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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第166話 四人で食べる

ダンジョンを出たあと。


 四人はそのまま、冒険者ギルドへ戻った。


      ◆


「お疲れさまでした」


 受付で、美月が今回の依頼について報告する。


「《鉄殻大蜥蜴》の大型個体、討伐完了です」


「確認いたします」


 討伐証明。回収した魔石。指定された素材。それらを順番に確認していく。


「問題ありません」


 受付職員が書類へ記録する。


「これで依頼完了となります」


「ありがとうございます」


 美月が小さく頭を下げる。


 玲奈が隣で伸びをした。


「よし」


「……?」


 蓮が見る。


「今度こそ」


 玲奈がにやっと笑う。


「焼肉」


「…………」


 蓮は少しだけ考える。そして。


「……行きたい」


「よし!」


「玲奈さん」


 ひなたが少し笑う。


「さっきも聞いてましたよね」


「何回確認してもいいでしょ」


「……何回も?」


「蓮が自分から『行きたい』って言うの、まだ珍しいから」


「…………」


 蓮は少し考える。


「……そう?」


「そう」


      ◆


 ギルドを出て、四人は焼肉店へ向かった。


 以前、蓮は美月と二人で焼肉を食べたことがある。


 地上へ戻って、まだそれほど経っていなかった頃。十年間、一人で生きるために食べていた蓮にとって、店で誰かと向かい合って肉が焼けるのを待つ。そんな食事そのものが久しぶりだった。


 その時、向かいにいたのは美月だけ。


 今日は違う。


      ◆


「四名様ですね」


「はい」


 案内された席に四人が座る。


 美月の隣に蓮。向かいに玲奈とひなた。


「さて」


 玲奈がメニューを開く。


「何食べる?」


「私はタン食べたいです」


「じゃあタン」


「美月は?」


「私は何でもいいよ」


「一番困るやつ」


「玲奈が好きなの頼めば?」


「じゃあいっぱい頼む」


「ほどほどにね」


「…………」


 蓮はメニューを見ていた。


 写真。名前。値段。いろいろな肉が並んでいる。


「蓮は?」


 ひなたが聞く。


「……俺?」


「はい」


「食べたいものあります?」


「…………」


 いつもなら、何でもいい。そう答えていたかもしれない。


 けれど今は、少し考える。


「……前」


「前?」


 蓮が美月を見る。


「美月と食べた」


「焼肉?」


「……うん」


「何食べたっけ」


「…………」


 蓮がメニューを見る。


「これ」


 指を差す。


「カルビ?」


「……たぶん」


「たぶん?」


 玲奈が笑う。


「食べた本人が分かんないの?」


「……肉だった」


「全部肉だよ!」


 ひなたが思わず笑う。美月も口元を押さえていた。


「じゃあカルビも頼もっか」


「……うん」


      ◆


 しばらくして、テーブルいっぱいに肉が並んだ。


「よし」


 玲奈がトングを持つ。


「焼くよ」


「玲奈さん」


「ん?」


「一気に乗せすぎです」


「大丈夫大丈夫」


「絶対焦げますよ」


「焦げる前に食べればいい」


「それができないから言ってるんです」


「…………」


 蓮は二人を見る。


 その横で、美月が網の上の肉をひっくり返す。


「蓮」


「……?」


「これ、もう食べられるよ」


「……うん」


 蓮が肉を取る。


 一口。


「…………」


「どう?」


「……美味しい」


「よかった」


 美月が笑う。


 前にも似たようなことがあった。美月に焼けた肉を教えてもらって、それを食べた。


 でも今日は。


「蓮、それ私の肉!」


「……?」


 玲奈の声。


「それ私が育ててたやつ!」


「……育てる?」


「焼いてたってこと!」


「…………」


「玲奈さん」


 ひなたが呆れたように笑う。


「網の上に置いたら共有財産です」


「そんなルールない!」


「…………」


 蓮は口の中の肉を食べる。


「……美味しい」


「感想そこ!?」


      ◆


 少しして、蓮がふと三人を見る。


「…………」


 美月。玲奈。ひなた。


 目の前には肉。ご飯。飲み物。


 それぞれが好きなものを食べて、くだらないことで話している。


「どうしたの?」


 美月が蓮の視線に気づく。


「……前と違う」


「前?」


「……焼肉」


「うん」


「前は」


 蓮が少し考える。


「美月と二人だった」


「そうだね」


「今日は」


 三人を見る。


「……四人」


「うん」


 玲奈が肉を食べながら蓮を見る。


「嫌?」


「…………」


 蓮は少し考える。


「違う」


「じゃあ?」


「…………」


 言葉を探す。


「前も」


「うん」


「……よかった」


 美月が静かに聞いている。


「でも」


「うん」


「今日は」


 玲奈とひなたを見る。


「……こっちもいい」


「…………」


 玲奈が少しだけ止まる。


「それ褒めてる?」


「……褒めてる」


「ほんと?」


「……うん」


「じゃあ許す」


「何を?」


「何でもない」


      ◆


「そういえば」


 玲奈が新しい肉を網へ乗せる。


「今日の戦闘」


「……?」


「結局どうだった?」


「さっき聞いたでしょ」


 美月が言う。


「聞いたけど」


「……?」


「今はご飯食べながらだし」


 玲奈が蓮を見る。


「もうちょっと出てくるかもしれないじゃん」


「…………」


 蓮は少し考える。


「前より」


「うん」


「……パーティーっていうのが」


 少し止まる。


「分かった気がする」


「どういうこと?」


「…………」


 蓮は言葉を探す。


「俺だけ」


「うん」


「分かってるより」


「…………」


「みんなに伝えた方が」


「うん」


「……戦いやすかった」


 玲奈が静かに頷く。


「そっか」


「……うん」


 美月も少し笑う。


「ちゃんと伝わったよ」


「…………」


 蓮は小さく頷いた。


      ◆


「じゃあ」


 ひなたが話題を変える。


「次は何食べたいですか?」


「……次?」


「はい」


「今日が焼肉ですから」


「…………」


「次に四人で行くなら」


 蓮が考える。


 少し前まで、そんなことを考えたこともなかった。


 食事は、生きるため。腹が減ったから食べる。それだけだった。


 でも今は違う。


「…………」


「寿司」


「お」


 玲奈がすぐに反応する。


「出た」


「……何?」


「食べたいもの」


「…………」


「前より早く出てきたじゃん」


「……そう?」


「そう」


 美月も少し笑う。


「お寿司も前に食べた?」


「……うん」


「気に入った?」


「…………」


 蓮が少し考える。


「……美味しかった」


「じゃあ次は寿司ですね」


 ひなたが嬉しそうに言う。


「…………」


 蓮が三人を見る。


「……四人で?」


「もちろん」


 玲奈が答える。


「…………」


 少しだけ間があって。


「……行きたい」


 今度は以前より早く言えた。


      ◆


 食事が終わり、会計へ向かう。


「じゃあ」


 玲奈が財布を出す。


「四人で割ろっか」


「……俺が払う」


「は?」


「…………」


 蓮が玲奈を見る。


「俺」


「うん」


「……払える」


「それは知ってる!」


「……?」


 玲奈が思わず声を上げる。


「なんで全部払おうとするの」


「……お金あるから」


「それも知ってるって!」


 美月が苦笑する。


「蓮」


「……なに?」


「蓮が払いたいなら」


「……うん」


「今度、ご馳走してもらうのもいいけど」


「…………」


「今日は」


 美月が玲奈とひなたを見る。


「最初の四人での焼肉だし」


「うん」


「みんなで出そっか」


「…………」


 蓮は少し考える。


「……割り勘?」


「そう」


「…………」


「それも普通?」


「まあ」


 美月が笑う。


「そういうことも多いかな」


「…………」


 玲奈が蓮を見る。


「だから今日は割り勘」


「……分かった」


「でも」


「……?」


 玲奈がにやっと笑う。


「次、蓮がどうしても奢りたいって言うなら考える」


「……奢る」


「今日は違う!」


「…………」


 ひなたが小さく笑った。


      ◆


 店を出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「食べたー」


 玲奈が満足そうに大きく息を吐く。


「玲奈さん、最後食べすぎです」


「ひなたも食べてたじゃん」


「玲奈さんほどじゃないです」


「美月は?」


「普通」


「蓮」


「……?」


「お腹いっぱい?」


「……うん」


「美味しかった?」


「……うん」


 そこで蓮が止まる。


 いつもなら、ここで終わる。


「…………」


「それと」


「ん?」


 玲奈が見る。


「……四人で食べたの」


「うん」


「楽しかった」


「…………」


 三人が少しだけ静かになる。


「ちゃんと言えたじゃん」


 玲奈が笑う。


「……うん」


「次は寿司ですね」


 ひなたも笑う。


「……うん」


「絶対だからね」


「…………」


 蓮は少し考えて。


「……楽しみ」


      ◆


 駅へ向かう途中。


 玲奈とひなたが、二人とは別方向へ向かう。


「じゃあ、ここで」


「またね」


「おやすみなさい」


「……うん」


 蓮がいつものように答える。


 二人が歩き出す。


「…………」


 蓮がその背中を見る。


「玲奈」


「ん?」


「ひなた」


「はい?」


 二人が振り返る。


「…………」


 蓮は少しだけ言葉を探す。


「また」


「うん」


「……行こう」


 玲奈が少し笑う。


「焼肉?」


「……それも」


「それも?」


「…………」


 蓮が少し考える。


「依頼も」


「…………」


「四人で」


 玲奈とひなたが顔を見合わせる。


「もちろん」


「また行きましょう」


「……うん」


 今度は、その一言だけでも十分だった。


      ◆


 同じ夜。


 空港。


 国際線の到着ロビー。


 数人の関係者が、緊張した表情で出口を見つめていた。


 しばらくして、一人の人物が姿を現す。


「お待ちしておりました」


「…………」


 出迎えた職員が頭を下げる。


 その人物はほとんど反応を示さず、手に持っていたスマートフォンへ視線を落とした。


 画面に表示されているのは、一人の男。


 黒瀬蓮。


 そして、その横に表示された世界ランキング第一位。


「…………」


 七年間、誰も正体を知らなかった名前。


 Unknown。


 その正体が、ようやく世界へ現れた。


「……黒瀬蓮」


 小さく名前を読む。


 そして、僅かに口元を上げた。


「やっと」


「…………」


「会える」


 蓮が四人で過ごす普通の時間を、少しずつ楽しめるようになっていた頃。


 その日常の外側では、世界ランキング一位、黒瀬蓮に会うために、最初の世界ランカーが日本へ足を踏み入れていた。

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― 新着の感想 ―
有識者がいる。
例文のでいいと思います
7.8割以上改行減らしてもいいと思います
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