第185話 残った興味
その後、模擬戦についての話は続かなかった。
クロフォードは、蓮が「考える」と答えた時点で、それ以上何も求めてこなかった。
支部長が時計を確認し、改めて口を開く。
「では、今日はこの辺りにしましょうか」
「はい」
クロフォードが頷く。
蓮たちも席を立った。
最初にこの部屋へ入った時は、何を話せばいいのかさえ分からなかった。世界ランキング二位という肩書きも、蓮にはよく分かっていなかった。
けれど今は、少し違う。
地上の冒険者の中でも、かなり高い場所にいる人間。
そして、ランキングだけではなく、自分自身の強さを確かめようとしている人。
「黒瀬」
「……はい」
クロフォードが蓮へ向き直る。
「今日はありがとう」
「……こちらこそ」
「会えて良かった」
「はい」
蓮は少し考える。
「俺も」
一度、言葉を止める。
「会ってみて、よかったです」
「…………」
クロフォードの口元が僅かに緩んだ。
「そう言ってもらえるなら嬉しい」
美月たちは、少し離れたところから二人を見ている。
「模擬戦のことは」
蓮が続ける。
「少し考えます」
「ああ」
クロフォードは、それだけ答えた。
「いつまでに、とかありますか?」
「特にない」
「……ない?」
「ああ。急いで決める必要はない」
「……分かりました」
それ以上、クロフォードは何も言わなかった。
支部長と簡単に言葉を交わしたあと、クロフォードは部屋を出ていく。
扉が閉まる。
「…………」
蓮は、しばらくその扉を見ていた。
「蓮」
美月が声をかける。
「どうだった?」
「……どうって?」
「クロフォードさん」
「…………」
蓮は少し考える。
会う前は、世界ランキング二位ということしか知らなかった。
実際に会って。話して。《鑑定》で能力を見て。戦い方も聞いた。
「思ってたより」
一度止まる。
「……話しやすかった」
「そっち?」
玲奈が笑う。
「強さの話じゃないんだ」
「強いのも分かった」
「かなり?」
「……うん」
「まあ、世界二位だからね」
美月が言う。
「……うん」
蓮は小さく頷いた。
世界二位。
その意味も、今なら会う前より少し分かる。
「それで」
玲奈が蓮を見る。
「模擬戦、どうするの?」
「…………」
蓮はすぐには答えなかった。
「まだ分からない」
「断りたい?」
「それも」
少し考える。
「……分からない」
玲奈が首を傾げる。
「じゃあ、戦いたい?」
「…………」
蓮は、もう一度考える。
「戦いたい、とは」
一度止まる。
「まだ、思ってない」
「うん」
「でも」
クロフォードから聞いた戦い方が、蓮の頭に浮かぶ。
「実際に動いたら」
蓮が呟く。
「どんな感じなんだろうって」
「…………」
美月が蓮を見る。
「気になってるんだ」
「……少し」
蓮は素直に頷いた。
それは、勝ちたいという気持ちではない。
世界一位だから、二位と戦わなければならないとも思っていない。
ただ、実際にどう戦うのかは少し見てみたい。
「……帰ってから話そうか」
美月が言う。
「模擬戦のこと」
「うん」
「玲奈とひなたも一緒に」
「もちろん」
「私も」
玲奈とひなたが答える。
蓮は三人を見る。
「……分かった」
まだ、答えは出ていない。
蓮は、閉じた扉をもう一度見た。
ただ断るのではなく。
一度、ちゃんと考えてみよう。
今は、そう思っていた。




