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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第3話 洞窟

 どこへ行くのか。


 蓮自身にも分からなかった。


 ただ、家にいることだけが苦しかった。


 歩いているうちに、いつの間にか街を離れていた。


 住宅街を抜ける。


 人の姿が減っていく。


 やがて舗装された道もなくなり、山へ続く細い道を歩いていた。


「……ここ、どこだろ」


 蓮は立ち止まった。


 見慣れない場所だった。


 けれど、戻る気にはなれなかった。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 鳥の声が聞こえる。


 それだけだった。


 蓮はしばらく山道を歩き続けた。


 そして――


「……ん?」


 木々の向こうに、黒いものが見えた。


 岩壁。


 その中央に、大きな穴が開いている。


「洞窟……?」


 蓮は近づいた。


 入り口は、人が一人なら十分通れるほどの大きさだった。


 周囲には案内板もない。


 柵もない。


 人が訪れた形跡すらなかった。


「こんなところに……?」


 蓮は洞窟の中を覗き込んだ。


 真っ暗だった。


 何も見えない。


 冷たい風が、奥から吹いてくる。


 ――ひゅう。


「……」


 蓮は少しだけ迷った。


 本来なら、入るべきではない。


 そんなことは分かっていた。


 けれど。


 今の蓮には、帰る場所がなかった。


 戻っても、一人。


 家にいても、一人。


 どこにいても、両親のいない現実を思い出す。


 だったら。


「……少しだけ」


 蓮は洞窟の中へ足を踏み入れた。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 外の光が遠ざかっていく。


「……暗いな」


 振り返る。


 入り口から差し込む光が見える。


 まだ戻れる。


 そう思った。


 さらに数歩進んだ、その瞬間だった。


 ――ゴォン。


「……え?」


 地面が揺れた。


 洞窟全体が震える。


「な、何……?」


 蓮は慌てて入り口へ振り返った。


 そして。


「……嘘だろ」


 そこにあったはずの出口が消えていた。


「……え?」


 岩壁。


 完全な岩壁。


 さっきまで確かにあった入り口が、最初から存在しなかったかのように塞がっている。


「待って……」


 蓮は走った。


 岩壁に手をつく。


「開け!」


 叩く。


 何度も叩く。


「誰か!」


 声が洞窟の奥へ響く。


「誰かいませんか!」


 返事はない。


 蓮は必死に岩を押した。


 動かない。


「……なんで……」


 息が荒くなる。


「なんでだよ……」


 蓮はその場に座り込んだ。


 頭が追いつかない。


 ついさっきまで、外にいた。


 ただ歩いていただけだった。


 なのに。


 今は――


 完全に閉じ込められている。


「……帰れない?」


 その言葉を口にした瞬間。


 胸の奥が締めつけられた。


 帰る。


 帰ったところで誰もいない。


 それでも。


 外には人がいる。


 学校がある。


 美月がいる。


 日常がある。


「……帰りたい」


 蓮は小さく呟いた。


 しかし、出口は開かない。


 暗闇の中。


 十五歳の少年は一人だった。


 時計を見る。


 まだ夕方だった。


 スマートフォンの電波はない。


 充電も、いつまで持つか分からない。


 食べ物もない。


 水もない。


「……どうしよう」


 蓮は立ち上がった。


 暗闇の奥を見る。


 出口はない。


 なら、奥へ進むしかない。


「……行くしかない」


 蓮はスマートフォンのライトをつけた。


 小さな光が、暗闇を照らす。


 その先には、見たこともない洞窟が続いていた。


 岩。


 水。


 そして――


 何かの足跡。


「……?」


 蓮は足を止めた。


 大きい。


 人間のものではない。


 それでも、まだ蓮は知らなかった。


 この洞窟がただの洞窟ではないことを。


 この先に、自分の知っている世界とはまったく違うものが存在していることを。


 そして――


 ここから始まる十年間が。


 自分の人生を完全に変えてしまうことを。


 蓮はまだ、何も知らなかった。


 ただ一つ。


 生きて外へ帰る。


 そのために。


 十五歳の少年は、暗闇の奥へ歩き始めた。

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