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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第四部 アストラ編

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第223話 一瞬の判断

 三体の魔物が、低い唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。


 玲奈たちはすぐに位置を整えた。昨日玲奈を誘った男が中央の前。玲奈がその左側へ出る。残る二人は少し後ろに位置取り、前の二人を支援できる距離を保った。


「来るぞ」


「うん」


 三体が地面を蹴った。


 一体は玲奈へ。


 一体は中央の男へ。


 残る一体は少し右へ広がりながら、こちらの様子を窺っている。


 玲奈は一度だけ周囲を確認した。


 男も正面の一体を受け止めている。後ろの二人も動けている。右側の一体も、まだ飛び込んではこない。


 問題ない。


 玲奈は自分の正面へ意識を戻した。


 魔物の爪が振るわれる。


 玲奈は半歩横へ動き、剣で攻撃を外へ流した。そのまま身体の崩れたところへ踏み込み、横腹を斬る。


 刃が深く入った。


「よし」


 魔物が苦しそうな声を上げて後退する。


 さっきまでの戦闘より、きれいに決まった。


 訓練してきた動きが、実戦でも自分のものになり始めている。


 玲奈はすぐに周囲を見る。


 中央はまだ崩れていない。


 右側の一体も、仲間たちの様子を窺うように動いているだけだ。


 玲奈の相手はすでに傷を負っている。


 あと一撃。


 そう思った。


      ◆


 玲奈が前へ出る。


 魔物はさらに数歩後ろへ下がった。


「玲奈、追いすぎるな!」


 中央から声が飛ぶ。


「大丈夫!」


 玲奈にも聞こえていた。


 無理に追うなと言われていたことも覚えている。


 それでも、目の前の魔物はもう弱っていた。


 ここで倒せる。


 倒してしまえば、すぐに戻れる。


 ほんの数歩だった。


 玲奈はもう一度踏み込む。


 魔物が爪を振るう。


 受け流す。


 身体が開いた。


「っ!」


 玲奈の剣が横腹を深く斬り裂く。


 魔物が岩床へ倒れた。


 今度こそ動かない。


「やった――」


 玲奈はすぐに振り返った。


 その瞬間。


「後ろ!」


 仲間の声が響いた。


「え?」


 玲奈がいたはずの場所。


 左側の前衛。


 そこが大きく空いていた。


 先ほどまで右側にいた三体目の魔物が、その空いた場所へ回り込んでいる。


 玲奈が敵を追って数歩前へ出たことで、前と後ろの間に道ができていた。


「っ!」


 玲奈が走り出す。


 魔物はすでに後方の二人へ向かっていた。


「そっち行った!」


 一人が武器を構える。


 もう一人もすぐに距離を取ろうとする。


 無防備ではない。


 まだ間に合う。


 玲奈はそう思った。


 だが、中央でも戦闘は続いている。


「くっ……!」


 男が正面の魔物の攻撃を受け流し、一歩横へ動いた。


 その魔物まで、後方へいる仲間を視界に捉える。


「まずい!」


 男がすぐに追う。


 一体目は、玲奈の空けた場所から後方へ。


 もう一体も中央から横へ流れたことで、後ろにいた仲間の近くへ寄っていく。


「二体……!」


 後方にいた仲間の声が上がる。


 一体目の爪を武器で受ける。


 金属音が響いた。


 身体がよろめく。


 そこへ、もう一体が踏み込んだ。


「待って!」


 玲奈は走る。


 距離が縮まる。


 剣を伸ばせば届きそうなところまで来た。


 けれど。


 ほんの少しだけ、遅かった。


「――っ!」


 魔物の爪が振り抜かれる。


 鈍い音が響いた。


 仲間の身体が岩壁へ叩きつけられる。


「……え」


 玲奈の足が一瞬止まりかけた。


 壁を滑るように仲間が倒れる。


 服が裂け、その下から赤いものが広がっていく。


「玲奈! 止まるな!」


 男の声が飛んだ。


「……っ!」


 玲奈は我に返る。


 仲間へさらに近づこうとしている魔物の前へ飛び込んだ。


「行かせない!」


 振るわれた爪を剣で受ける。


 もう一度、後ろへ行かせてはいけない。


 そのことしか考えられなかった。


 横から別の魔物が動く。


 玲奈はそちらにも目を向ける。


「玲奈、そのまま押さえて!」


「うん!」


 男が追いついた。


 残っていたもう一人の仲間も加わる。


 三人で二体を相手にする。


 今度は玲奈も前から動かなかった。


 魔物が横へ逃れようとすれば塞ぐ。


 後ろへ抜けようとすれば剣を合わせる。


 しばらくして一体が倒れ、最後の一体も男の攻撃を受けて岩床へ崩れた。


      ◆


「大丈夫!?」


 最後の魔物が倒れた瞬間、玲奈は剣を置いて、倒れている仲間へ駆け寄った。


「おい、聞こえるか!」


 男もすぐにしゃがみ込む。


「……う……」


 かすかな返事があった。


 意識はある。


 けれど、脇腹から血が流れている。


「血……」


 玲奈の声が震えた。


「止血する。玲奈、荷物!」


「う、うん!」


 玲奈はすぐに荷物を開く。


 だが、手が思うように動かなかった。


「これ?」


「違う、そっちじゃない。止血用の!」


「ごめん!」


 慌てて取り出し、渡す。


 男が傷口を確認しながら応急処置を始める。


「……大丈夫?」


 玲奈が聞く。


 返事はない。


「大丈夫、だよね?」


「今は喋らせるな」


「でも……」


「意識はある。まず血を止める」


「……うん」


 玲奈は黙った。


 目の前にいる仲間を見る。


 少し前まで普通に話していた。


 自分の戦いも順調だった。


 目の前の魔物も、ちゃんと倒した。


 それなのに、今は仲間が血を流している。


「…………」


 頭の中で、さっきの戦闘が何度も繰り返される。


 傷ついた魔物が下がった。


 あと一撃だと思った。


 数歩だけ追った。


 倒して、振り返った。


 そこにはもう、魔物が抜けていた。


「玲奈」


 男に呼ばれる。


「……何?」


「戻るぞ」


「うん」


「歩ける奴で交代しながら運ぶ」


「私が運ぶ」


 玲奈はすぐに言った。


「玲奈」


「私が運ぶ」


 もう一度、同じ言葉を口にする。


 男は玲奈を少し見たあと、何も言わず頷いた。


「分かった。途中で無理だと思ったらすぐ言え」


「うん」


 玲奈は倒れている仲間のそばへしゃがみ込んだ。


 さっきまで剣を握っていた手が、まだ少し震えている。


 自分は今日、うまく戦えていた。


 そのはずだった。


 なのに、仲間が怪我をした。


 玲奈にはまだ、その二つがうまくつながらなかった。

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― 新着の感想 ―
作者さま ----- 魔物の爪が振り抜かれる。 鈍い音が響いた。 仲間の身体が岩壁へ叩きつけられる ----- 一撃というか、一発で沈んだね 回復職or支援職なら、自分が最初にやられたらダメだって自覚…
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