第176話 世界一位らしくない
しばらく話しているうちに、最初にあった硬さは少しずつ薄れていた。
クロフォードは、蓮が想像していたよりも話しやすかった。世界ランキング二位だからといって偉そうにすることもなく、美月たちにも自然に接している。
蓮も、最初ほど言葉に迷わなくなっていた。
「黒瀬」
「……はい」
「一つ、気になっていることがある」
「……何ですか?」
クロフォードは、少しだけ視線を美月たちへ向ける。
「君が《アストラ》に入ったことだ」
「…………」
蓮も三人を見る。
「正式に冒険者になったばかりの世界一位が、すぐに既存のパーティーへ入った」
「珍しいことなんですか?」
「かなりな」
クロフォードは答える。
「君なら、他にもいろいろな選択肢があったはずだ」
蓮は少し考える。
そんな話をされたことはある。けれど、自分にとってはあまり重要ではなかった。
「でも」
「うん」
「俺、《アストラ》がいいので」
「…………」
クロフォードが、少しだけ目を細める。
「理由を聞いても?」
「理由……」
蓮は考える。
美月がいる。玲奈がいる。ひなたがいる。
一緒に戦った。一緒に食事をした。次の依頼も、四人で行きたいと思っている。
「一緒にいるの」
少し言葉を探す。
「……楽しいから」
「…………」
今度は、美月たちが黙った。
玲奈が蓮を見る。
「蓮」
「……何?」
「普通に言えるようになったね」
「…………」
蓮は、少しだけ困った。
「だめだった?」
「逆」
玲奈が笑う。
「いいと思う」
「……そっか」
クロフォードは、そのやり取りを静かに見ていた。
世界一位。Unknown。七年間、自分の上に存在し続けた名前。
その本人が、パーティーを選んだ理由は強さでも名声でもなかった。
一緒にいるのが楽しい。
ただ、それだけ。
「本当に」
クロフォードが口を開く。
「君は、私が想像していた人物とは違うな」
「……どんな人だと思ってたんですか?」
蓮が聞く。
「もっと、自分の強さに自信を持っている人間だと思っていた」
「…………」
「世界一位であることも当然だと思っていて、周囲からどう見られるかも気にしない。そんな人物を想像していた」
「……違いました?」
「ああ」
クロフォードは、迷わず答える。
「かなり」
「…………」
蓮は少し考える。
「俺」
「そんなに変ですか?」
「変というより」
クロフォードが、僅かに笑う。
「世界一位らしくない」
「…………」
「世界一位らしいって」
蓮は首を傾げる。
「どんな感じですか?」
「難しい質問だな」
「……そうなんですか?」
「ああ」
クロフォードは少し考える。
「少なくとも、自分が世界一位だと聞いて『よく分からない』と言う人間は少ないと思う」
「……なるほど」
蓮は頷く。
けれど、やっぱり自分が世界一位である実感はなかった。
ランキングを見ても、数字が一番上にあるだけ。世界二位がどれくらい強いのかも、まだ分からない。
「クロフォードさん」
「何だ?」
「世界二位って」
蓮は少し考える。
「自分では、どれくらい強いと思ってるんですか?」
「…………」
美月たちが、僅かにクロフォードを見る。支部長も黙ったまま視線を向けた。
クロフォードは、少しだけ考えてから答える。
「少なくとも」
「冒険者の中では、かなり強い方だと思っている」
「かなり?」
「ああ」
「世界二位ですからね」
玲奈が思わず口を挟む。
「…………」
蓮は、クロフォードを見る。
本人も、自分が強いことは分かっている。
それでも、自慢しているようには聞こえない。ただ、事実としてそう認識している。
「……そうなんですね」
蓮は、もう一度クロフォードを見る。
長身の身体。隙のない立ち姿。戦い慣れていることは、最初に見た時から分かっていた。
けれど。
実際に、どれくらい強いのか。
それは、まだ分からない。
「…………」
蓮は、目の前にいるクロフォードを、もう一度静かに見た。




