第180話 七年間の空白
少しの間、誰も話さなかった。
クロフォードは、目の前の蓮を静かに見ている。世界ランキング一位。Unknown。七年間、自分の上に存在し続けた人物。
けれど、実際に会ってみても、分からないことはまだ多い。
「黒瀬」
「……はい」
クロフォードが、少しだけ声の調子を変えた。
「もう一つ、聞いてもいいか?」
「……どうぞ」
蓮は頷く。
クロフォードは、すぐには続けなかった。美月たちも、支部長も黙っている。
「君は」
少し間を置く。
「七年前、どこにいた?」
「…………」
蓮の表情が止まった。
美月が、僅かに蓮を見る。玲奈とひなたも何も言わない。
「七年前から、Unknownは世界ランキング一位だった」
「…………」
「それから七年間、順位は変わらなかった」
蓮は黙って聞いている。
「だが、公的な活動記録がほとんどない」
「…………」
「攻略したダンジョンも、所属していた組織も、戦闘記録も見つからない。それなのに、ランキングには存在していた」
蓮の指が、膝の上で僅かに動く。
クロフォードは、その変化に気づいた。
「そして今、君は二十五歳だ」
「…………」
「七年前なら、十八歳」
蓮は、目を伏せた。
実際には、その頃もずっとあの場所にいた。朝も夜も、外がどうなっているのかさえ知らず、ただ生きるために戦っていた。
「黒瀬」
「…………」
「君は、その七年間」
クロフォードは静かに問いかける。
「どこで、何をしていた?」
「…………」
蓮は答えなかった。
部屋の中が静かになる。美月は何も言わない。支部長も、蓮を見守っている。
蓮は、言葉を探した。
話せない。
というより。
まだ、この人に話すのは違う気がした。
「……それは」
一度、言葉が止まる。
「今は……あまり、話したくないです」
「…………」
クロフォードは、蓮を見た。
「話せない事情がある?」
「……あります」
「そうか」
少し間を置く。
「なら、聞かない」
「…………」
蓮が顔を上げる。
クロフォードは、もう質問を続けなかった。
「聞かないんですか?」
「ああ」
「……でも」
蓮は少し迷う。
「気になってたんですよね」
「気になっている」
「七年間?」
「ああ」
「…………」
「それでも?」
クロフォードが、少しだけ首を傾げる。
「それでも、何だ?」
「……聞かないんですか?」
「ああ」
クロフォードは落ち着いた声で答えた。
「君が、今は話したくないと言ったからな」
「…………」
蓮は、何も言わなかった。
七年間、自分の上にいたUnknownを意識し続けてきた人間。
その本人を目の前にして、聞きたいことはいくらでもあるはずなのに、クロフォードはそれ以上踏み込まなかった。
蓮は、ほんの少しだけクロフォードを見る目を変えた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われることではない」
「……でも」
蓮は少し考える。
「ありがとうございます」
「…………」
クロフォードは、僅かに笑った。
「分かった」
それ以上、この話は続かなかった。
けれど蓮の中には、さっきまでとは少し違う感覚が残っていた。




