第168話 世界第二位
この第三部は他に短めになります。
空港。
大型モニターに映る一人の青年、黒瀬蓮。その名前を静かに見つめていた男。その正体を、世界中の冒険者なら知らない者はいない。
エイドリアン・クロフォード。三十一歳。イギリス人。Sランク冒険者。
そして。
――世界ランキング二位。
世界中に数え切れないほど存在する冒険者。その中で、たった一人を除けば最も高い位置にいる男だった。
「クロフォードさん!」
「こちらお願いします!」
「今回の来日の目的を教えてください!」
到着を待っていた報道陣が、一斉にクロフォードを取り囲む。
日本のテレビ局。新聞社。海外メディア。大量のカメラがクロフォードへ向けられる。
「日本のダンジョン攻略が目的ですか!?」
「日本側から依頼を受けたのでしょうか!?」
「滞在期間は!?」
次々と質問が飛ぶ。
クロフォードは騒がしい声の中、足を止める。表情はほとんど変わらない。
その時、一人の記者が声を張った。
「今回の来日は!」
一瞬、周囲の声が弱まる。
「Unknown――黒瀬蓮に会うためですか!?」
「…………」
クロフォードはその記者を見る。
少しの間。
そして。
「そうだ」
短く答えた。
「……!」
その瞬間、再び周囲が騒がしくなる。
「やはり黒瀬蓮が目的なんですか!?」
「すでに面会は決まっているのでしょうか!?」
「世界一位へ挑戦するつもりですか!?」
「黒瀬蓮について、どう考えていますか!?」
次々と向けられる質問。
クロフォードは少しだけ視線を横へ向けた。
そこには、先ほどまで見ていた大型モニター。
ニュース番組の画面に黒瀬蓮の姿。そして、その横には世界ランキング。
一位。
Unknown。
黒瀬蓮。
「…………」
クロフォードはその表示を見る。
七年間。
長い間、そこだけは一度も変わらなかった。
ダンジョンが世界へ現れてから、クロフォードも数え切れないほどの戦いを経験してきた。
魔物を倒した。ダンジョンを攻略した。何度も死の近くまで行った。
その度に強くなった。そして、さらに強くなろうとした。
気づけば、自分より上にいる冒険者はほとんどいなくなっていた。
それでも、一番上だけは届かなかった。
《Unknown》
顔。名前。年齢。国籍。所属。
何一つ分からない。
世界中の誰も、その姿を見たことがない。それなのに、世界ランキング一位。
最初は、いつかランキングから消えるのではないかと思った。
だが。
一年。二年。三年。
何年経ってもUnknownはそこにいた。
そして、クロフォード自身が世界二位になってからも、一位だけは変わらなかった。
どんな人間なのか。どこにいるのか。何と戦っているのか。
なぜ、一度も表へ出てこないのか。
何も分からない。
そのUnknownが、突然世界へ姿を現した。
黒瀬蓮。二十五歳。日本人。正式な冒険者登録。
そして、Sランクへ変異したダンジョンへ一人で入った。
その後、《アストラ》の三人と無事に帰還。
その一連の出来事によって、世界中が知ることになった。
七年間、正体不明だった世界ランキング一位。
その人物が、黒瀬蓮だということを。
「クロフォードさん!」
記者の声で、クロフォードは視線を戻す。
「黒瀬蓮に勝つために、日本へ来たんですか!?」
「世界一位と戦うつもりですか!?」
「…………」
クロフォードは少し考える。
「黒瀬蓮に勝つためだけに」
「日本へ来たわけではない」
周囲が少しだけ静かになる。
「では」
「何のために?」
「…………」
クロフォードは再びモニターを見る。
「七年間」
「私の上にいた人間だ」
それだけで十分だった。
「どんな人物なのか」
「自分の目で」
「一度見てみたい」
「それだけだ」
「では、戦うつもりはないと?」
「…………」
クロフォードは少しだけ考える。
「それは」
「会ってから決める」
「……!」
「戦う可能性はあるんですね!?」
「模擬戦を申し込むつもりですか!?」
「黒瀬蓮の実力を確かめるためですか!?」
再び大量の質問。
だが、クロフォードはもう答えなかった。
迎えに来ていた関係者へ視線を向ける。
「行こう」
「はい」
そのまま歩き出す。
背後から今も記者たちの声が聞こえる。
クロフォードは気にすることなく、空港を進んでいく。
黒瀬蓮。
七年間、自分の上にいた唯一の冒険者。
世界一位だから憎いわけではない。一位の座を奪いたいだけでもない。
ただ、知りたかった。
七年間、誰にも姿を見せず、それでも自分より上に居続けた人物が、どんな人間なのか。
そして、自分とは何が違うのか。
「…………」
エイドリアン・クロフォード。
世界ランキング二位。
その来日は、その日のうちに日本だけではなく、世界中で報じられることになった。
――世界第二位。
エイドリアン・クロフォード。
来日。
そのニュースを、まだ黒瀬蓮本人だけが知らなかった。




