第171話 会うことになった
美月から支部長へ連絡が入った。
『蓮、会ってもいいそうです』
「そうか」
『はい』
「無理をしている様子は?」
『それは大丈夫だと思います』
支部長は少しだけ安心した。
世界ランキング二位、エイドリアン・クロフォードとの面会。黒瀬蓮が嫌がるのであれば、相手が誰であっても断るつもりだった。
「分かった。では、こちらで日程を調整する」
『お願いします』
「神崎君たちも、一緒で構わないか?」
『私たちもですか?』
「ああ」
支部長は少し考えてから続ける。
「黒瀬君も、その方が落ち着くだろう」
『……そうですね』
美月もすぐに納得した。
初めて会う相手であり、しかも世界ランキング二位だ。美月たちが一緒なら、蓮も余計なことを気にせず話せるだろう。
『玲奈とひなたにも聞いてみます』
「頼む」
『はい』
通話が終わる。
「…………」
支部長は机の上の書類へ視線を落とした。
エイドリアン・クロフォード。
世界ランキング二位。
そして、黒瀬蓮。
世界ランキング一位。
二人が直接会う。
世間が知れば、間違いなく大きな騒ぎになる。
だからこそ、場所は慎重に選ぶ必要があった。
通常のギルド施設では人の出入りが多い。一般冒険者、職員、依頼人。誰かに気づかれる可能性もある。
支部長は少し考え、ギルドが管理する関係者用の施設を候補に選んだ。
一般の冒険者は立ち入らない。入口も通常の施設とは分かれている。
そこであれば、報道陣に囲まれる可能性もかなり低い。
「…………」
先ほどまで面会の可否を保留していた英国側の窓口へ、支部長は改めて連絡を入れた。
しばらくして通話がつながる。
『はい』
「先ほどの件ですが」
『黒瀬氏の面会についてですか?』
「はい」
支部長は少し間を置く。
「本人から、面会を受けるとの返事がありました」
『…………』
電話の向こうで、一瞬沈黙があった。
『分かりました』
「場所と時間はこちらで指定します」
『問題ありません』
「当日は、黒瀬君のパーティーメンバーも同席する予定です」
『承知しました』
余計な注文は何もない。
「では、詳細が決まり次第、改めて連絡します」
『よろしくお願いします』
通話が終わる。
◆
同じ頃。
クロフォードの滞在先であるホテルの一室。
窓際に一人の男が立っていた。
エイドリアン・クロフォード。
その背後から、英国側の職員が声をかける。
「クロフォードさん」
「何だ?」
「日本側から連絡がありました」
クロフォードが振り返る。
「黒瀬蓮氏が、面会を受けるそうです」
「そうか」
短い返事。
けれど、その灰青色の瞳がほんの僅かに変わった。
七年間。
ずっとランキングの頂点にいた人物。
姿さえ分からなかった。
その人物と、ようやく直接言葉を交わせる。
「日程は?」
「現在調整中です。場所も日本側が用意するとのことです」
「分かった」
クロフォードはそれ以上何も聞かなかった。
ただ、再び窓の外へ視線を向ける。
黒瀬蓮。
七年間、誰にもその座を譲らなかった世界ランキング一位。
どんな人間なのか。
どんな考えを持っているのか。
なぜ七年間、誰にも姿を見せなかったのか。
まだ何も分からない。
だから、まずは会う。
話す。
それでいい。
◆
翌日、美月のスマートフォンへ支部長から連絡が届いた。
『面会日時が決まりました』
美月がその画面を蓮へ見せる。
「蓮」
「ん?」
「決まったよ」
「……いつ?」
美月が画面を見る。
「明後日」
「…………」
蓮は少しだけ止まった。
世界ランキング二位。
エイドリアン・クロフォード。
その人物と会う日が決まった。
「……分かった」
蓮は短くそう答えた。




