第26話 あのときの声
翌朝。
蓮はゆっくりと目を覚ました。
「……朝か」
身体を起こす。
昨日受けた傷は、まだ残っている。
けれど――
「……痛みが、かなり減ってる」
肩を動かしてみる。
昨日は動かすだけでも痛かった。
それなのに、今は普通に動かせる。
蓮は傷口を確認した。
明らかに治りが早い。
「……やっぱり、おかしい」
身体も軽い。
昨日の戦いであれだけ動いたのに、思っていたほど疲れが残っていない。
蓮は立ち上がった。
そして、昨日の戦いを思い出す。
グランウルフ。
圧倒的な速さ。
鋭い爪。
何度攻撃しても、なかなか通らなかった。
そして――
「……そういえば」
蓮は足を止めた。
昨日、戦っている途中。
身体の奥から熱が広がった。
視界が急に鮮明になった。
そのとき――
「何か……言ってたよな」
蓮は目を閉じた。
戦いに夢中だった。
だから、はっきりとは覚えていない。
ただ、確かに何か聞こえた。
「……何だったんだろう」
◇
蓮はしばらく考えた。
すると、別の記憶が浮かんできた。
「あ……」
スライムを倒したとき。
あのときも、頭の中に声が響いた。
魔物を倒したあとに聞こえた、あの不思議な声。
何かを獲得したという内容だった。
「……あのときの声と同じ?」
蓮は考える。
もしそうなら――
昨日聞こえた声も、何かの続きなのかもしれない。
「……でも」
昨日は、何と言っていた?
思い出そうとする。
けれど、記憶が曖昧だ。
「……うーん」
蓮は頭を抱えた。
◇
そして、もう一つ。
蓮はダンジョンに入ったときのことを思い出した。
「……そういえば、あのときも何か聞こえたような」
ダンジョンに入った直後。
頭の中に何かが響いた。
あのときも、意味を考える余裕なんてなかった。
ただ、何かの言葉だった。
「……無限成長?」
蓮は首を傾げた。
「だったような……」
自信はない。
本当にそう聞こえたのかすら曖昧だ。
ダンジョンに入ってから、まだ長い時間が経ったわけではない。
それでも、毎日を生きることで精一杯だった。
聞こえた声を、一つ一つ覚えている余裕なんてなかった。
「……無限成長」
もう一度、呟く。
何となく、その言葉だけが頭に残っている。
そして昨日。
グランウルフとの戦いで聞こえた声。
「……全部、繋がってるのかな」
蓮にはまだ分からない。
スライムを倒したときに聞いた声。
ダンジョンに入ったときに聞いた気がする声。
そして昨日の戦い。
何かが繋がっているような気はする。
けれど、その正体はまだ見えない。
◇
蓮は自分の手を握った。
昨日から、身体が変わっている。
傷の治りが早い。
身体が軽い。
力も増している。
そして、戦闘中には魔物の動きが以前よりはっきり見えた。
「……まずは、自分の身体を調べてみよう」
何が起きたのか分からないなら、自分で確かめるしかない。
蓮は槍を手に取った。
昨日は負けた。
だからこそ、今の自分がどれだけ変わったのか知りたい。
「……次は、勝つ」
蓮はそう呟き、寝床を出た。
まだ知らない。
昨日の敗北をきっかけに――
蓮の身体は、少しずつ別の段階へ進み始めていた。




