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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第194話 受けないという判断

クロフォードの纏う空気が変わった。


 剣を構える姿は同じ。けれど、足元を流れる風も、刀身を満たす魔力も、先ほどまでより明らかに濃い。


「…………」


 蓮は《黒月》を構えたまま、その変化を見る。


「行くぞ」


「……はい」


 クロフォードが踏み込んだ。風が弾ける。


「……!」


 さらに速い。


 蓮が《黒月》を動かす。


 ギィン――!


 二本の剣がぶつかった。


 次の瞬間。


「…………!」


 蓮の腕へ強い衝撃が走る。


 さっきまでとは違う。《魔力剣》へ込められている魔力が増えている。


 蓮が一歩下がった。


「蓮が……」


 美月が小さく呟く。


「下がった?」


 玲奈も目を見開く。


 これまでクロフォードの攻撃を受けても、蓮の位置が大きく崩れることはなかった。けれど、今は違う。


 ほんの一歩。それでも確かに、クロフォードの剣が蓮を動かした。


「…………」


 クロフォードも気づいていた。


 すぐに追う。足元で風が弾け、一気に距離を詰める。


 上段から振り下ろされる剣。蓮が受ける。重い。


 続けて横薙ぎ。また受ける。今度は身体が半歩ずれた。


「…………」


 蓮の目が僅かに細くなる。


 強くなっている。速さだけではない。一撃そのものが、明らかに重くなっていた。


「どうだ?」


 クロフォードが短く聞く。


「……さっきより、かなり強いです」


「そうか」


 クロフォードの口元が僅かに上がる。


 次の瞬間、再び姿勢が沈んだ。


「…………」


 蓮は、その構えを見る。


 身体強化。足元へ集まる風。そして、剣に通された濃い魔力。


 全部が、一度の踏み込みへ向けられている。


「来る」


 蓮が小さく呟いた。


 クロフォードが地面を蹴る。風が爆ぜた。


「……!」


 一直線。今までで最も速い踏み込み。


 魔力を纏った長剣が、蓮へ迫る。


 蓮は《黒月》を動かしかけた。


 受ける。


 そうしようとして。


「…………」


 やめた。


 身体を横へずらす。クロフォードの剣が、蓮のすぐ横を通り抜けた。


 直後、剣圧だけで空気が大きく揺れる。


「…………!」


 玲奈が息を呑んだ。


「今の……」


「蓮、受けなかった」


 美月も気づいていた。


 これまで蓮は、避けるだけでなく何度も《黒月》でクロフォードの剣を受けていた。けれど今の一撃だけは違った。


 受けずに、避けた。


「…………」


 クロフォードが振り返る。蓮も、少し離れた場所からクロフォードを見る。


「今のは受けなかったな」


「……はい」


「なぜだ?」


「…………」


 蓮は少し考える。


「受けられないとは思わなかったです」


「…………」


「でも」


 一度言葉を止める。


「正面から受ける必要もないと思ったから」


「…………」


 クロフォードの目が僅かに細くなる。


「そうか」


 その声には、ほんの少しだけ嬉しそうな響きがあった。


 今の一撃で、初めて、蓮に、受けるという選択を変えさせた。


「でも」


 蓮が続ける。


「すごいですね」


「何がだ?」


「さっきより、ずっと重かったです」


「…………」


「速さも」


 蓮は少し考える。


「かなり上がってました」


 クロフォードは何も言わなかった。ただ、剣を握る手へ少しだけ力が入る。


 再び、二人が構える。


 蓮はクロフォードを見る。


 さっきの一撃。受けられないほどではない。ただ、わざわざ正面から受け止める必要はない。


 そう判断した。それだけの力があった。


「…………」


 やっぱり、強い。


 地上で世界二位と呼ばれている理由が、戦うほど分かってくる。


 けれど、蓮は知っている。まだ使われていないものがある。


 《天嵐剣》Lv10。


「…………」


 クロフォードも、蓮を見ていた。


 速度を上げた。剣の威力も上げた。戦い方も変えた。それでも、まだ剣は一度も届いていない。


 クロフォードは静かに息を吐いた。


「黒瀬」


「……はい」


「次は」


 剣をゆっくりと構え直す。


「私が一番得意な形で行く」


「…………」


 蓮の目が僅かに変わった。


「分かりました」


 クロフォードの足元で、風が、静かに集まり始めた。

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