げることしかできなかった。
それが今は――
「……勝った」
蓮はゆっくり息を吐いた。
身体中が痛い。
疲れている。
それでも、不思議と嬉しかった。
「……勝てた」
蓮は魔物を見つめる。
強敵だった。
自分より強かった。
それでも勝てたのは――
ただ身体が変わったからではない。
何度も魔物と戦った。
何度も失敗した。
逃げた。
考えた。
そして、生き残った。
「……少しずつなら」
蓮は槍を握り直した。
「もっと強くなれる」
この勝利は、蓮にとって――
長い成長の始まりに過ぎなかった。




