第22話 2階層の魔物
蓮は岩陰に身を隠し、少し離れた場所にいる魔物を見ていた。
魔物は周囲の植物を食べている。しばらくすると、近くの水場へ向かい、水を飲み始めた。
「……なるほど」
蓮は魔物の動きをじっと観察する。
どこから来たのか。どこへ向かうのか。水場はどこにあるのか。食料になりそうな植物はどこに生えているのか。
頭の中に少しずつ覚えていく。
1階層にいた頃から、蓮は同じように周囲を観察してきた。何も持たずに入ったこの場所で、生きていくためには覚えるしかない。
「……あそこが水場」
蓮は周囲の地形を確認する。そして、近くの岩へ目を向けた。
岩の表面には、以前つけた小さな傷が残っている。蓮が戻ってくるための目印だ。
「ここからなら、あの岩が見える」
頭の中で道順を確認する。
紙もない。筆記具もない。だから、覚える。
忘れないように、特徴のある岩や木、分かれ道を目印として利用する。それが今の蓮にできる唯一の方法だった。
蓮はもう一度、魔物へ視線を戻した。
「……水場に来るなら、あそこは覚えておいた方がいいな」
魔物が水を飲み終える。そのまま別の方向へ歩いていく。
蓮はすぐには動かなかった。魔物の姿が見えなくなるまで待つ。それから、先ほどの水場へ向かった。
水場に到着すると、蓮は周囲を確認する。魔物の姿はない。
「……水がある」
蓮は両手ですくい、水を口へ運んだ。冷たい。喉を潤していく感覚に、蓮は小さく息を吐いた。
「……助かった」
水筒もない。持ち運ぶための容器もない。だから、水がある場所を覚える。
必要になったら、ここまで戻ってくればいい。
蓮は周囲の特徴をもう一度確認した。大きな岩。曲がった木。その奥に続く通路。
「……覚えた」
これでいい。少なくとも、戻る場所は分かった。
◇
しばらくして。蓮は再び魔物のいた場所へ戻ってきた。
魔物の姿はない。
「……今なら」
蓮は周囲を確認しながら、慎重に進む。
だが――
少し先から、音が聞こえた。
「……!」
魔物が戻ってきた。蓮は近くの岩陰へ身を隠す。
魔物がこちらへ近づいてくる。逃げることもできる。だが、蓮は槍を握った。
ここで戦う。
そう決めた。
「……やるしかない」
魔物が岩陰を通り過ぎる。
その瞬間――
蓮は飛び出した。槍を突き出す。
魔物が振り向く。鋭い爪が迫る。
蓮は身体を低くして避けた。そして、そのまま槍を振り抜く。
――ザシュッ!
槍が魔物の身体を貫いた。魔物が倒れる。
「……倒した」
蓮は荒い息を吐いた。それから周囲を確認する。新たな魔物はいない。
蓮は倒した魔物を見下ろした。
「……これも覚えておかないとな」
魔物の特徴を頭に刻む。どんな動きをするのか。どれくらいの強さなのか。どんな攻撃をしてくるのか。
すべてが生き残るための情報になる。
蓮は立ち上がった。
地図はない。記録する道具もない。だからこそ、自分の頭で覚える。
岩。木。通路。水場。魔物。
この場所で生きていくために必要なものを、一つずつ記憶していく。
2階層の探索は、まだ始まったばかりだった。




