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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第202話 強くなりたい理由

 クロフォードは少しだけ視線を落とした。


「冒険者になったばかりの頃」


 一度、言葉を選ぶ。


「当然だが、今よりできないことが多かった」


「できないこと?」


「ああ。倒せない魔物もいた。反応できない攻撃もあった。自分では十分だと思った剣が、まったく通用しないこともあった」


「…………」


「そういう時、私は悔しかった」


「負けるのが?」


「それもある。だが、それだけじゃない」


 クロフォードは少し考えてから続けた。


「昨日できなかったことを、そのままできないままにしておくのが嫌だった。避けられなかったなら、次は避けたい。倒せなかったなら、いつか倒したい。自分の剣が通じなかったなら、次は通じるようにしたい」


 蓮は静かにクロフォードを見る。


「そうやって、できないことを一つずつ減らしてきた」


「それで世界二位まで?」


「ああ」


 玲奈が小さく息を漏らした。


「なんか、もっとすごい理由があるのかと思ってました」


「すごい理由?」


「誰かを守るため、とか」


「玲奈」


 美月が止める。


「いや。そういう理由を持つ人もいるだろう。だが、私の場合は違う」


 クロフォードは首を振った。


「できないままで終わりたくなかった。それを繰り返しているうちに、ここまで来た」


      ◆


「でも、今は世界二位ですよね」


「ああ」


「もう十分とは思わないんですか?」


「思わないな」


 答えは早かった。


「どうして?」


「まだ、できないことがあるからだ。それと――」


 クロフォードは少し考える。


「私は、自分がどこまで行けるのか知りたい」


「どこまで?」


「ああ。今が自分の限界なのか。それとも、まだ先へ行けるのか。私はそれを確かめたい」


 蓮は黙って聞く。


「昨日もそうだった。君と戦って、今の自分では足りないと分かった」


「…………」


「なら、まだ先へ行けるかもしれない。だから、また鍛える」


「休みの日も?」


「ああ」


「大変じゃないですか?」


「大変な時もある」


「それでも?」


「それでもだ」


 蓮には、やっぱり少し不思議だった。


 自分とは違う。蓮は強くなりたくて戦ったわけではない。死にたくなかった。次の階へ進み、生き延びるために必要だったから戦った。その結果として、強くなった。


 クロフォードは違う。


 できなかったことをできるようにするため。そして、自分がどこまで行けるのかを知るために、自分から強さを求め続けている。


      ◆


「順位は、本当に関係ないんですか?」


「まったく、というわけではない。上がれば嬉しい」


「嬉しいんだ」


「それはそうだ」


 玲奈が笑う。


「世界二位でもそこは普通なんですね」


「一位になれれば、もちろん嬉しいだろう。だが、それを目的に剣を振っているわけじゃない」


「…………」


「順位は結果だ。昨日の自分より、今日の自分がどこまで進めたのか。私にとって重要なのは、そちらだ」


 蓮は黙って聞いた。


 少しだけ、分かってきた気がする。


「じゃあ」


「?」


「俺がいなくて、クロフォードさんが一位だったとしても」


 クロフォードが蓮を見る。


「今と同じように、強くなろうとしてた?」


 クロフォードは少し考えた。


「ああ。それは変わらないと思う」


「…………」


「ただ、君の存在がそれを強くしたのは間違いない」


「俺?」


「ああ」


「どうして?」


「七年間だ」


 クロフォードの視線が、少しだけ変わった。


「私がどれだけ強くなっても、世界ランキングの一番上にはずっとUnknownがいた。名前も分からない。どこにいるのかも分からない。何をしているのかも、どれほど強いのかも分からない」


「…………」


「それでもランキングを見れば、いつも自分より上にいる」


 クロフォードは少しだけ笑った。


「最初は、いつか追いつけると思っていた。強くなれば、もう少し進めば、そのうち同じ場所まで行けるんじゃないかと」


「…………」


「だが、七年経っても君は上にいた」


 蓮は何も言わなかった。


 その七年間、自分はランキングの存在すら知らなかった。外の世界でクロフォードが自分の存在を意識していたことも、当然知らなかった。


「だから、会ってみたかった」


 クロフォードは蓮を見る。


「自分の上に七年間いた人間が、どんな人間なのか。どれほど強いのか。そして、今の自分がどこにいるのか」


「…………」


「昨日、ようやくそれを少し確かめられた」


 蓮は少し考える。


「負けたのに?」


「ああ。負けたから分かったこともある」


「…………」


「少なくとも、今の自分にはまだ先があると思えた」


「だから?」


 クロフォードは小さく笑う。


「また強くなれる」


「…………」


 蓮が目を瞬く。


 負けたのに、それを終わりだとは思っていない。むしろ、その先へ進む理由にしている。


「なんとなく」


 しばらくして、蓮が口を開いた。


「少し分かった気がします」


「そうか?」


「はい」


「それなら、話した甲斐があったな」


      ◆


 その後、クロフォードはそれ以上自分の話を続けなかった。


 そして、蓮にも何も聞かなかった。


「…………」


 蓮はそれに気づいていた。


 最初に会った時、クロフォードは七年間の空白について聞いた。蓮は「今は話したくない」と答えた。それからクロフォードは、一度もその先へ踏み込んでこなかった。


 今日も同じだった。


 自分のことは話した。強くなりたい理由も、七年間Unknownをどう見ていたのかも。それでも、蓮が話さなかったことについては何も聞かない。


「…………」


 蓮は目の前のクロフォードを見る。


 少し前まで、世界二位。それだけだった人。


 でも今は、少し違う。


 この人なら。


 少しくらい。


 話してもいいかもしれない。


 蓮は初めて、そんなことを思った。

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