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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第四部 アストラ編

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220/559

第220話 玲奈が冒険者になった理由

 食事を終えたあとも、四人はしばらくリビングに残っていた。


 美月は調査記録を確認し、ひなたはソファで飲み物を飲んでいる。玲奈は少し離れたところで剣の手入れを続けていた。


 蓮は、その玲奈を見る。


 さっきまで頭の中にあった疑問は、もう曖昧なものではなかった。


「玲奈」


「ん?」


 玲奈が顔を上げる。


「玲奈って、なんで冒険者になったの?」


「……私?」


「うん」


 玲奈は少し意外そうな顔をした。


「急だね」


「今日ずっと気になってたから」


「ああ……」


 玲奈はそこで何かを思い出したらしく、小さく笑った。


「だからダンジョンであんなに見てたんだ」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


 ひなたも二人の会話に気づき、ソファから顔を上げる。


「玲奈が冒険者になった理由?」


「うん」


 蓮が答える。


 美月も調査記録から視線を外した。


「そういえば、蓮は知らないんだね」


「知らない」


「私たちは前に聞いたことあるけどね」


 ひなたが言う。


「全部?」


「全部ってほどじゃないけど」


 玲奈が剣を布の上へ置いた。


「二人には昔、少し話したことがあるから」


「じゃあ、俺も聞いていい?」


 玲奈は少し考えてから頷いた。


「別にいいけど、そんなに格好いい理由じゃないよ?」


「いいよ」


「人を守りたかったとか、誰かの役に立ちたかったとか、そういうのでもないし」


「それでも聞きたい」


 蓮が答えると、玲奈は少しだけ困ったように笑った。


「分かった」


 美月が調査記録を閉じる。


「じゃあ私たちも聞いていい?」


「知ってるでしょ」


「久しぶりに聞くのもいいかなって」


「ひなたは?」


「聞く」


「即答だね」


「だって玲奈、自分から昔の話あんまりしないし」


「そうだっけ?」


「そうだよ」


 玲奈は少し考えたあと、諦めたように息を吐いた。


「じゃあ、話すけど」


 蓮は玲奈の方へ身体を向けた。


      ◆


「最初はね、本当に単純だったよ」


 玲奈が口を開く。


「身体を動かすのが好きで、剣も好きだった」


「子どもの頃から?」


「うん。本物じゃないけどね。木の棒とか、おもちゃの剣とか振り回してた」


 玲奈は少し懐かしそうに笑う。


「走るのも好きだったし、じっとしてるより外で遊んでる方が好きだった」


「じゃあ、最初から冒険者になりたかった?」


「それは違うよ。そもそも、その頃は冒険者なんて仕事なかったし」


「あ」


「ダンジョンが出てきてからだね」


 玲奈は少し視線を上げる。


「ニュースとかで冒険者を見るようになって、単純にすごいなって思った」


「すごい?」


「剣持ってダンジョンに入って、魔物と戦うんだよ?」


 玲奈が笑う。


「当時の私には、すごく面白そうに見えた」


「怖くなかった?」


「怖いとも思ったよ。でも、それ以上にやってみたかった」


 見たことのない場所へ入り、魔物と戦う。


 剣を振り、自分の力で先へ進む。


 玲奈にとっては、それだけで十分に魅力的だったらしい。


「だから冒険者になった?」


「うん。最初はそれだけ」


「人を守りたかったわけじゃない?」


「全然」


 玲奈はあっさり答えた。


「むしろ、その頃の私は自分が戦うことしか見てなかったと思う」


「今と違う?」


「うん」


 玲奈の表情が少し変わる。


「全然違う」


 蓮は黙って玲奈を見る。


「戦うのは楽しかったよ。剣を使って、魔物を倒して、昨日できなかったことができるようになって」


「強くなるのが?」


「うん。それが分かるのが嬉しかった」


 蓮には、その感覚が少し分かった。


 自分の場合は、生きるために強くなるしかなかった。それでも、できなかったことができるようになる感覚そのものは知っている。


「だから、その頃は」


 玲奈が自分の手を見る。


「冒険者になった理由と、続けてた理由もほとんど同じだったんだと思う」


「戦うのが楽しかったから?」


「そう」


 玲奈は頷いた。


「少なくとも最初はね」


「最初は?」


「うん」


 玲奈は少し黙った。


 さっきまでの軽い口調が、ほんの少しだけ変わる。


「途中で、変わったんだよ」


「何が?」


「私が冒険者をやる理由」


 蓮は玲奈を見る。


「何かあった?」


「あった」


 玲奈は短く答えた。


 美月も、ひなたも何も言わない。


 二人はその先を知っているのだろう。


「変わったきっかけがあったんだよ」


「きっかけ?」


「……一人」


 玲奈はそこで一度言葉を切った。


「昔、一緒にダンジョンへ入ってた仲間が、大きな怪我をしたことがあるの」


 蓮の表情が変わる。


「仲間が?」


「うん」


 玲奈は手元の剣へ視線を落とした。


 その先の言葉は、すぐには出てこなかった。

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