第191話 世界二位の速度
クロフォードの剣が、蓮の目の前まで迫る。
「…………!」
速い。
そう思いながら、蓮は《黒月》を動かした。
甲高い金属音が響く。
クロフォードの剣と《黒月》がぶつかり、二人の間に衝撃が走った。
「…………」
蓮の腕へ、確かな重さが伝わる。
速いだけではない。剣そのものにも、しっかりと力が乗っている。
そして、クロフォードは止まらなかった。
一撃目を受け止められた瞬間には、すでに次の動きへ移っている。剣を引きながら身体をずらし、蓮の横へ回り込む。
「……!」
蓮が半歩下がる。刃が目の前を通り過ぎる。
だが、それで終わらない。
切り返す。踏み込む。角度を変える。
蓮が受ければ、その流れのまま次の攻撃へ繋げてくる。
「…………」
動きが途切れない。
最初に本人から聞いた通りだった。相手に主導権を渡さない。こちらが何かをする前に、次の攻撃を重ねてくる。
「速……」
少し離れた場所で見ていた玲奈から、ようやく声が漏れた。
美月も、クロフォードから目を離せない。
「これが……世界二位」
玲奈には、剣が振られたこと自体は分かる。けれど、一つの攻撃が終わったと思った時には、クロフォードはもう次の位置にいる。
自分なら一撃目を防げたとして、その先まで対応できるか。
「…………」
玲奈は、黙って二人を見つめた。
◆
蓮も、クロフォードの剣を受けながらその動きを見ていた。
速い。けれど、それ以上に無駄が少ない。
一度攻撃するたびに構え直すわけではない。振った剣の流れを、そのまま次の動作へ繋げている。
身体の向き。足の位置。剣の軌道。
全てが次の攻撃へ繋がっていた。
「……なるほど」
蓮が小さく呟く。
クロフォードの目が僅かに動いた。
「何がだ?」
剣を振りながら聞く。蓮はそれを避ける。
「聞いてた通りだなって」
「……そうか」
クロフォードの足元から、僅かに風が巻き上がった。
「なら――」
次の瞬間、踏み込みが変わった。
「…………!」
さっきより速い。
クロフォードが一気に蓮の懐へ入る。
横薙ぎ。蓮は《黒月》を立てた。
ガンッ――!
先ほどより強い衝撃。蓮の身体が、僅かに横へ動く。
「…………」
クロフォードは、その変化を見逃さない。
すぐに追う。距離を開けさせず、下から剣を跳ね上げる。
蓮は身体を捻って避けた。直後には、すでに次の刃が迫っている。
「……速い」
今度は、蓮が声に出した。
クロフォードの口元が僅かに動く。
「そう言ってもらえると嬉しいな」
「本当に速いです」
「まだ始まったばかりだ」
「…………」
蓮の目が、ほんの少しだけ変わった。
クロフォードが再び踏み込む。
正面からの斬撃。蓮がかわす。
すぐに角度を変えて、次の剣。それも半歩ずれて避ける。
さらに追撃。
「…………」
それでも、蓮は慌てない。
能力を抑えていても、十年間で身についた感覚までは消えていない。
肩。腰。足。重心。
そこを見れば、次にどこへ動こうとしているのかは、ある程度分かる。
クロフォードの剣が動く。蓮が半歩ずれる。刃が胸元を通り過ぎる。
もう一度。今度は逆側へ。それも、わずかな動きで避ける。
「……!」
クロフォードの表情が、初めて僅かに変わった。
速さには自信がある。
けれど、目の前の蓮は、自分の速度そのものに驚いているわけではない。
見ている。剣だけではない。
肩。足。身体の向き。踏み込み。
「…………」
クロフォードの目が細くなる。
何度斬り込んでも、蓮は、一度も慌てない。
そして、攻撃が始まってから反応しているのではない。
その前から、次に何が来るのかを、見られている。




