第192話 読まれる剣
見られている。
クロフォードは、そう判断した。
剣を振ってから避けているわけではない。肩、足、重心。身体が動き始める前の僅かな変化から、次の攻撃を読まれている。
「…………」
クロフォードは一度、蓮との距離を取った。それまで途切れることなく続いていた攻撃が止まる。
蓮も追わない。
「どうしたんですか?」
「少し考えている」
「……何を?」
「君の避け方を」
「…………」
蓮が僅かに首を傾げる。
「避け方?」
「ああ」
クロフォードは剣を構え直した。
「黒瀬。君は、剣を見てから避けているわけではないな」
「…………」
蓮は少し考える。
「たぶん」
「たぶん?」
「相手を見てたら、なんとなく分かるので」
「…………」
クロフォードの目が僅かに細くなる。
「なんとなく、か」
「……はい」
少し離れた場所で、その会話を聞いていた玲奈が呟く。
「なんとなくで、あれ避けてるの……?」
「蓮だからね」
美月が小さく答える。
「それで済ませていいのかな……」
ひなたが苦笑する。
クロフォードは三人の声には反応しなかった。視線は、蓮だけに向いている。
「なら」
「?」
「読みにくくすればいい」
「…………」
次の瞬間、クロフォードが動いた。
先ほどと同じ踏み込み。正面。剣が振り上がる。
蓮の身体が僅かに動く。
だが、剣は来なかった。
「……!」
クロフォードは踏み込みを途中で止め、そのまま反対側へ身体を切り返す。
低い位置からの斬撃。蓮は《黒月》を下げた。
ギィン――!
二本の剣がぶつかる。
「…………」
クロフォードはすぐに離れた。
今度は、大きく踏み込むように見せて一歩目を浅くする。蓮がその動きを見た瞬間、足元で風が弾けた。
「……!」
身体が一気に加速する。
さっきとは違う。踏み込みの形と、実際の速度が合わない。
クロフォードの剣が横から迫る。蓮は上体を後ろへ倒した。
刃が、鼻先の少し前を通過する。
「…………」
そのままクロフォードが追う。
速く。遅く。止まり。また加速する。
一定だった攻撃の間隔が崩れていく。
さらに、剣を振るように見せて振らない。踏み込むように見せて止まる。
フェイントと風による加速を組み合わせ、蓮が読んでいた動きそのものをずらしてくる。
「……変わった」
蓮が呟いた。
「分かるか?」
「……さっきと違います」
「ああ」
クロフォードは剣を振る。蓮が避ける。その反応を見て、次の攻撃を変える。
今度は最初から決めた連撃ではない。蓮の動きを見ながら、その場で次を選んでいる。
「…………」
蓮の目が少しだけ細くなった。
速い。それだけではない。こちらに合わせて、戦い方そのものを変えてきた。
面会の時に聞いた通りだった。
「……すごい」
「何がだ?」
「俺に合わせて、すぐ変えたから」
クロフォードは短く答える。
「通じないなら変える。それだけだ」
「……なるほど」
その直後、クロフォードが右へ重心を傾けた。
右へ来る。
蓮がそう判断する。
だが、足元で風が弾けた瞬間、クロフォードは踏み込みを切り返した。
「……!」
左から一気に距離を詰める。剣が迫る。
今までより近い。
「…………!」
蓮は《黒月》を滑り込ませた。
ギィン――!
火花が散る。
クロフォードの剣が、蓮の肩のすぐ横で止まった。
「…………」
二人の視線が、近い距離で交わる。クロフォードの目が僅かに鋭くなる。
「今のも防ぐか」
「……さっきより、近かったです」
「そうか」
クロフォードの口元が、僅かに上がった。
最初より、確実に近づいている。
だが、まだ一度も、剣は蓮へ届いていない。
クロフォードは一度距離を取り、剣を構え直した。
「黒瀬」
「……はい」
「もう少し上げる」
「…………」
蓮も《黒月》を構え直す。
「分かりました」
クロフォードの足元で、さっきより強い風が、ゆっくりと巻き始めた。




