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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第四部 アストラ編

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第214話 三つ目の共通点

 第三調査区画へ向かうにつれて、通路は少しずつ狭くなっていった。先頭は玲奈、その後ろに蓮、美月、ひなたと続く。第二調査区画を離れてしばらくは、何度か魔物の気配もあった。


 だが、少し進んだところでその数が変わり始めた。


「また減ってきた」


 蓮が言った。


「私も感じる」


 最後尾のひなたが答える。


 周囲にあった魔物の気配が、少しずつ遠ざかっている。第一調査区画、第二調査区画、そして今回も同じだった。


 美月が地図を取り出す。


「位置的には、もうすぐ第三調査区画だよ」


「じゃあ、ここも同じ?」


 玲奈が聞く。


「まだ決めるのは早いけど……可能性は高そうだね」


 美月は周囲を見回した。


 四人は速度を落とす。やがて通路が少し広がり、美月が地図と現在地を確認した。


「ここからだね」


 第三調査区画。今回、ギルドから調査を依頼された三つの場所のうち、最も奥にある区画だった。


「じゃあ、調べよう」


「うん」


 四人はそれぞれ周囲を確認し始めた。


      ◆


 最初に見つかったのは、岩壁に残された大きな爪痕だった。


「これ、新しくはないね」


 玲奈が触れないように近くから確認する。


「前からここにいた魔物の跡かな」


 ひなたが周囲を見る。


「こっちには毛も残ってる」


 第二調査区画と同じだった。魔物が生活していた痕跡はあるが、今は気配がない。


「寝床もある」


 蓮が岩陰を覗き込む。


 乾いた草や細い枝が集められている。完全に崩れてはいない。


「最近まで使われてたのかな」


「たぶんね」


 ひなたが答えた。


 美月は見つかったものを一つずつ記録していく。


「第一、第二と同じ。もともと魔物が少なかった場所じゃない」


「じゃあ、やっぱりここも途中でいなくなった?」


 蓮が聞く。


「その可能性はかなり高いと思う」


 美月が答えた。


 四人はさらに奥へ進んだ。しばらくすると、玲奈が床を指差す。


「足跡」


 いくつもの跡が重なっていた。大きさも形も違い、一種類ではない。


「また外向き?」


 蓮がしゃがみ込む。


「そう見える」


 ひなたも確認する。


 区画の奥から外へ。第一調査区画と同じで、第二調査区画とも一致している。


「三か所全部か」


 玲奈が言った。


 美月は地図へ印を書き込んでいく。蓮は足跡を追うように視線を動かしていたが、ふと手元の地図へ目を向けた。


「……あれ?」


「どうしたの?」


 美月が聞く。


「向きが似てない?」


「向き?」


 蓮が地図を指差す。


「一個目も、二個目も、ここも」


 三人も地図を見る。それぞれの調査区画から外へ向かった足跡は、すべてがまったく同じ方向へ伸びているわけではない。それでも、全体として一つの傾向があった。


「入口側に寄ってる?」


 玲奈が気づく。


「そう見える」


 蓮が言う。


 美月も記録を見比べる。第一調査区画、第二調査区画、第三調査区画。どの場所でも、魔物はダンジョンの奥へ向かうのではなく、入口に近い側へ移動している。


「奥から離れてるってこと?」


 ひなたが聞いた。


「そう見えるね。三か所だけだから断定はできないけど、共通した傾向としては記録していいと思う」


「奥に何かある?」


 蓮が聞く。


「可能性はある。でも、今の時点ではそれ以上は分からない」


「強い魔物は?」


「感じない」


 蓮はすぐに答えた。


 ひなたも首を振る。


「私も」


「魔力濃度も?」


「少なくとも、ここまで来た感じでは普通」


 蓮が答えると、美月は少し考えてから頷いた。


「じゃあ、もう少し周辺を確認しよう」


      ◆


 第三調査区画をさらに進んだ。第二調査区画のように食べ物が残された場所は見つからなかったが、外向きの足跡は何度も見つかった。


 しかも、一種類ではない。形も大きさも違う複数の魔物が、同じように奥から離れている。


「これも外向き」


 玲奈が言った。


「こっちも」


 ひなたが別の跡を確認する。


 美月が地図へ記録を書き込んでいく。


「三種類……いや、少なくとも四種類はいるね」


「みんな同じ方向?」


 蓮が聞く。


「完全に同じじゃないけど、奥へ向かってるものはかなり少ない」


 ひなたが答えた。


「やっぱり、この辺から離れたみたい」


 玲奈が周囲を見る。


 その時だった。


「待って」


 ひなたが急に顔を上げた。


 四人が止まる。


「後ろから二体」


 玲奈がすぐに振り返る。


「近い?」


「まだ少し距離ある。でも、こっちに向かってきてる」


 蓮も《魔力感知》を向ける。確かに二つの反応が、これまで通ってきた通常区域の方からこちらへ近づいてきている。


「戦う準備だけしておこう」


 美月が言う。


「うん」


 玲奈が剣の柄へ手をかけ、蓮も周囲へ意識を向ける。二つの魔力反応はそのまま近づき、距離が少しずつ縮まっていく。


 だが。


「……止まった」


 ひなたが呟いた。


「止まった?」


 玲奈が聞く。


「うん」


 蓮にも分かった。二体の魔物は、第三調査区画へ入る少し手前で動きを止めている。


「いるね」


 蓮が言う。


「こっちには来ない?」


 美月が聞く。


「今は」


 ひなたが答える。


 しばらく待っても、魔物は動かなかった。それどころか、二つの反応が少しずつ遠ざかっていく。


「あ」


 ひなたが小さく声を上げた。


「戻ってる」


 蓮も反応を追う。二体は来た道をそのまま引き返していた。


「こっちに気づいてなかったとか?」


 玲奈が聞く。


「途中までは真っすぐこっちに来てた」


 ひなたが答える。


「少なくとも、この辺まで来ようとはしてたと思う」


「でも入らなかった」


 蓮が呟く。


「うん」


 美月は地図を見る。第一、第二、第三調査区画。そこにいた魔物はいずれも入口側へ移動している。


 そして今、外から来た魔物は第三調査区画へ入る直前で引き返した。


「やっぱり、避けてる?」


 蓮が聞く。


 美月は少し考えた。


「その可能性は、かなり高くなったと思う」


「この区画を?」


「この区画そのものか、その先にある何かかは分からない」


「何か……」


 蓮は通路の奥を見る。特別なものは見えず、強い魔力も危険な気配もない。


 それでも、魔物は近づこうとしない。


「まだ奥を調べる?」


 玲奈が聞いた。


 美月は地図を見る。


「この区画の調査範囲は、ほぼ確認できた」


「じゃあ戻る?」


「ううん」


 美月は首を振る。


「帰る前に、魔物が移動した先を少し確認したい」


「移動先?」


 蓮が聞く。


「うん。三つの区画から離れた魔物が、入口側のどこに集まってるのか」


 美月は地図の赤い印を指差した。魔物の遭遇数が増えている場所だ。


「こっちも今回の異変の一部だから」


「そっか」


「そこで何が起きてるかまで確認してから、一度戻ろう」


「分かった」


 美月は記録をまとめる。今回予定されていた三つの調査区画は確認したが、調査はまだ終わっていない。


 今度は、そこから離れた魔物たちが集まっている場所を見る。


      ◆


 四人は来た道を戻り始めた。


 玲奈が先頭へ立ち、その後ろを蓮が歩く。


 しばらく進んでから、蓮は前にいる玲奈の背中を見る。


 戦いになれば、玲奈はいつもそこにいる。自分たちより前に。


 第二調査区画へ向かう途中もそうだった。後ろへ敵が抜ければ、迷わず振り返る。


「…………」


 玲奈は何も気にしていないように前を歩いている。


 蓮も何も言わず、その背中を追った。


 四人は次の確認場所――魔物の数が増えている区画へ向かって歩き続けた。

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