第200話 自分のいる場所
その日の夜。
蓮たちは家へ戻っていた。
模擬戦。Lv250前後の魔物素材。色々な話が続いたせいか、玲奈とひなたは少し疲れた様子でソファに座っている。美月はキッチンで飲み物を用意していた。
「…………」
蓮は一人、ダイニングの椅子に座っていた。
さっきから、頭の中に数字が残っている。
154。250。そして、もっと上。
「蓮?」
美月が声をかける。
「ん?」
「どうしたの?」
「…………」
蓮は少し考える。
「クロフォードさん」
「うん」
「強かったなって」
「……うん」
玲奈がソファから振り返る。
「それ、帰ってから何回目?」
「そんなに言った?」
「言ってる」
「…………」
蓮は黙る。
でも、本当に強かった。速かった。剣も上手かった。戦いながらこちらを見て、すぐに戦い方を変えてきた。
《天嵐剣》も、地上へ戻ってから見た中では、明らかに別格だった。
「でも」
蓮が言う。
「Lv154なんだよね」
「…………」
三人が少し黙る。美月が蓮の前へ飲み物を置いた。
「そうだね」
「世界二位で」
「うん」
「すごく強くて」
「うん」
「それで、154」
「…………」
蓮はテーブルを見る。
その数字を、今日、初めて実感できた気がする。
◆
「俺がいたところで、70階くらいになると」
三人が蓮を見る。
「魔物も、Lv250前後になってた」
「…………」
玲奈の表情が変わる。
「それって、今日、支部長さんが話してた素材の?」
「うん」
蓮は頷く。
「あの辺で手に入れたやつ」
「…………」
Lv250。今日、地上では加工方法さえ分からないかもしれないと言われた素材。その素材を持つ魔物が、70階付近にはいた。
「90階を越えたあたりから」
蓮が続ける。
「300後半くらい」
「…………」
ひなたが小さく息を呑む。
「さらに上がるの?」
「うん」
「99階近くになると」
蓮は少し考える。
「400前後だったと思う」
「…………」
今度は、誰もすぐには言葉を返さなかった。
そして、その先。100階。最後に待っていた、あの古龍。
「一番最後が、Lv600」
「…………」
静かになる。
玲奈が何かを言おうとして、やめた。美月も黙ったまま蓮を見る。
「……蓮」
「ん?」
「自分のレベルは?」
美月が聞く。
「651」
「…………」
分かっていた数字。三人とも、すでに知っている。それでも、今、こうして並べると、意味が違って見えた。
世界ランキング二位。Lv154。
70階付近。Lv250前後。
90階を越えたあたり。Lv300後半。
99階付近。Lv400前後。
100階。古龍。Lv600。
そして、黒瀬蓮。Lv651。
「…………」
蓮は黙って数字を頭の中に並べる。
◆
もちろん、レベルだけで全部が決まるわけではない。
今日、クロフォードと戦って分かった。同じ能力を持っていても、どう使うかで強さは変わる。技術も、経験も、スキルも、全部ある。
それでも。
「……俺」
蓮が小さく呟く。
「ん?」
玲奈が見る。
「もしかして」
一度言葉を止める。
「かなり、おかしい?」
「…………」
三人が黙った。
数秒。
玲奈が口を開く。
「今?」
「?」
「今そこに気づいたの?」
「玲奈」
美月が苦笑する。
「だって!」
玲奈が蓮を見る。
「世界二位が154で、蓮は651なんだよ!?」
「うん」
「うんじゃない!」
ひなたが横で笑う。
「でも」
美月が蓮を見る。
「蓮にとっては、今まで比較する相手がいなかったんだよね」
「…………」
蓮は少し考える。
「うん」
十五歳で、あの場所へ入った。そこから十年間、比べる相手なんていなかった。
いたのは、自分より強い魔物。倒せるようになった魔物。さらに強い魔物。それだけだった。
地上へ戻って、Aランクを見た。Sランクを知った。世界ランキングというものを知った。そして今日、その世界で二番目に強いと言われる人と、実際に戦った。
「…………」
強かった。それは間違いない。
けれど、あのダンジョンでは、攻略が進むほど、クロフォードのLv154を大きく超える魔物が現れていた。そして、最後にいたのは、Lv600の古龍。
「俺」
蓮が言う。
「強くなったとは思ってたけど」
「うん」
美月が静かに聞く。
「どのくらいなのか」
一度、言葉を探す。
「ちゃんと分かってなかったかも」
「…………」
「ランキング一位って言われても」
実感がなかった。七年間一位だったと言われても、自分には何のことなのか、よく分からなかった。
でも、今日、少しだけ分かった。
世界二位が、どれほど強い人なのか。実際に戦って分かったから、その人と自分を初めて比べることができた。
「…………」
蓮は自分の手を見る。
十年間、ただ生きるために戦った。次の階へ行くために。死なないために。少しずつ、強くなった。
気づけば、Lv651になっていた。
「…………」
蓮は小さく息を吐く。
「世界一位って」
三人が見る。
「こういうことなのかも」
「…………」
美月が少し笑った。
「少し実感した?」
「……少しだけ」
「少しなんだ」
玲奈がすぐに突っ込む。
「だって」
蓮は少し考える。
「まだ、よく分からないから」
「…………」
「でも」
もう一度、今日戦った男を思い出す。
世界二位。エイドリアン・クロフォード。Lv154。
あれほど強かった人が、世界で二番目。
「前よりは」
蓮が言う。
「分かった気がする」
「…………」
美月は何も言わず、静かに頷いた。
蓮はもう一度、頭の中で数字を並べた。
154。250。300後半。400前後。600。651。
今まで、ただの数字だったものが、今日初めて、少しだけ自分がどこにいるのかを教えてくれた。




