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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第192話 読まれる剣

見られている。


 クロフォードは、そう判断した。


 剣を振ってから避けているわけではない。肩、足、重心。身体が動き始める前の僅かな変化から、次の攻撃を読まれている。


「…………」


 クロフォードは一度、蓮との距離を取った。それまで途切れることなく続いていた攻撃が止まる。


 蓮も追わない。


「どうしたんですか?」


「少し考えている」


「……何を?」


「君の避け方を」


「…………」


 蓮が僅かに首を傾げる。


「避け方?」


「ああ」


 クロフォードは剣を構え直した。


「黒瀬。君は、剣を見てから避けているわけではないな」


「…………」


 蓮は少し考える。


「たぶん」


「たぶん?」


「相手を見てたら、なんとなく分かるので」


「…………」


 クロフォードの目が僅かに細くなる。


「なんとなく、か」


「……はい」


 少し離れた場所で、その会話を聞いていた玲奈が呟く。


「なんとなくで、あれ避けてるの……?」


「蓮だからね」


 美月が小さく答える。


「それで済ませていいのかな……」


 ひなたが苦笑する。


 クロフォードは三人の声には反応しなかった。視線は、蓮だけに向いている。


「なら」


「?」


「読みにくくすればいい」


「…………」


 次の瞬間、クロフォードが動いた。


 先ほどと同じ踏み込み。正面。剣が振り上がる。


 蓮の身体が僅かに動く。


 だが、剣は来なかった。


「……!」


 クロフォードは踏み込みを途中で止め、そのまま反対側へ身体を切り返す。


 低い位置からの斬撃。蓮は《黒月》を下げた。


 ギィン――!


 二本の剣がぶつかる。


「…………」


 クロフォードはすぐに離れた。


 今度は、大きく踏み込むように見せて一歩目を浅くする。蓮がその動きを見た瞬間、足元で風が弾けた。


「……!」


 身体が一気に加速する。


 さっきとは違う。踏み込みの形と、実際の速度が合わない。


 クロフォードの剣が横から迫る。蓮は上体を後ろへ倒した。


 刃が、鼻先の少し前を通過する。


「…………」


 そのままクロフォードが追う。


 速く。遅く。止まり。また加速する。


 一定だった攻撃の間隔が崩れていく。


 さらに、剣を振るように見せて振らない。踏み込むように見せて止まる。


 フェイントと風による加速を組み合わせ、蓮が読んでいた動きそのものをずらしてくる。


「……変わった」


 蓮が呟いた。


「分かるか?」


「……さっきと違います」


「ああ」


 クロフォードは剣を振る。蓮が避ける。その反応を見て、次の攻撃を変える。


 今度は最初から決めた連撃ではない。蓮の動きを見ながら、その場で次を選んでいる。


「…………」


 蓮の目が少しだけ細くなった。


 速い。それだけではない。こちらに合わせて、戦い方そのものを変えてきた。


 面会の時に聞いた通りだった。


「……すごい」


「何がだ?」


「俺に合わせて、すぐ変えたから」


 クロフォードは短く答える。


「通じないなら変える。それだけだ」


「……なるほど」


 その直後、クロフォードが右へ重心を傾けた。


 右へ来る。


 蓮がそう判断する。


 だが、足元で風が弾けた瞬間、クロフォードは踏み込みを切り返した。


「……!」


 左から一気に距離を詰める。剣が迫る。


 今までより近い。


「…………!」


 蓮は《黒月》を滑り込ませた。


 ギィン――!


 火花が散る。


 クロフォードの剣が、蓮の肩のすぐ横で止まった。


「…………」


 二人の視線が、近い距離で交わる。クロフォードの目が僅かに鋭くなる。


「今のも防ぐか」


「……さっきより、近かったです」


「そうか」


 クロフォードの口元が、僅かに上がった。


 最初より、確実に近づいている。


 だが、まだ一度も、剣は蓮へ届いていない。


 クロフォードは一度距離を取り、剣を構え直した。


「黒瀬」


「……はい」


「もう少し上げる」


「…………」


 蓮も《黒月》を構え直す。


「分かりました」


 クロフォードの足元で、さっきより強い風が、ゆっくりと巻き始めた。

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