第173話 会いに行く
面会当日の朝。
蓮は、いつもより少し早く目を覚ました。
「…………」
隣の部屋から物音がする。美月が起きている。それを確認してから、蓮はベッドを出た。
リビングへ行くと、美月が朝食の準備をしていた。
「おはよう、美月」
「おはよう、蓮」
美月が振り返る。
「今日だね」
「……うん」
世界ランキング二位。エイドリアン・クロフォード。今日、その人物と初めて会う。けれど、蓮自身は何を話せばいいのか、まだよく分かっていなかった。
「美月」
「ん?」
「今日」
蓮は少し考える。
「何話せばいい?」
「え?」
「クロフォードさんと」
「…………」
美月は少しだけ笑った。
「別に、決めなくていいんじゃない?」
「……いいの?」
「向こうが蓮に会いたいって言ったんだから。まずは普通に話せばいいと思うよ」
「普通に……」
蓮は考える。普通に話す。少し前までなら、それ自体が難しかった。今も得意ではない。それでも、美月たちとは前より話せるようになった。
「分からないことがあったら聞けばいいし、蓮が話したくないことは、話さなくていいから」
「……うん」
蓮は頷いた。
七年間、世界から姿を見せなかった理由。もし聞かれれば、そこへ触れられる可能性もある。けれど、まだ、話すつもりはなかった。
「それでいい?」
「うん」
「……分かった」
朝食を終えて、蓮は自分の部屋へ戻った。
少しして。
「美月」
「なに?」
「服」
「服?」
蓮が、自分の服を見る。
「これでいい?」
「…………」
美月は蓮を見る。いつも着ている服。特別なものではない。
「いいんじゃない? 世界二位に会うからって、着飾る必要もないでしょ」
「……そっか」
蓮は、そのまま頷いた。
しばらくして、インターホンが鳴る。美月が玄関を開けると、玲奈とひなたが立っていた。
「おはよ」
「おはようございます」
「おはよう」
二人が中へ入る。玲奈は、リビングにいる蓮を見るなり口を開いた。
「蓮、緊張してる?」
「……緊張?」
「今日、世界二位に会うんだよ?」
「…………」
蓮は少し考える。
「分からない」
「分からないって何?」
「会ったことないから」
「…………」
玲奈が少し止まる。
「まあ、そうなんだけど」
ひなたが小さく笑った。
「蓮さんらしいですね」
「……?」
蓮には、なぜそう言われたのか分からなかった。
「そろそろ行こっか」
美月が時計を見る。
「……うん」
四人は家を出た。
向かうのは、ギルド側が用意した関係者用の施設。一般の冒険者や報道陣が入ることのできない場所だった。
移動中、玲奈とひなたはいつも通り話している。美月も、その会話に混ざる。蓮は三人の話を聞きながら、時々返事をする。
普段と、大きく変わらない。ただ、今日の目的だけが違う。
世界ランキング二位。エイドリアン・クロフォード。
「…………」
昨日、写真は見た。名前も知った。剣を使うことも、日本語を話せることも知った。けれど、実際にどんな人なのかは、まだ何も分からない。
やがて、四人はギルド側が用意した施設へ到着した。
「着いたよ」
美月の声に、蓮が建物を見る。ここに、クロフォードがいる。
「…………」
蓮は、美月たちと一緒に施設へ入った。
入口には、ギルド職員が待っていた。
「お待ちしていました。こちらです」
職員の案内で、四人は建物の中を進んでいく。人の姿は少ない。報道陣もいない。
静かな廊下を進み、やがて一つの扉の前で職員が止まった。
「クロフォード氏は、この中でお待ちです」
「…………」
蓮が扉を見る。
世界ランキング二位。七年間、自分のすぐ下にいた人間。その人物が、扉の向こうにいる。
「蓮」
美月が呼ぶ。
「……うん」
蓮は、一度だけ頷いた。
職員の手が扉へ伸びる。そして、ゆっくりと、扉が開き始めた。
みなさん回答ありがとうございました。
②が圧倒的多数でした。
全話②の改行少なめで修正してきました。
これからもよかったら楽しんでください。




