第178話 世界二位の戦い方
蓮がクロフォードを見る目は、さっきまでとは少しだけ変わっていた。
Lv154。複数のLv9。そして、《天嵐剣》Lv10。
地上へ戻ってから見た人間の中では、明らかに違う。
「クロフォードさん」
「何だ?」
蓮は少し考えてから口を開く。
「戦う時って」
「うん」
「剣を使うんですか?」
クロフォードが僅かに目を細めた。
「ああ。基本は剣だ」
「魔法も?」
「使う」
「……どんな?」
今度は、玲奈が蓮を見る。
「蓮、珍しいね」
「……何が?」
「自分から戦い方聞くの」
「…………」
言われて、蓮は少し止まった。確かに、今まで他の冒険者がどう戦うのかを、自分から詳しく聞いたことはほとんどない。
「……気になったから」
「へえ」
玲奈が少し楽しそうに笑う。
クロフォードも、そのやり取りを見てから答えた。
「風魔法を使う」
「風……」
「ああ。身体強化と組み合わせて、速度を上げることが多い」
「剣にも魔力を?」
「使う」
蓮は黙って聞いていた。
《身体強化》。
《高速移動》。
《魔力剣》。
《風魔法》。
鑑定で見たスキルと、クロフォード自身が話す戦い方が繋がっていく。
「速さが得意なんですね」
「ああ」
クロフォードは迷わず頷いた。
「近距離で、相手に自由に動かせないことを意識している」
「自由に……?」
「相手が剣を振る前に距離を詰める。魔法を使うなら、発動する前に崩す。距離を取ろうとするなら、その動きより先に追う」
「…………」
玲奈の表情が少し変わった。
「それ」
「かなり嫌な戦い方ですね」
「よく言われる」
クロフォードは平然と答える。
「相手に主導権を渡さない。それが基本だ」
「……主導権」
蓮が呟く。
敏捷、28,900。
そこへ《身体強化》Lv9と《高速移動》Lv9。さらに《風魔法》Lv8。
数字だけで見ていたものが、少しずつ戦い方として形になっていく。
「じゃあ」
玲奈が口を開く。
「基本的には、一気に近づいて決める感じですか?」
「相手による」
「違う時も?」
「ああ。速さだけで倒せる相手ばかりではない」
クロフォードは少し考える。
「硬い相手なら攻撃に重点を置く。動きが速い相手なら、こちらも移動を優先する。魔法主体の相手なら、まず発動させないことを考える」
「戦いながら変えるんですか?」
ひなたが聞く。
「ああ」
「その場で?」
「もちろん」
「…………」
玲奈が、小さく息を吐いた。
「それをあの速さでやるんだ……」
クロフォードは、特別なことを話しているという様子もなく頷いた。
「クロフォードさん」
蓮が聞く。
「一番得意なのは?」
「一番?」
「はい」
クロフォードは少しだけ考える。
「剣と風を組み合わせた近距離戦だ」
「速さだけじゃなくて?」
「ああ」
クロフォードは静かに答える。
「速く動くだけなら、それだけでは上には行けない」
「…………」
「相手を見て、剣、魔法、動きを切り替える。それをどこまで自然に繋げられるかが重要だ」
蓮の目が僅かに動く。
剣だけではない。
魔法だけでもない。
速度だけでもない。
高い能力を、一つずつ使うのではなく、相手に合わせて繋いでいく。
「……だから」
「ん?」
「強いんですね」
クロフォードが、少しだけ目を細める。
「そうありたいとは思っている」
「…………」
蓮は小さく頷いた。
玲奈も黙っていた。
剣を使う。
速く動く。
それだけなら、自分にも理解できる。
けれど、高速で戦いながら相手を見て、その場で最適な動きを選び続ける。それは単純なステータスの高さだけではできない。
「玲奈と少し似てると思ったけど」
蓮が隣を見る。
「やっぱり違うかも」
「今さら!?」
「剣だから似てるかなって」
「最初からそこしか共通点なかったからね!?」
美月とひなたが小さく笑う。
クロフォードも僅かに口元を緩めた。
「水野も剣士なのか?」
「はい。一応、前衛です」
「一応じゃないでしょ」
美月が言う。
「《アストラ》の前衛は玲奈一人なんだから」
「まあ、そうだけど」
玲奈は少し照れたように視線を逸らした。
クロフォードは三人を見る。
「神崎は魔法使い。小川は後衛支援だったな」
「知ってるんですか?」
ひなたが少し驚く。
「ああ。日本へ来る前に、公表されている範囲は確認した」
「…………」
蓮がクロフォードを見る。
「俺のことも?」
「もちろん」
「何が分かりました?」
その質問に、クロフォードは少しだけ黙った。
「ほとんど何も」
「……何も?」
「ああ」
クロフォードは淡々と答える。
「黒瀬蓮。二十五歳。日本人」
そこで一度言葉を切る。
「冒険者登録の際に、七年間世界ランキング一位だったUnknown本人だと判明した」
「《アストラ》に所属していること。そして、変異したSランクダンジョンへ一人で入り、三人を連れて帰還したこと」
「…………」
「公表されている情報を集めても、その程度だ」
蓮は少し考える。
「少ないんですか?」
「私から見れば、かなり少ない」
「……そうなんですね」
「私のように長く活動していれば、攻略したダンジョンや戦い方についても、ある程度は情報が残る」
クロフォードは、蓮を見る。
「だが、君にはそれがほとんどない」
「…………」
蓮は答えなかった。
支部長も、静かに二人の会話を聞いている。
クロフォードは、それ以上踏み込まなかった。
「だから」
「?」
「実際に会ってみたかったというのもある」
「…………」
蓮は、少しだけ頷く。
「クロフォードさんは」
「うん」
「自分の戦い方、知られてるんですか?」
「かなりな」
「嫌じゃないんですか?」
クロフォードは少し考える。
「隠せるなら、その方が有利ではある」
「でも?」
「七年間も活動していれば、完全に隠すのは難しい」
「……なるほど」
蓮には、まだよく分からない世界だった。
自分がどんなスキルを使うのか。どんな武器を持っているのか。それを他人が知っている。
原初ダンジョンでは、考える必要すらなかったことだ。
「…………」
蓮は、もう一度クロフォードを見る。
話を聞く前よりも、戦い方は分かった。
高い敏捷だけではない。剣も、魔法も、身体能力も高い。そして、それらを相手に合わせて使える。
Lv154。
複数のLv9。
そして、《天嵐剣》Lv10。
世界二位という順位にも、それだけの理由がある。
蓮は、目の前のクロフォードを静かに見つめた。




