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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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208/559

第208話 世界が少し広がった

 エイドリアン・クロフォードが日本を離れた翌日。


 空港で彼が残した言葉は、日本だけでなく世界中で報じられていた。


 ――黒瀬蓮は、世界ランキング一位に相応しい。


 ――自分よりも強い。


 世界ランキング二位のエイドリアンが、蓮の方が自分より強いとはっきり認めた。その発言は、多くの国で大きく取り上げられていた。


 同時に、別の疑問も広がっている。


 なぜ、そこまで断言できるのか。


 実際に戦ったのではないか。


 黒瀬蓮の能力を直接確認したのではないか。


 けれど、エイドリアンはそこから先を話さなかった。模擬戦について聞かれても答えず、蓮のレベルやスキルについても何も明かさなかった。


 そのため、答えのない憶測だけが世界中へ広がっていった。


      ◆


 そのニュースを見ていたのは、一般人や報道関係者だけではない。


 ある国では、世界ランキング三位の冒険者が画面に映るエイドリアンの姿を黙って見つめていた。


 別の場所では、世界ランキング四位の冒険者が黒瀬蓮について書かれた記事を開いていた。


 これまでの世界一位は、彼らにとっても特殊な存在だった。


 Unknown。


 七年間、ランキングの一番上にありながら、誰なのか分からなかった名前。


 どこの国にいるのかも分からず、どんな戦い方をするのかも、どれほどの力を持っているのかも知られていなかった。


 それが今は違う。


 黒瀬蓮。


 二十五歳。


 日本人。


 そして、世界ランキング二位のエイドリアン・クロフォードが、自分より強いと認めた冒険者。


 これまでランキングの数字でしか知らなかった世界一位を、上位の冒険者たちも一人の人間として意識し始めていた。


      ◆


 一方、当の蓮は自宅のリビングでスマートフォンを見ていた。


「まだやってる」


 画面には、昨日のエイドリアンの発言を取り上げたニュースが映っている。


「そりゃやるでしょ」


 向かいに座る玲奈が言った。


「世界二位が、自分より蓮の方が強いって言ったんだから」


「でも、一位の方が強いのって普通じゃない?」


「…………」


 玲奈が蓮を見る。


「蓮の場合は、それまで誰も確認できなかったの」


「そうなの?」


「そうなの」


 ひなたが横で小さく笑った。


 美月は蓮の隣からスマートフォンを覗き込む。


「でも、エイドリアン、ちゃんと何も話してないね」


「うん」


 蓮もそれは分かっていた。


 エイドリアンは、自分より蓮の方が強いとは話した。けれど、どうしてそう判断したのかは話していない。模擬戦のことも、蓮の能力も、そして蓮が自分から話した十年間のことも何も明かさなかった。


「信用してよかったね」


 美月が言う。


「うん」


 蓮はすぐに頷いた。


 ニュースの記事をもう一度見てから、スマートフォンを閉じる。


「…………」


 日本へ来たばかりのエイドリアンは、蓮にとって世界ランキング二位というだけの人だった。


 七年間、自分の下に名前があった冒険者。自分に会うために外国から来た人。それくらいの認識しかなかった。


 けれど、実際に会ってみると違った。


 話した。戦った。一緒に食事をした。


 なぜ強くなりたいのかを聞いた。そして蓮も、これまで話さなかった十年間のことを、自分からエイドリアンに話した。


 誰かに話せと言われたわけではない。


 この人なら話してもいいと思ったからだった。


「…………」


 それは、地上へ帰ってきてから初めてのことだった。


 《アストラ》の三人以外に、自分から十年間のことを話した相手。次に会った時には、もう一度戦うと約束した相手。


 友人。


 今なら、その言葉にもあまり違和感はなかった。


      ◆


 エイドリアンと会ったことで、もう一つ分かったことがある。


 自分の強さだった。


 世界ランキング二位。


 Lv154。


 地上へ戻ってから初めて、蓮がはっきりと強いと思った人間。


 実際に戦っても、エイドリアンは強かった。速さも、剣も、判断も、《天嵐剣》も、それまで蓮が地上で見た冒険者とは明らかに違っていた。


 それでも、蓮が十年間いた場所には、その強さを大きく上回る魔物たちが普通に存在していた。


「…………」


 以前までは、それがどれほど普通ではないことなのか、蓮にはよく分かっていなかった。


 自分にとっては、それしか知らなかったからだ。


「蓮?」


「ん?」


 美月の声で、蓮は顔を上げる。


「何考えてたの?」


「俺って」


「うん」


「やっぱり、かなり強いんだなって」


「…………」


 三人が黙る。


「何?」


「いや」


 玲奈が額に手を当てた。


「そこ、やっとなんだって思って」


「前よりは分かってる」


「前よりはね」


「うん」


「まだ全部分かってなさそうだけど」


「…………」


 ひなたが笑い、美月も苦笑する。


 蓮も少しだけ笑った。


 世界一位という言葉の意味が、全部分かったわけではない。


 それでも、自分が地上ではどれほど外れた場所にいるのかは、以前より少しだけ実感できるようになった。


      ◆


「それで」


 玲奈がテーブルの上を見る。


「次、どうする?」


「次?」


「エイドリアンさんも帰ったし、しばらく大きな予定ないでしょ」


「そうだね」


 美月も頷く。


 テーブルの上には、ギルドから持ち帰ってきたいくつかの依頼資料が置かれていた。


「何か受ける?」


「私はどれでもいいよ」


「私も」


 ひなたも頷く。


 蓮は依頼書へ目を向けた。


 今までは、美月たちが選んだ依頼についていくことが多かった。どんな依頼が普通なのかもよく分からなかったし、自分から選ぼうともあまり思わなかった。


 けれど、今日は少し違った。


 蓮は一枚ずつ依頼書を見る。


 魔物の討伐。


 ダンジョンの調査。


 素材の回収。


 どれも、世界ランキング一位だから受ける仕事ではない。


 《アストラ》の四人で行くための依頼だった。


 その中から、蓮は一枚を手に取った。


「これ」


 三人が蓮を見る。


「行ってみない?」


「…………」


 美月が少し目を丸くする。


「蓮が選んだの?」


「うん」


「自分から?」


「そうだけど」


「……珍しいね」


「駄目?」


「ううん」


 美月はすぐに首を振った。


「いいと思う」


「私も」


 玲奈が蓮の持つ依頼書を覗き込む。


「私も見たい」


 ひなたも近づいてくる。


 四人で一枚の依頼書を囲む。


 蓮は三人を見て、少しだけ笑った。


      ◆


 地上へ帰ってきてから、蓮の周りにはいくつもの言葉が増えた。


 世界ランキング一位。


 Unknown。


 世界最強。


 その意味も、自分がどれほど特殊な存在なのかも、まだ全部を理解したわけではない。


 それでも、少しずつ分かってきた。


 世界二位がどれほど強いのか。


 その世界二位と比べて、自分がどこにいるのか。


 そして、この世界には自分の知らない人間がまだ大勢いることも。


 エイドリアン・クロフォード。


 世界ランキング二位として現れたその男は、最後には蓮の友人になった。


 帰ってきたばかりの頃より、蓮の世界は少しだけ広くなった。


 けれど、その広がった世界の中で蓮が次に選んだのは、世界一位としての特別な仕事ではない。美月、玲奈、ひなたと、《アストラ》の四人で行くいつもの依頼だった。


「じゃあ、これにしようか」


 美月が言う。


「うん」


 蓮は頷いた。


 十年前、ただ生きて帰ることだけを願っていた少年は、今、自分で次に行く場所を選んでいる。


 世界はまだ広い。知らない場所も、知らない人も、これからいくらでも増えていく。


 それでも。


 蓮はもう、一人ではなかった。


第3部「世界第二位来日編」 完

第三部まで見て頂きありがとうございました。

評価ポイントやブックマークをして頂きますとありがたいです。

良かったらこれからも楽しんでください。

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