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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第195話 天嵐剣

クロフォードの足元へ、風が集まっていく。


 これまでとは違った。


 さっきまでは、移動するために足元へ風を集めていた。剣を振る時には《魔力剣》。距離を詰める時には《高速移動》。必要な瞬間に、必要な技を選んで使っていた。


 けれど今は。


「…………」


 蓮は《黒月》を構えたまま、クロフォードを見る。


 風が足元だけではなく、身体全体へまとわりついている。さらに、その流れは腕を伝い、剣へ伸びていた。


 刀身を満たす魔力。その外側を、細く圧縮された風が包んでいく。


「クロフォードさん」


「何だ?」


「それ」


 蓮は剣を見る。


「さっきまでと、違いますね」


「ああ」


 クロフォードは静かに答えた。


「これが」


 一度、息を整える。


「私が一番得意な剣だ」


「…………」


 その姿を見て、蓮は《鑑定》で見たスキルを思い出す。


 《天嵐剣》Lv10。


「……これが」


「?」


「いえ」


 蓮は小さく首を振った。


      ◆


「何……あれ」


 玲奈が小さく呟く。


 さっきまでとは、風の動きそのものが違う。外へ広がらない。クロフォードの身体から離れない。


「風を使ってるっていうより……」


 美月が目を細める。


「身体の一部みたい」


「…………」


 ひなたも黙って見ている。


 クロフォードの周囲にあるはずの風が、すべて身体と剣へ収束している。ただ魔法を使っているようには見えなかった。


      ◆


「黒瀬」


「……はい」


「行くぞ」


「…………」


 蓮が《黒月》を握り直す。


「はい」


 クロフォードの姿勢が僅かに沈んだ。


 蓮は、いつものように身体を見る。足。腰。肩。重心。


 正面。


 そう判断した。


 次の瞬間、クロフォードが一歩踏み込んだ。


「――!」


 それだけだった。


 風が爆ぜたようには見えない。大きく地面を蹴ったわけでもない。


 なのに、距離が消えた。


 気づいた時には、クロフォードの剣が蓮の首元へ迫っていた。


「…………!」


 蓮が大きく身体をずらす。刃が目の前を通過した。


 その直後、圧縮された風が、斬撃の軌道に沿って走る。


 ブォン――!


 空気が裂ける。


「…………」


 蓮が距離を取る。だが、クロフォードはすでに次の一歩へ入っていた。


「速っ――」


 玲奈の声が遅れて響く。


「…………」


 蓮の目が僅かに細くなる。


 さっきまでとは違う。


 風で加速してから剣を振るんじゃない。踏み込む。その動きの中で風が身体を押す。同時に距離が縮まる。剣へ魔力が通る。そのまま斬撃へ繋がる。


 全部が、一つだった。


「…………」


 クロフォードが切り返す。今度は右。蓮が身体をずらす。次の瞬間には左。また避ける。


 けれど、さっきまでのような、方向転換の一瞬の減速がない。


 足を止めない。身体も止めない。風が動きを補い続ける。一つの斬撃が終わった時には、もう次の斬撃が始まっている。


「…………!」


 蓮が後ろへ下がる。クロフォードが追う。そこにも、踏み込みと加速の境目がない。


「……なるほど」


 蓮が小さく呟く。


 ようやく分かった。


 さっきまでは、風魔法。身体強化。高速移動。魔力剣。それぞれの技を、極めて高い精度で繋いでいた。


 けれど、《天嵐剣》は違う。


 四つの技を同時に使っているんじゃない。最初から、それで一つの剣技だった。


「…………」


 蓮の表情が、僅かに変わる。


 これが、Lv10。


      ◆


 クロフォードの剣が迫る。蓮は避ける。


 次。また避ける。


 さらに次。今度は《黒月》を添える。


 ギィン――!


 触れた瞬間。


「…………!」


 強烈な衝撃が腕へ伝わる。


 魔力剣の重さ。さらに、刀身へ沿わせた圧縮された風。二つが一緒に押し込んでくる。


 蓮は正面から受け止めず、《黒月》を滑らせるようにして剣の軌道を外した。そのまま身体を横へ逃がす。


「……!」


 クロフォードの目が僅かに変わる。


 さっきまでは、蓮は受けることもあった。避けることもあった。


 だが今は違う。


 《天嵐剣》を使い始めてから、蓮は、避けることを優先している。どうしても必要な時だけ剣を触れさせ、軌道をずらす。


「…………」


 クロフォードがさらに一歩踏み込む。それだけで、距離が消える。


 横薙ぎ。蓮が身体を反らす。刃が胸元のすぐ前を通過する。


 すぐに返す剣。


「…………!」


 蓮は地面を蹴った。後ろへ。


 剣先が服の僅か手前を通り過ぎる。


「…………」


 着地した蓮が、クロフォードを見る。目が、さっきまでとは少し違っていた。


「……すごい」


 蓮が言う。


「そうか」


「はい」


 蓮は《黒月》を握り直す。


「さっきまで」


 一度、言葉を探す。


「色んな技を繋いでるんだと思ってました」


「…………」


「でも、今は違う」


 クロフォードが蓮を見る。


「どう違う?」


「全部」


 蓮は少し考える。


「最初から、一つになってる」


「…………」


 数秒、クロフォードは何も言わなかった。


 やがて、僅かに笑う。


「よく見ているな」


「……そうですか?」


「ああ」


 蓮は再び剣を構える。


「それに」


「?」


「今は」


 一度、息を吐く。


「受けるより、避けた方がいいと思ってます」


「…………」


 クロフォードの目が僅かに細くなる。


「それは嬉しいな」


「……そうなんですか?」


「ああ」


 自分の剣が、少なくとも、世界一位の選択を変えている。それだけでも、今のクロフォードには十分だった。


「なら」


 クロフォードは再び姿勢を沈める。


「もう少し続けよう」


「……はい」


 蓮も《黒月》を構える。


 風が身体へ収束する。剣へ魔力が通る。


 けれど、もう蓮には、それらが別々には見えなかった。


 一歩。加速。移動。斬撃。


 そのすべてを一つにした剣。


 《天嵐剣》。


 再び、世界二位の剣が、蓮へ向かって動き出した。

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