第172話 世界二位という人
その日の夜、美月の家に玲奈とひなたが来ていた。
「世界二位!?」
美月から話を聞いた玲奈が、思わず声を上げる。
「本当に?」
「うん。明後日、蓮と会うことになった」
「…………」
玲奈が蓮を見る。蓮は、いつも通りソファに座っている。
「蓮」
「……?」
「なんでそんな普通なの? エイドリアン・クロフォードだよ? 世界二位だよ?」
「…………」
蓮は少し考える。
「名前は、聞いた」
「そうじゃなくて!」
玲奈が頭を抱える。その隣で、ひなたが小さく笑った。
「蓮さんには、まだ実感がないんじゃないですか?」
「……たぶん」
蓮が頷く。
「世界二位って言われても」
少し止まる。
「どれくらいなのか、……分からないから」
「まあ、蓮なら、そうなるのか……」
玲奈が少し落ち着く。美月がスマートフォンをテーブルへ置く。
「一応、クロフォードさんのこと、少し見てみたよ」
「……見た?」
「うん。公開されてる情報だけ」
蓮が画面を見る。そこには、一人の男の写真。長身。ダークブラウンの髪。灰青色の瞳。落ち着いた表情。その横には、エイドリアン・クロフォード。三十一歳。イギリス。Sランク冒険者。世界ランキング二位。
「この人?」
「うん」
「…………」
蓮は写真を見る。少しして。
「背、……高いね」
玲奈が画面を見る。
「蓮より高いんじゃない?」
「……たぶん」
「それより」
美月が画面を指す。
「クロフォードさん、剣を使うみたい」
「……剣?」
蓮の視線が少し変わる。
「うん。近接戦が中心みたい」
玲奈も頷く。
「剣士としても、かなり有名だよ。高難度ダンジョンの攻略実績も多いし」
「…………」
蓮は、もう一度写真を見る。
「玲奈より?」
「…………」
玲奈が止まる。
「蓮、それ本気で聞いてる?」
「……うん」
「比べないで。泣くから」
「…………」
蓮が少し困る。
「……ごめん」
「謝られると、余計つらいんだけど!」
ひなたが思わず笑う。美月も少しだけ笑った。
「でも」
ひなたが画面を見ながら、何かに気づく。
「あ」
「どうしたの?」
「クロフォードさん、日本語、話せるみたいです」
「え?」
玲奈が画面を覗く。
「ほんとだ」
美月も記事を見る。
「お母さんが日本人なんだって。子供の頃、日本に住んでた時期もあるみたい」
「じゃあ」
蓮が顔を上げる。
「普通に話せる?」
「たぶん。通訳はいらないと思う」
「……そっか」
蓮は少しだけ頷く。
「英語、話せないから」
「…………」
三人が蓮を見る。
「何?」
玲奈が少し笑う。
「いや、そういうところは、普通なんだなって」
「……普通?」
「うん」
「…………」
蓮は少し考える。けれど、何がおかしいのか、よく分からなかった。
「それと」
美月が話を戻す。
「明後日、私たち三人も、一緒に行くことになったから」
「……三人も?」
「うん。支部長が、その方がいいだろうって」
「…………」
蓮は美月を見る。玲奈。ひなた。そして、もう一度三人を見る。
「……分かった」
少しして。
「ありがとう」
「…………」
美月が少しだけ笑う。玲奈も、ひなたも、何も言わなかった。
しばらくして、蓮はもう一度テーブルの上にあるスマートフォンを見る。写真の中。エイドリアン・クロフォードは、静かな表情でこちらを見ている。
世界ランキング二位。Sランク冒険者。剣を使う。日本語も話せる。それくらいは分かった。けれど、写真を見ても分からないことの方が、ずっと多い。
「…………」
蓮は少しだけ画面を見つめる。そして、小さく。
「……どんな人なんだろう」
そう呟いた。




