↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第三部 世界第二位来日編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
182/501

第181話 聞かないということ

 七年間の話は、そこで終わった。


 クロフォードは本当に、それ以上何も聞かなかった。理由も、どこにいたのかも、どうして記録だけが存在していたのかも。


 少しの沈黙のあと、クロフォードは目の前のカップへ手を伸ばした。


「ところで」


「……はい」


「今は、普段どう過ごしているんだ?」


「普段?」


「ああ。依頼以外の時も含めて」


「…………」


 蓮は少し考える。


「美月と家にいて」


「うん」


「玲奈とひなたも、よく来ます」


「そうなのか」


「はい」


 美月が小さく笑う。


「最近は四人でいること、多いよね」


「……うん」


「依頼に行ったり、ご飯食べに行ったり」


 玲奈が付け加える。


「この前は焼肉だったよね」


「次は寿司」


 蓮がすぐに答えた。


「覚えてたんだ」


「……行くって言ったから」


「はいはい」


 玲奈が笑う。


 クロフォードは、そのやり取りを静かに見ていた。


「黒瀬は、そういう時間が楽しいのか?」


「…………」


 蓮は少しだけ考える。


 依頼へ行く。


 一緒に戦う。


 帰って、食事をする。


 何でもない話をする。


 今では、それを自分から次もやりたいと思うことが増えていた。


「……楽しいです」


「そうか」


「はい」


 今度は、ほとんど迷わなかった。


「最近は」


 蓮が続ける。


「次に四人で行く依頼も、自分で見てます」


「蓮が?」


 玲奈が少し驚いた顔をする。


「前に、美月が撮ってくれた依頼の写真」


「ああ、あれか」


「……うん」


「自分から探してるんだ」


「四人で行けそうなの、あるかなって」


「…………」


 美月が、少しだけ嬉しそうに蓮を見る。


「いいの見つかった?」


「まだ」


「そっか」


 クロフォードは、その会話を黙って聞いていた。


 世界ランキング一位として何をしているのか。


 そう聞けば、普通なら高難度ダンジョンや大規模な依頼の話を想像する。


 けれど、蓮が話しているのは、一緒に依頼へ行く仲間のことや、次に何を食べるかという話だった。


「黒瀬」


「……はい」


「一つ聞いてもいいか?」


「どうぞ」


「今、何をしている時が一番楽しい?」


「…………」


 蓮は少しだけ止まった。


 一つに決めるのは難しい。


 美月と家にいる時。


 四人で依頼へ行く時。


 玲奈たちと食事をする時。


「一番は」


 蓮は言葉を探す。


「……分からないです」


「そうか」


「でも」


 少し考える。


「四人で何かしてる時は、楽しいと思います」


「…………」


「依頼でも」


「ご飯でも」


「……たぶん」


 クロフォードが、僅かに笑った。


「十分な答えだと思う」


「……そうですか?」


「ああ」


 蓮は小さく頷いた。


 少しして、今度は蓮から口を開く。


「クロフォードさん」


「何だ?」


「もっと」


 言葉を探す。


「俺のこと、聞くのかと思ってました」


「聞きたいことはある」


「……やっぱり」


「ああ」


 クロフォードは隠さず答えた。


 蓮が少しだけ身構える。


 けれど。


「ただ」


「?」


「今日は、もう十分だ」


「…………」


 蓮がクロフォードを見る。


「十分?」


「ああ」


「君がどういう人間なのかは、少し分かってきたからな」


「……俺が?」


「そうだ」


 クロフォードは、落ち着いた声で続ける。


「少なくとも、世界一位という肩書きより、今一緒にいる人間の方を大切にしている」


「…………」


 蓮は少し考える。


 それは、自分ではあまり意識したことがなかった。


 けれど。


「……たぶん」


「違うか?」


「いえ」


 蓮は美月たちを見る。


「合ってると思います」


「そっか」


 美月が小さく笑う。


 玲奈とひなたも、それ以上何も言わなかった。


 部屋の空気は、さっきまでより少しだけ柔らかくなっていた。


 蓮は、その中でクロフォードを見る。


 七年間のことを聞かれて、少し身構えた。


 けれど、話したくないと言えば、それ以上は聞かなかった。


 そして今は、秘密ではなく。


 今の自分のことを聞いている。


「…………」


 まだ会ったばかりだ。


 まだ、知らないことの方が多い。


 それでも。


 クロフォードと話すことへの警戒は、最初より少しだけ薄れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。