第222話 いつも通りの依頼
翌日。
玲奈は約束した時間より少し早くギルドへ着いていた。
「早いな」
声を掛けてきたのは、昨日玲奈を誘った男だった。
「楽しみだったから」
「遠足じゃないんだぞ」
「分かってるって」
玲奈が笑う。
今日のメンバーは四人。玲奈と、昨日声を掛けてきた男。それから、これまでにも何度か一緒に依頼を受けたことのある二人だった。
全員が初対面というわけではない。何度か一緒に戦ったこともあり、それぞれが何を得意としているのかも大体分かっている。
「今日は指定された魔物を倒して、素材を持ち帰る。それで終わりだ」
「うん」
「今日も前、頼むぞ」
「任せて」
玲奈がすぐに答える。
男は少し笑った。
「ただ、夢中になりすぎるなよ」
「分かってる」
「ならいい」
それ以上は言われなかった。
玲奈自身も、自分が戦闘になると少し前へ出たくなることは分かっていた。ただ、それで仲間を無視しているつもりはなかったし、以前注意されたことも覚えている。
今日はちゃんと周囲も見る。
そのうえで、昨日まで練習していた動きを試したい。
玲奈が考えていたのは、そのくらいだった。
「じゃあ行くか」
「うん」
四人はギルドを出た。
◆
ダンジョンへ入ってからも、特に変わったことは起きなかった。
薄暗い通路が続き、時折魔物の鳴き声が遠くから聞こえる。
今日の玲奈は前寄りの位置を歩いていた。完全な先頭ではなく、先頭を歩く男の少し後ろ。敵が現れれば、すぐに前へ出られる位置だ。
「右」
後ろから声が飛ぶ。
玲奈が視線を向けると、岩陰から小型の魔物が二体姿を現した。
「二体!」
「玲奈、一体任せる!」
「うん!」
玲奈が剣を抜く。
一体が先頭の男へ向かい、もう一体が玲奈へ飛びかかってきた。
爪が振るわれる。
玲奈は半歩身体をずらし、剣で攻撃を外へ流す。そのまま踏み込み、魔物の横腹を斬った。
一撃では倒れない。
玲奈は無理に追わず、魔物の動きを見る。
もう一度飛び込んできたところを受け流し、そのまま二撃目を入れた。
魔物が倒れる。
玲奈はすぐに顔を上げた。
もう一体。
仲間の位置。
周囲に新しい魔物はいない。
「今度はちゃんと見てるな」
男が、もう一体の魔物を倒しながら言った。
「言われたからね」
「覚えてたか」
「当たり前でしょ」
玲奈は少し得意そうに笑う。
それから、自分が倒した魔物へ一度だけ視線を戻した。
最近練習していた動きだった。
攻撃を正面から受けず、横へ流して反撃する。
訓練では何度も成功していたが、実戦でもきれいに決まった。
「うまくできた」
「確かに今のはよかったな」
「でしょ?」
玲奈の顔に笑みが浮かぶ。
周囲も見た。
仲間の位置も確認した。
そのうえで、自分の剣も前よりうまくなっている。
それが嬉しかった。
◆
その後も、何度か魔物と遭遇した。
危険な相手はいない。玲奈たちが普段から戦っている程度の魔物ばかりだった。
「玲奈、左お願い!」
「任せて!」
二体。
三体。
数が増えても、玲奈は落ち着いて動いた。
剣を振る。
避ける。
受け流す。
反撃する。
一体を倒したら、次に周囲を見る。
以前よりも、戦闘中に見えるものは増えていた。
「今日、調子いいじゃん」
戦闘が終わったあと、一人が玲奈へ声を掛ける。
「でしょ?」
「最近ずっと訓練してたもんな」
「まだまだだけどね」
「十分動けてるよ」
褒められ、玲奈は嬉しそうに笑った。
もっと上手くなれる。
もっと強くなれる。
今日の玲奈には、そんな手応えがあった。
「あと何体?」
「二体だな」
「もうそんなに倒した?」
「順調だからな」
先頭の男が素材を確認する。
「このままなら予定より早く終われそうだ」
「じゃあ、帰ったら訓練できる」
「まだやるのかよ」
「だって時間余るでしょ」
「元気だなあ」
仲間たちが笑った。
玲奈も一緒になって笑う。
依頼は順調だった。
誰も怪我をしていない。
体力にも余裕がある。
何も問題はなかった。
◆
「あと一体」
しばらくして、男が言った。
「これ倒したら終わり?」
「そうだな。素材を確認したら戻る」
「分かった」
玲奈は剣を握り直す。
今日覚えた動きも試せた。前よりうまく戦えるようになっていることも分かった。
十分なはずだった。
それでも、あと一度くらい戦いたいという気持ちは残っている。
「反応ある」
後ろを歩いていた仲間が足を止めた。
「どこ?」
「前。少し先に二体……いや、三体」
四人が足を止める。
通路の先は曲がっていて、まだ姿は見えない。
「種類は?」
「待って」
誰も前へ出ない。
玲奈も剣の柄へ手を置いたまま、その場で待った。
少しして、低い鳴き声が聞こえる。
やがて通路の先から、三体の魔物が姿を現した。
玲奈が目を細める。
「さっきと同じ種類」
「ああ」
先頭の男も確認する。
「三体なら、いつも通りでいける。玲奈、一体頼む」
「うん」
「無理に追うなよ」
「分かってる」
玲奈は剣を抜いた。
三体とも、これまでに何度も戦ったことのある魔物だった。数も、四人で対処できる範囲。
戦う判断そのものに、問題はなかった。
玲奈は目の前の一体を見る。
今日の自分なら、もっと速く倒せるかもしれない。
もっときれいに。
もっと確実に。
そう思いながら、玲奈は剣を構えた。




