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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第197話 世界二位の剣

「もう一度、試そう」


「……はい」


 二人が向かい合う。


 クロフォードの周囲を、風が流れていた。足元だけではない。身体。腕。そして剣。すべてを一つに繋ぐように、風が沿っている。


「…………」


 蓮は《黒月》を構えた。


 まだ、《天嵐剣》のすべてが分かったわけではない。さっき一度、反撃を入れられただけ。次も同じようにできるとは限らない。


「行くぞ」


「……はい」


 クロフォードが踏み込んだ。


 一歩。距離が消える。


「…………!」


 蓮が身体をずらす。剣が通過する。そのまま次。切り返し。


 蓮が《黒月》を添える。


 ギィン――!


 軌道を外す。けれど。


「……!」


 クロフォードは止まらなかった。外された動きさえ次へ繋げ、身体の向きを変える。風がその動きを支える。


 反対側から、もう一撃。


「…………」


 蓮が下がる。刃が目の前を抜けた。さらに追ってくる。


 速い。それだけではない。さっきよりも、クロフォードの動きが小さくなっている。


      ◆


「また変わった……?」


 玲奈が呟く。


「うん」


 美月が答える。


 単純に速度だけが上がったわけではない。必要のない動きが減っている。


 一度、蓮に反撃されたことで、クロフォードもまた、戦い方を変えていた。


「…………」


 ひなたは黙って二人を見つめている。


 攻めているのはクロフォード。けれど、蓮も、さっきまでと同じではなかった。


      ◆


 クロフォードが斬る。蓮が避ける。


 次。流す。


 さらに次。避ける。


「…………」


 クロフォードは攻撃を止めない。さっき反撃された形を、そのまま繰り返さない。蓮が入り込めそうな位置を作れば、その前に次の動きへ変える。


「…………」


 蓮も、それに気づいていた。


 さっき入れた場所が、もうない。


「……すごい」


 小さく呟く。


 一度見せたものに、すぐ対応している。能力が高いからだけじゃない。戦いながら考えて、変えている。


 だから、強い。


 その瞬間、クロフォードの剣が迫った。


「…………!」


 蓮が避ける。クロフォードは、その動きを見る。


 そして、蓮が避けた方向へ、次の一歩を入れる。


「……!」


 横から剣。蓮が《黒月》を添える。


 ギィン――!


 軌道をずらす。さらに追撃。


 蓮が動く。クロフォードも変える。


 右。左。上。斜め。


 決められた順番ではない。蓮の動きを見て、次の剣を選んでいる。


「…………」


 蓮は避けながら、その動きを見続ける。


 肩。腰。足。重心。そして、風。全部を見る。


 けれど、それだけではない。


「…………」


 クロフォードは、自分を見ている。蓮がどう動くかを見て、その先へ剣を繋いでくる。


 それなら。


「…………」


 蓮の目が僅かに変わった。


 全部を読む必要はない。クロフォードが次に何をするか。自分が、選ばせればいい。


      ◆


 クロフォードが一度距離を取った。


「…………」


 静かに息を吐く。蓮も追わない。二人が向かい合う。


 数秒。


 クロフォードが剣を構え直した。


「黒瀬」


「……はい」


「次で」


 一度言葉を切る。


「決めるつもりで行く」


「…………」


 蓮の目が僅かに変わる。


「分かりました」


 クロフォードの周囲へ風が集まる。外へ漏れず、身体と剣へ収束していく。


「…………」


 蓮は《黒月》を構える。クロフォードの姿勢が沈んだ。


 次の瞬間。


 一歩。


「――!」


 距離が消えた。


 正面。剣が来る。


 蓮が右へ動く。クロフォードも変わる。その先へ、剣が追ってくる。


「…………!」


 蓮がさらに後ろへ逃れる。クロフォードが踏み込む。


 また剣。避ける。追う。避ける。さらに追う。


 クロフォードは蓮の動きを見ながら、そのたびに次の軌道を変えていく。


「…………」


 蓮も、それを待っていた。


 右へ、大きく動く。


「……!」


 クロフォードが反応した。風が身体の向きを変える。


 蓮の右側へ、次の剣を繋ぐ。


 その瞬間、蓮は止まった。


「――!」


 クロフォードの目が見開かれる。


 蓮が右へ逃げ続ける。そう判断して、すでに次の攻撃を選んだ直後。


 蓮は逆へ踏み込んだ。


「…………!」


 クロフォードもすぐに対応する。剣の軌道を変える。身体を戻す。風も動く。


 けれど、蓮の方が、ほんの僅かに先だった。


 クロフォードに右を選ばせた時点で、蓮はもう、次へ動いていた。


「――そこまで!」


 支部長の声が響いた。


「…………」


 二人の動きが止まる。


 クロフォードの剣は、蓮へ向けて戻る途中。そして、《黒月》の刃は、クロフォードの首元、その手前で止まっていた。


「…………」


 静かになる。


 蓮は数秒、そのまま止まり、ゆっくりと《黒月》を下ろした。


「……終わりですか?」


「ああ」


 支部長が答える。


「勝負ありだ」


「…………」


 蓮はクロフォードを見る。


 クロフォードは、自分の首元に止まっていた《黒月》を見ていた。数秒、何も言わない。


 やがて、ゆっくりと剣を下ろす。


「……私の負けだな」


「…………」


 悔しさはある。勝ちたかった。自分の剣を、もっと届かせたかった。


 けれど、それだけではなかった。


 七年間、ずっと自分の上にいたUnknown。その相手と、実際に剣を交えた。


 自分の剣がどこまで通じるのか。それを、自分自身で確かめることができた。


「黒瀬」


「……はい」


 クロフォードが蓮を見る。


「強いな」


「…………」


 蓮はすぐには答えなかった。クロフォードの剣を見る。


 速かった。重かった。何度も戦い方を変えられた。


 《天嵐剣》を使ってからは、蓮自身も、避けることを優先するほどだった。


「クロフォードさんも」


 蓮は言う。


「本当に」


 一度、言葉を切る。


「……強かったです」


「…………」


 クロフォードは僅かに目を細めた。


 負けたことは、悔しい。それでも、その言葉は、素直に嬉しかった。

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