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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第189話 模擬戦の日

模擬戦を受けると伝えてから、支部長は準備を進めた。


 場所は一般には公開されない訓練施設。立ち会うのも、支部長と安全管理を担当する職員、それから《アストラ》の三人だけ。


 報道関係者はもちろん、他の冒険者にも知らせない。


 そして、勝敗についても事前に簡単なルールが決められた。


 どちらかが敗北を認めた場合。戦闘を続けられない状態になった場合。あるいは、立会人が危険だと判断した場合。


 その時点で模擬戦を終了する。


「……分かりやすい」


 説明を聞いた蓮が言う。


「そう?」


 玲奈が隣から見る。


「……うん」


「もっと細かいルールがあると思ってた?」


「分からない」


「そこからか」


 玲奈が苦笑する。


 蓮にとって、決められたルールの中で誰かと戦うこと自体がほとんどなかった。


 原初ダンジョンでは、相手を倒すか、自分が倒されるか。それだけだった。


 けれど今回は違う。相手を倒し切る必要はない。勝敗が決まれば、そこで終わる。


「蓮」


 美月が見る。


「ちゃんと止まってね」


「……うん」


「模擬戦だから」


「分かってる」


「なら大丈夫かな」


 蓮も小さく頷いた。


 前日には、《封魔の手袋》でどの程度まで能力を制限するかも確認している。前回の《アストラ》との依頼ほどは落とさない。


 まずは決めた状態で始めて、実際のクロフォードの動きを見ながら、その先を判断する。


 蓮は、そう決めていた。


      ◆


 そして、模擬戦の日。


 蓮たち四人は、支部長から指定された施設へ向かっていた。


「…………」


「蓮」


「ん?」


「緊張してる?」


 美月に聞かれて、蓮は少し考える。


「……少し」


「お」


 玲奈が反応する。


「ちゃんと緊張するんだ」


「……するよ」


「昨日まで全然そんな感じじゃなかったから」


「今日は戦うから」


「そっか」


 玲奈が少し笑う。


「私は結構緊張してるけどね」


「玲奈は戦わないよ?」


「分かってる!」


「……?」


「見る方も緊張するの!」


 ひなたが隣で小さく笑った。


「私も少し分かるかも」


「ひなたも?」


「うん。世界一位と世界二位の模擬戦だもん」


「…………」


 蓮は、その言葉を聞いて少しだけ考える。


 世界一位と世界二位。やっぱり、その言い方にはあまり実感がない。


 今日戦う相手は、エイドリアン・クロフォード。


 話してみれば、思っていたより話しやすかった。強くなりたいとはっきり言う人だった。そして、《鑑定》で見た能力も高かった。


 蓮にとっては、その方がずっと分かりやすい。


「……着いたよ」


 美月の声で、蓮が顔を上げる。


 施設の中へ入り、職員の案内に従って進んでいく。周囲はすでに管理されていて、廊下にも余計な人影はない。


 やがて、支部長が待つ場所へ到着する。


「黒瀬君」


「……こんにちは」


「神崎君たちも、ありがとうございます」


「いえ」


 美月が答える。


 支部長は蓮を見る。


「体調に問題はありませんか?」


「……大丈夫です」


「力を抑えて戦う準備も?」


「……はい」


「分かりました」


 支部長は、それ以上詳しく聞かなかった。


 蓮が普段の力をそのまま使わず、能力を制限して戦うことだけは事前に伝えてある。


「クロフォードさんは?」


 蓮が聞く。


「もう来ています」


「……そうですか」


「準備をしています。もう少ししたら、こちらへ来るでしょう」


「……はい」


 蓮は自分の両手を見る。《封魔の手袋》は、まだつけていない。


 昨日決めたところまで能力を落とすのは、実際に戦う直前でいい。


「蓮」


 美月が小さく声をかける。


「ん?」


「勝ち負けより、怪我しないことを優先してね」


「……うん」


「クロフォードさんも、蓮も」


「分かってる」


「ならいい」


 美月が小さく頷いた。


 その時、廊下の奥から足音が聞こえた。


「…………」


 蓮が顔を上げる。支部長も、そちらを見る。


 やがて姿を現したのは、見覚えのある長身の男だった。


 エイドリアン・クロフォード。


 面会の時とは違い、今日は腰に一本の長剣を下げている。


「黒瀬」


「……クロフォードさん」


 クロフォードが蓮の前まで歩いてくる。


「来てくれたんだな」


「……はい」


「ありがとう」


「いえ」


 蓮は、クロフォードを見る。


 面会の時と同じ人物。けれど、剣を持って立っているだけで少し印象が違う。


「…………」


 クロフォードも蓮を見る。


「準備は?」


「できます」


「そうか」


 蓮は小さく頷いた。


 そして、《アイテムボックス》から《封魔の手袋》を取り出した。

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