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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第25話 初めての変化

 「……何だ……これ……」


 心臓が強く脈打つ。


 傷口が熱い。


 呼吸が変わる。


 視界が少しずつ鮮明になっていく。


 魔物の動きが――


 さっきより、はっきり見える。


「……見える」


 蓮は自分でも驚いていた。


 さっきまで、目で追うことすらできなかった魔物の動きが見える。


 前脚の動き。


 身体の向き。


 踏み込む瞬間。


 次にどこへ来るのか。


 少しだけ分かる。


「これなら……」


 蓮は槍を握り直した。


 魔物が地面を蹴る。


 蓮は右へ動こうとした。


 けれど――


「……っ!」


 身体が遅れた。


 頭では分かっている。


 右へ避ければいい。


 それなのに、身体が思うようについてこない。


 爪が蓮の腕をかすめる。


「痛っ!」


 蓮は転がるようにして距離を取った。


「……なんで……」


 もう一度、魔物が迫る。


 今度は左。


 蓮は必死に身体を動かした。


 ギリギリで避ける。


 爪が背後の岩を砕いた。


「……避けられた」


 さっきより動けている。


 けれど、自分がどうやって避けたのか分からない。


 身体が勝手に動いたような感覚だった。


     ◇


 魔物が振り返る。


 再び蓮へ向かってくる。


「来る……!」


 蓮は槍を構えた。


 魔物の動きが見える。


 今なら攻撃できる。


 そう思った。


 魔物が飛びかかってくる。


「ここ!」


 蓮は槍を突き出した。


 しかし――


 狙いがずれた。


 槍は魔物の肩を浅く傷つけただけだった。


「……くそっ!」


 魔物が咆哮する。


 次の瞬間、巨大な前脚が振り下ろされた。


 蓮は避けようとする。


 しかし遅い。


 ドンッ!


「ぐあっ!」


 身体が吹き飛んだ。


 地面を何度も転がる。


 槍が手から離れた。


「……っ……」


 痛い。


 息が苦しい。


 身体が動かない。


 蓮は必死に起き上がろうとした。


 けれど、魔物はすぐそこまで迫っている。


「……まだ……」


 蓮は槍を見る。


 拾わなければ。


 けれど、足に力が入らない。


 魔物が身を低くする。


 また来る。


 蓮は悟った。


「……勝てない」


 さっきより見える。


 さっきより身体も動く。


 それでも――


 まだ足りない。


「逃げないと……」


 蓮は地面を蹴った。


 転がるように槍を拾う。


 そして走った。


     ◇


 来た道を必死に戻る。


 後ろから魔物の足音が響く。


 ズシン。


 ズシン。


 距離が縮まる。


「はぁ……はぁ……!」


 蓮は必死に走った。


 細い通路へ入る。


 魔物の身体が引っかかる。


 その隙に蓮はさらに走った。


 何度も曲がる。


 何度も振り返る。


 そして――


 ようやく魔物の気配が遠ざかった。


     ◇


 蓮は岩陰に倒れ込んだ。


「……はぁ……はぁ……」


 しばらく動けなかった。


 身体中が痛い。


 肩から血が流れている。


 それでも、生きている。


 蓮は自分の手を見つめた。


「……さっきのは、何だったんだ?」


 身体の奥に感じた熱。


 突然鮮明になった視界。


 以前より動けた身体。


 どれも今までにはなかったものだ。


 けれど、蓮にはまだ分からない。


 自分の身体に何が起きたのか。


 どうすれば、あの力を使えるのか。


 何も分からない。


 ただ一つだけ。


 はっきりしていることがある。


「……次は勝つ」


 蓮は魔物が消えた方向を見つめた。


 今は勝てない。


 だから――


 もっと強くなる。


 生き残るために。


 そして、いつか必ず。


 あの魔物に勝つために。

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