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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第四部 アストラ編

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226/559

第226話 前に立てる人に

 それから玲奈は、何度もダンジョンへ入った。


 最初のうちは、周囲を意識するだけで動きが遅れた。自分の相手を見ながら仲間の位置を確認し、敵が動けばその先まで考える。それまでなら自然に振れていた剣が、考えることが増えた途端に重くなったように感じることもあった。


 それでも、玲奈は続けた。


 自分の相手を倒すだけではなく、前線全体を見る。追える相手でも、自分が動けば後ろが空くなら残る。逆に仲間が位置を変えれば、その空いた場所へ自分が入る。


 少しずつ、それができるようになっていった。


「玲奈、左抜ける!」


「分かった!」


 仲間の声に反応し、玲奈が一歩横へ動く。


 魔物が通ろうとした場所へ先に入り、剣で攻撃を受け流す。以前ならそのまま反撃して追いかけていたところで、玲奈は足を止めた。


 後ろを見る。


 二人ともいる。中央も崩れていない。


「今!」


 玲奈が声を上げる。


 後方から攻撃が入り、魔物の体勢が崩れた。そこで初めて玲奈が踏み込み、剣を振り抜く。


 魔物が岩床へ倒れた。


「次、右!」


「うん!」


 玲奈はすぐに次の位置へ動く。


 以前より倒すまでに時間がかかることもある。けれど、不思議と焦らなくなっていた。


 自分が一番早く敵を倒す必要はない。パーティーが崩れなければ、それでいい。


      ◆


 依頼を終えてギルドへ戻った日。


「玲奈」


 後ろから名前を呼ばれた。


 振り返った玲奈は、少し目を見開く。


「……もう大丈夫なの?」


 そこにいたのは、あの日怪我をした仲間だった。


 まだ完全に元通りというわけではないらしい。動きには少し慎重さが残っている。それでも、自分の足で普通に歩いていた。


「もう日常生活なら問題ないって」


「ダンジョンは?」


「まだ止められてる」


「そっか」


「そんな顔するなよ」


「どんな顔?」


「今にも謝りそうな顔」


 言われて、玲奈は黙った。


 仲間が少し笑う。


「やっぱり」


「……ごめん」


「ほら」


「でも」


 玲奈はそこで言葉を止めた。ずっと言わなければならないと思っていた。


「あの日、私が追わなかったら――」


「玲奈」


 言葉を遮られる。


「お前が前に出たことで、あそこが空いたのは事実だよ」


「……うん」


「でも、それだけが全部じゃない。こっちも対応できると思ってたし、戦ってた全員に判断する場面があった」


 玲奈は何も言わない。


「だから、反省するなって言ってるんじゃない」


「…………」


「ずっと自分だけを責め続けるのは違うって言ってるの」


 玲奈はしばらく俯いていた。


「最近、一緒に入った人から聞いたよ」


「何を?」


「玲奈、戦い方変わったって」


「……誰から?」


「秘密」


「何それ」


 少しだけ、以前のように言葉が返った。


 相手も笑う。


「前より周りを見るようになったって」


「まだ全然だけど」


「それなら、それでいいんじゃない?」


 玲奈は自分の手を見る。


「私ね」


「うん」


「前は、強くなればいいと思ってた」


「知ってる」


「敵を早く倒せれば、それだけ役に立てるって」


「うん」


「今も強くなりたいのは変わらない」


 剣が上手くなりたい。もっと強い魔物とも戦えるようになりたい。その気持ちまでなくなったわけではない。


「でも、それだけじゃ足りないんだって思った」


 玲奈はゆっくり顔を上げる。


「私が前にいる時、後ろには誰かいるから」


 仲間は何も言わずに聞いていた。


「あの日みたいに、後ろへ抜かれてから追いかけるんじゃなくて、その前に止めたい」


「うん」


「みんなが自分で戦えるのは分かってる。でも、それでも」


 玲奈は少し考えた。


 そして、ようやく言葉にする。


「私は、前に立てる人になりたい」


 敵を一番倒す人ではない。一番目立つ人でもない。


 自分の後ろに誰かがいるなら、その人たちより前に立つ。敵が抜けようとするなら、まず自分がそこにいる。


 今の玲奈には、それが一番しっくりきた。


「そっか」


 仲間が笑う。


「玲奈らしいんじゃない?」


「そうかな」


「少なくとも、前よりは安心して後ろにいられそう」


「……それ褒めてる?」


「褒めてるよ」


 玲奈も少し笑った。


      ◆


 それからも、玲奈は剣を振り続けた。


 強くなりたいという気持ちは変わらない。けれど、見るものは増えた。


 自分の前にいる敵だけではない。隣で戦う仲間。後ろにいる仲間。誰が疲れているのか、誰に余裕があるのか、どこが空けば危ないのか。


 最初からできたわけではない。失敗もしたし、間に合わなかったこともある。それでも繰り返すうちに、少しずつ身体へ染み込んでいった。


 敵が後ろへ抜ければ、考えるより先に身体が動く。仲間が疲れていれば、自然とその様子を見る。


 いつの間にか、それは玲奈にとって特別なことではなくなっていた。


 敵を倒すためだけではない。


 自分の後ろにいる誰かを守れるように。


 前に立つ。


 それが、玲奈の戦い方になった。

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― 新着の感想 ―
 過去回想は、少し短めに纏めた方が本文に戻りやすいと思います。  これが物語の本筋ならば別ですが『こういう事が有った』の『説明』ですので……重点を厚く流れはそれなりに、の方がテンポを乱さずにすむかと。
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