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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第190話 開始前

蓮は、《アイテムボックス》から取り出した《封魔の手袋》を両手にはめた。


「…………」


 クロフォードの視線が、一瞬だけその手元へ向く。けれど、何も聞かなかった。


 蓮は手袋へ魔力を流す。身体の内側に満ちていた力が、ゆっくりと遠ざかっていく。


 前日に美月たちと確認したところまで。何度か調整した感覚を思い出しながら、力を抑えていく。


「…………」


 やがて、蓮が魔力を止めた。


 冒険者カードを操作し、現在の能力値を確認する。


 前回、《アストラ》との依頼でAランク帯まで落とした時よりは、はるかに高い。それでも、元の自分から見れば大幅に制限されている。


 昨日、美月たちと決めた状態とほとんど同じだった。


「大丈夫?」


 美月が聞く。


「……うん」


「昨日と同じくらい?」


「うん」


「ならよかった」


 クロフォードが二人の会話を聞いて、蓮の手袋をもう一度見る。


「力を調整しているのか?」


「……少し」


「そうか」


 それだけだった。


 どういう装備なのか。どこまで能力を落としているのか。クロフォードは聞かなかった。


 蓮も、それ以上説明しなかった。


「では」


 支部長が二人を見る。


「最終確認をしましょう」


「はい」


「分かりました」


 二人が答える。


「今回はあくまで模擬戦です。勝敗は、どちらかが敗北を認めた場合、戦闘の継続が難しいと判断された場合、あるいはこちらが危険だと判断した場合に決定します」


 クロフォードが頷く。蓮も続いて頷いた。


「相手へ致命傷を与えるような攻撃は避けてください」


「もちろんだ」


「……はい」


「それから、必要以上に周囲へ被害が及ぶような攻撃も控えてください」


「分かった」


「……気をつけます」


 支部長が一瞬だけ蓮を見る。


「できれば、本当にお願いします」


「……はい」


 少し離れたところで、玲奈が口元を押さえた。


「玲奈」


「何も言ってないよ」


「……笑ってる」


「気のせい」


「…………」


 美月とひなたも小さく笑っている。支部長が軽く咳払いをした。


「武器の使用も認めます。ただし、致命傷につながる使い方は避けてください」


 クロフォードが腰の長剣へ手を添える。


 蓮も、《アイテムボックス》へ意識を向けた。取り出したのは、《黒月》。


 黒い刀身を持つ、蓮が長く使ってきた魔剣。


「…………」


 クロフォードの視線が、初めて少し変わった。


「それが、君の剣か」


「……はい」


「名前は?」


 蓮は少し迷ってから答える。


「《黒月》です」


「黒月……」


 クロフォードは、それ以上何も聞かなかった。


 蓮は剣を軽く握る。


 今日は属性を纏わせない。火も、風も、雷も、光も。まずは、ただの剣として使う。


 それも前日に決めていた。


「黒瀬」


「……はい」


「準備はできたか?」


 クロフォードが聞く。


 蓮は自分の身体を確認する。《封魔の手袋》によって、能力は大きく制限されている。《身体強化》も、最初から使うつもりはない。


「……大丈夫です」


「そうか」


 クロフォードも長剣を抜いた。


 ゆっくりと鞘から現れた刀身を見て、蓮の目が僅かに細くなる。


 構えた瞬間、さっきまでとは、明らかに雰囲気が変わった。


「…………」


 無駄がない。力みもない。ただ剣を持って立っているだけなのに、どこからでも動けそうに見える。


 面会の時に感じたものより、ずっと分かりやすかった。


 この人は、やっぱり、強い。


「蓮」


 美月の声が後ろから聞こえる。


「怪我しないでね」


「……うん」


 玲奈も続く。


「ちゃんと見てるから」


「……分かった」


「二人とも頑張ってください」


 ひなたが言う。


「……うん」


 蓮は三人から視線を戻した。


 正面には、クロフォード。世界ランキング二位。Lv154。


 初めて会った時には、どれほどのものなのか分からなかった。今は違う。


 少なくとも、地上の冒険者の中でどれほど高い場所にいるのかは分かっている。そして、もうすぐ実際の動きも分かる。


「…………」


 蓮は《黒月》を構えた。クロフォードも剣を構える。


 二人の間から、さっきまでの会話の空気が消えていく。


「準備はいいですね」


 支部長が確認する。


「ああ」


「……はい」


 支部長が二人を見る。そして、片手を上げた。


「それでは――」


 蓮の視線が、クロフォードだけを捉える。クロフォードも同じだった。


「始めてください」


 次の瞬間、クロフォードが地面を蹴った。


「…………!」


 一気に間合いが縮まる。


 速い。


 蓮がそう思った時には、すでにクロフォードの剣が目の前まで迫っていた。

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