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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

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第183話 一度、戦ってほしい

「頼みたいこと?」


「ああ」


 クロフォードは、蓮を真っ直ぐ見ていた。


 さっきまでの穏やかな雰囲気は残っている。けれど、その目だけが少し違っていた。


「黒瀬」


「……はい」


「一度」


 クロフォードが言葉を切る。


「私と戦ってほしい」


「…………」


 蓮が止まった。


 美月たちも、一瞬だけ黙る。


「戦う……?」


「ああ」


「俺と?」


「そうだ」


 蓮は、クロフォードを見る。


 冗談を言っているようには見えない。


「どうしてですか?」


「…………」


 クロフォードは、すぐには答えなかった。


 支部長も口を挟まず、二人を見ている。


「七年間」


 やがて、クロフォードが口を開いた。


「私はUnknownの下にいた」


「…………」


「だが、君がどれほど強いのかは知らない」


 蓮は黙って聞く。


「ランキングでは一位と二位だ。それでも、数字が一つ違うだけで、実際の差までは分からない」


「……差」


「ああ」


「今日、君と会って」


 クロフォードは少しだけ目を細める。


「君が、私の想像していた人間とは違うことは分かった」


「…………」


「だが、冒険者として君がどう戦うのかは、ほとんど分からない」


 蓮は、自分の手を見る。


 クロフォードが知っているのは、公表されている情報だけ。


 どんな武器を使うのか。


 どんな魔法を使うのか。


 どんな戦い方をするのか。


 それらは、ほとんど知られていない。


「だから戦いたいんですか?」


「それもある」


「それも?」


「一番の理由は、もっと単純だ」


 クロフォードは静かに答える。


「今の自分が、君にどこまで通用するのか知りたい」


「…………」


 蓮の目が僅かに動いた。


「勝ちたいから?」


「勝てるなら、もちろん勝ちたい」


 クロフォードは迷わず言った。


「だが、勝てなければ意味がないとは思っていない」


「……?」


「私は、自分がどこまで来ているのかを知りたい」


「…………」


「何が通用して、何が通用しないのか。それが分かれば、次に何をすればいいのかも分かる」


 蓮は、しばらく黙っていた。


 その考え方は、自分とは少し違う。


 蓮にとって、強くなることそのものが目標だったわけではない。


 だから、クロフォードの感覚はまだ完全には分からなかった。


「クロフォードさんは」


「何だ?」


「強くなりたいんですか?」


「ああ」


 返事は早かった。


「今より強くなりたい」


「…………」


 蓮はクロフォードを見る。


 そこに迷いはなかった。


「蓮」


 美月が、静かに声をかける。


「無理に答えなくていいからね」


「……うん」


 クロフォードも頷く。


「もちろんだ」


「…………」


「断っても構わない」


「いいんですか?」


「ああ」


「戦いたいんですよね」


「戦いたい」


「…………」


「だが」


 クロフォードは落ち着いたまま続ける。


「君にその気がないなら、無理に戦うつもりはない」


「…………」


 蓮は少し黙った。


 七年間のことと同じだった。


 クロフォードは、自分の希望を隠さない。


 けれど、それを蓮へ押しつけることもしない。


「模擬戦ということでしょうか」


 支部長が初めて口を開いた。


「ああ」


 クロフォードが支部長を見る。


「可能であれば、正式な管理下でお願いしたい」


「あくまで模擬戦ということですね」


「もちろんだ」


 支部長は頷く。


「黒瀬君が了承するのであれば、こちらで場所や条件を検討できます」


「…………」


 蓮は二人の会話を聞きながら、クロフォードを見る。


 Lv154。


 複数のLv9。


 《天嵐剣》Lv10。


 さっきまでは、ただ数字として見ていた。


 けれど今は、その本人が自分と戦いたいと言っている。


「…………」


 蓮は、まだ答えなかった。


 自分から戦いたいと思っているわけではない。


 ただ。


 クロフォードが、実際にどう動くのか。


 どんな戦い方をするのか。


 それを少し見てみたいという気持ちはあった。


「黒瀬」


「……はい」


「今すぐ答えなくてもいい」


「…………」


「考えてから決めてくれ」


 クロフォードは、それだけ言った。


 蓮は小さく頷く。


「……分かりました」


 世界ランキング二位からの、模擬戦の申し出。


 その場で答えを出すことはしなかった。


 けれど蓮の中には、さっきまでなかった小さな興味が残っていた。

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