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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第四部 アストラ編

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211/559

第211話 異変のある場所へ

 翌朝。


 蓮たち四人は、予定していたAランクダンジョンの入口へ来ていた。


 街から少し離れた山間部。


 整備された道の先に、岩肌をくり抜いたような大きな入口が口を開けている。


 その周囲には簡易的な管理施設があり、ギルド職員や、これからダンジョンへ入る冒険者たちの姿もあった。


「ここか」


 蓮が入口を見上げる。


「うん」


 美月が答える。


「今回調べるのは、この中」


 昨日まで資料で見ていた場所。


 魔物の数そのものは大きく変わっていない。


 けれど、一部の区画から魔物が減り、別の場所へ集まるようになっている。


 その理由を調べるのが、今回の依頼だった。


「まず受付してくるね」


「俺も行く?」


「大丈夫。すぐ終わるから」


 美月はそう言って管理施設へ向かった。


 玲奈とひなたは、その場で装備を確認している。


 蓮も自分の両手を見る。


 《封魔の手袋》。


 昨日調整したままだ。


 力を抑えた状態にも、特に違和感はない。


「どう?」


 玲奈が聞いた。


「何が?」


「手袋」


「大丈夫」


「途中で変だと思ったら言ってね」


「うん」


 蓮が頷く。


 その横で、ひなたは自分の荷物を確認していた。


「治療道具、予備の薬……記録用の札もある」


「そんなに確認するの?」


 蓮が聞く。


「するよ」


「昨日もしてなかった?」


「昨日したから、今日もしなくていいってことにはならないでしょ」


「そうなの?」


「そうなの」


 ひなたが少し笑う。


「ダンジョンの中に入ってから忘れ物に気づいても遅いから」


「なるほど」


 蓮は素直に頷いた。


 十年間、一人でいた時も、必要なものは何度も確認した。


 武器が使えるか。


 食料はあるか。


 回復できるものは残っているか。


 この先へ進める状態なのか。


 目的は少し違っても、準備を確認すること自体は変わらない。


「終わったよ」


 美月が戻ってくる。


「問題なし。予定通り入れるって」


「じゃあ行く?」


 玲奈が剣の位置を直す。


「うん」


 美月が四人を見る。


「もう一回だけ確認ね」


 先頭は玲奈。


 その後ろを蓮。


 三番目が美月。


 最後尾がひなた。


 《アストラ》で依頼へ行く時の、いつもの隊列だった。


「中に入ったら、まず第一調査区画まで移動する。途中の魔物は、避けられるなら避ける」


「無理なら?」


 蓮が聞く。


「普通に倒すよ」


「分かった」


「今回は戦うことが目的じゃないからね」


「うん」


 美月が頷く。


「じゃあ行こう」


 玲奈が先頭に立った。


      ◆


 ダンジョンへ入る。


 入口を越えた瞬間、外の明るさが少し遠くなった。


 内部は岩壁に囲まれた広い通路になっている。


 完全な暗闇ではない。壁の一部に埋まった鉱石のようなものが淡く光り、進むには十分な明るさがあった。


「普通だね」


 蓮が言う。


「何が?」


 前を歩く玲奈が振り返らずに聞いた。


「ダンジョン」


「普通じゃなかったら困るよ」


「そうじゃなくて」


 蓮は周囲を見る。


 魔力の流れ。


 壁の状態。


 空気。


 今のところ、特におかしなところはない。


「昨日の資料だと、何か変わってるんでしょ?」


「魔物の分布だけね」


 後ろから美月が答える。


「少なくとも入口付近では、異常報告は出てないよ」


「じゃあ、もっと奥か」


「そういうこと」


 四人はそのまま進んでいく。


 玲奈が前を警戒する。


 蓮はその少し後ろを歩く。


 さらに後方で美月が全体を見て、最後尾をひなたが確認している。


 以前、《白樹の迷宮》へ入った時と同じ隊列。


 けれど今は、蓮もその中で自然に動ける。


 玲奈が止まれば、自分も止まる。


 美月が後ろから指示を出せば、それに合わせる。


 ひなたが何かを感じ取れば、すぐに周囲へ意識を向ける。


 誰かに言われるたびに考える必要は、もうなかった。


「止まって」


 玲奈が小さく手を上げた。


 四人が止まる。


「いる」


 ほぼ同時に、ひなたも言った。


「前方。二体」


 蓮もすでに気づいていた。


 通路の曲がり角の向こう。


 魔力反応が二つ。


「避けられそう?」


 美月が聞く。


 玲奈が少しだけ先を覗く。


「厳しいかな。こっちに来てる」


「じゃあ倒そう」


「了解」


 玲奈が剣を抜いた。


 蓮もアイテムボックスから剣を取り出す。


 その間にも、魔物の気配は近づいてくる。


 やがて、曲がり角から二体の魔物が姿を現した。


 四足。


 灰色の毛。


 犬よりも大きく、肩の高さは玲奈の腰ほどまである。


「グレイハウンド」


 美月が言う。


「このダンジョンでは普通に出る魔物だね」


「二体だけ」


 ひなたが周囲を確認する。


「他にはいないよ」


「じゃあ玲奈、お願い」


「任せて」


 玲奈が一歩前へ出る。


 一体目のグレイハウンドが玲奈へ飛びかかった。


 玲奈は半歩横へずれ、剣で牙を受け流す。


 もう一体が横から回り込む。


 蓮がその進路へ入った。


 剣を振る。


 深く斬り込まず、相手の動きだけを崩す。


 体勢を崩したグレイハウンドへ、美月の放った炎が直撃した。


 その横では、玲奈が一体目を斬り伏せている。


 数秒。


 それだけで戦闘は終わった。


「終わり」


 玲奈が剣についた血を払う。


「うん」


 蓮も剣を下ろした。


 玲奈が受ける。


 蓮が横から来た敵を止める。


 美月が魔法で仕留める。


 必要なら、ひなたが後方から支える。


 誰かが細かく指示を出さなくても、四人の動きは自然につながっていた。


「行こう」


 玲奈が剣を収める。


「まだ調査区画まで距離あるよ」


「うん」


 蓮も剣をアイテムボックスへ戻し、四人は再び歩き出した。


      ◆


 それからしばらく進んだ。


 何度か魔物の気配を感じたが、戦闘を避けられるものは避けた。


 分岐では美月が地図を確認し、ひなたが周囲を探る。


 玲奈が先を確かめ、蓮はその間に周囲の魔力を感じ取る。


 今のところ、異変らしい異変はない。


「そろそろ?」


 蓮が聞いた。


「うん」


 美月が地図を見る。


「この先が最初の調査区画」


「魔物が減ってる場所?」


「そう」


 蓮が前を見る。


 通路は続いている。


 見た目は何も変わらない。


 壁も。


 床も。


 魔力の流れも。


 けれど――。


「……少ない」


 蓮が呟いた。


「何が?」


 玲奈が聞く。


「魔物」


 蓮は《魔力感知》で周囲を探る。


 遠くまで広げすぎず、今いる区画の周辺だけを確認する。


「さっきまでより、全然いない」


「本当?」


「うん」


 ひなたも足を止め、周囲へ意識を向ける。


「……私も感じない」


 美月が地図を見る。


「ここからが、報告にあった区画だね」


 四人は足を止めた。


 入口からここまでは、普通のAランクダンジョンだった。


 魔物もいた。


 戦闘もあった。


 特別な違和感はなかった。


 しかし。


 この先だけは違う。


「行こう」


 美月が言う。


「ここから、本格的に調べよう」


 玲奈が先へ進む。


 蓮もその後ろを歩き出した。


 魔物が減っている理由。


 昨日からずっと気になっていたものが、この先にある。


 蓮は静かな通路の奥を見つめた。


 そして四人は、最初の調査区画へ足を踏み入れた。

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