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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第165話 伝える戦い

三日後。


 朝。


 四人は冒険者ギルドの前に集まっていた。


「全員そろったね」


 美月が三人を見回す。


「じゃあ、行こっか」


「うん」


「はい」


 玲奈とひなたがそれぞれ答える。


 美月が蓮を見る。


「蓮も準備いい?」


「……うん」


 蓮が小さく頷く。


「行こう」


 四人はそのまま、冒険者ギルドの中へ入っていった。


      ◆


 受付で、三日前に選んだ依頼を正式に受注する。


 今回の依頼はBランク。指定魔物討伐。


 管理ダンジョン内の特定階層で、通常より大型の《鉄殻大蜥蜴》が何度も目撃されている。通行する冒険者への危険性が高いとして、討伐対象に指定されていた。


「じゃあ」


 美月が依頼内容をもう一度確認する。


「対象は《鉄殻大蜥蜴》の大型個体」


「……蜥蜴」


「うん」


「硬い外殻が特徴で」


 ひなたが資料を見ながら続ける。


「正面からの攻撃は、かなり通りにくいみたいです」


「尻尾も厄介なんだよね」


 玲奈が剣の柄に手を置く。


「薙ぎ払いの範囲が広い」


「あと」


 美月が蓮を見る。


「今回は覚えてる?」


「……何を?」


「今日の目標」


「…………」


 蓮が少し考える。


「四人で戦う」


「うん」


「俺だけで」


 少し止まる。


「……終わらせない」


 玲奈が満足そうに頷く。


「よし」


「……そんなに大事?」


「大事」


「即答」


「蓮放っておいたら一撃で終わらせるじゃん」


「…………」


 蓮は否定できずに黙った。


      ◆


 依頼を受注して、四人は対象の管理ダンジョンへ向かった。


 中へ入り、しばらく進む。


 今回も蓮は《封魔の手袋》で能力を制限している。


 隊列は、前に玲奈。その少し後ろに蓮。中央に美月。後方にひなた。前回とほぼ同じ。


「反応あります」


 ひなたが足を止めた。


「前方」


「数は?」


 美月が聞く。


「三……」


 少しだけ目を細める。


「いえ」


「……?」


「四体かもしれません」


「…………」


 蓮はすでに気づいていた。


「右」


「え?」


 玲奈が蓮を見る。


「…………」


 蓮が止まる。


 今、自分が言ったのは一言だけ。


「……右に三体」


「うん」


 美月がすぐに反応する。


「それと」


 蓮が少しだけ考える。


「奥に、もう一体」


「強さは?」


「…………」


 いつもなら、そこで頭の中だけで判断する。けれど今日は、口に出す。


「奥の方が」


「うん」


「……少し強いと思う」


 ひなたが蓮を見る。


「私の感知より早いですね」


「……気配で分かる」


「なるほど」


 玲奈が少し笑う。


「今の分かりやすかったじゃん」


「……そう?」


「うん」


      ◆


 三体の魔物は《灰牙狼》。


 奥には少し大きな個体。群れの中心らしい。


「玲奈」


「うん」


「正面お願い」


「了解」


「蓮は右から」


「……分かった」


 美月の指示で四人が動く。


 玲奈が先頭の一体を受け止める。美月の炎がその横を抜ける。ひなたが補助魔法を重ねる。蓮は右へ回り込む。


「……左」


「左の何!?」


 玲奈が叫ぶ。


「…………」


 一体。左側から玲奈へ飛び込もうとしている。


「……魔物、一体」


「うん!」


「近づいてる」


「それ先に言って!」


「…………」


 蓮は少しだけ考える。


「……分かった」


「次からね!」


「……うん」


 蓮もすぐに動いた。


      ◆


 数分後。


 四体を問題なく倒す。


「ふぅ」


 玲奈が剣を下ろす。


「蓮」


「……なに?」


「さっき」


「……うん」


「ちゃんと付け足したね」


「…………」


「最初『左』だけだったのに」


「……うん」


「そのあと説明した」


「…………」


 蓮は少し考える。


「……分からなかったから」


「何が?」


「どこまで言えば」


「…………」


「伝わるのか」


 玲奈の表情が少しだけ柔らかくなる。


「そっか」


「……うん」


「じゃあ」


 玲奈が剣を収める。


「分からなかったら、ちょっと多めに言って」


「……多め」


「そう」


「…………」


「短すぎるよりは、その方が助かる」


「……分かった」


 ひなたが小さく笑う。


「今のもちゃんと伝わってますよ」


      ◆


 さらに奥へ進む。


「止まってください」


 ひなたが声を落とした。


「前方に大きな反応」


「距離は?」


「そこまで遠くありません」


 美月が蓮を見る。


「蓮は?」


「……いる」


「対象?」


「…………」


 蓮が少しだけ意識を集中する。


「大きい」


「うん」


「動き遅い」


「…………」


「魔力は」


 少し考える。


「……さっきよりかなり強い」


「対象の可能性高そうね」


 玲奈が剣を抜く。


「行こう」


      ◆


 少し進んだ先。


 開けた空間。


 そこに巨大な蜥蜴がいた。


 体長、数メートル。背中から頭部にかけて金属のような硬い外殻。太い尾を地面に引きずっている。


「《鉄殻大蜥蜴》」


 ひなたが小さく言う。


「対象の大型個体です」


「よし」


 玲奈が一歩前に出る。


「行くよ」


「待って」


 美月が全員を見る。


「役割確認」


「うん」


「玲奈が正面」


「了解」


「蓮は右側」


「……分かった」


「私は中距離から魔法」


「はい」


「ひなたは支援と周囲警戒」


「分かりました」


「蓮」


「……?」


「見えてることあったら」


「…………」


「ちゃんと教えて」


「……うん」


      ◆


 戦闘が始まる。


 玲奈が正面から踏み込む。《鉄殻大蜥蜴》が巨大な口を開く。


「玲奈」


「何!?」


「次」


「うん!」


「……尻尾」


 玲奈が即座に後ろへ跳ぶ。


 直後、巨大な尾が横薙ぎに空気を裂いた。


「助かった!」


「……うん」


 蓮は右へ回る。


 外殻。硬い。けれど腹部は薄い。


「美月」


「何?」


「腹」


「……?」


 言葉が足りない。


「…………」


 蓮はすぐに続ける。


「腹の方が」


「うん」


「……外殻薄い」


「分かった!」


 美月が魔力を集める。


      ◆


 《鉄殻大蜥蜴》が蓮へ向きを変える。


「来る」


「何が!?」


 玲奈の声。


「…………」


 蓮が止まる。そして。


「……突進」


「どっち!?」


「右から」


「了解!」


 今度は玲奈も迷わない。


 《鉄殻大蜥蜴》が地面を蹴る。巨体とは思えない速度で突進する。


「玲奈!」


 美月が叫ぶ。


「分かってる!」


 玲奈が正面から外れる。蓮も同時に側面へ回る。


「今!」


 美月の炎が腹部へ直撃する。


 《鉄殻大蜥蜴》が大きく身体を震わせた。


      ◆


「効いてる!」


 玲奈が叫ぶ。


「でもまだ!」


「…………」


 蓮は相手を見る。


 動き。足。尾。視線。


 次にどう動くか、全部分かる。


 今なら一人ですぐに倒せる。けれど今日はそうしない。


「玲奈」


「うん!」


「次」


 少しだけ言葉を探す。


「左足から動く」


「左?」


「……うん」


「そのあと」


 蓮が相手を見る。


「尾が来る」


「分かった!」


 玲奈が先に構える。


 《鉄殻大蜥蜴》が左足を踏み込む。直後、巨大な尾。


 玲奈は予測していたように剣で受け流す。


「できた!」


「…………」


 蓮が小さく頷く。


      ◆


「ひなた」


「はい!」


「玲奈に」


「……?」


「強化」


「分かりました!」


 補助魔法が玲奈へ重なる。


「美月」


「うん」


「次」


「…………」


 蓮が相手を見る。


 外殻。右側。少しだけ浮いている。


「俺が」


「うん」


「外殻ずらす」


「…………」


 三人が蓮を見る。


「玲奈」


「何?」


「そのあと」


 少しだけ考える。


「動き止めて」


「了解」


「美月」


「うん」


「腹に魔法」


「任せて」


「ひなた」


「はい」


「玲奈の補助」


「分かりました」


「…………」


 蓮は一度、三人を見る。


「……それで倒せる」


「よし」


 美月がすぐに頷く。


「それで行こう」


      ◆


 蓮が一気に距離を詰める。


 《黒月》を抜く。


 斬るのではない。


 刀身を外殻の隙間へ差し込み。


「…………」


 力を必要な分だけ加える。


 硬い外殻が僅かに浮く。


「玲奈!」


「分かってる!」


 玲奈が前脚へ強烈な斬撃を入れる。巨体が崩れる。


「ひなた!」


「はい!」


 玲奈へさらに身体強化。


「美月!」


「今!」


 炎。圧縮された高温の魔法が、露出した腹部へ叩き込まれる。


 轟音。


 《鉄殻大蜥蜴》の身体が大きく跳ね、そして地面へ倒れる。


「…………」


 動かない。


 ひなたが少しだけ反応を確かめる。


「……討伐完了です」


「よし!」


 玲奈が剣を下ろした。


      ◆


 蓮は倒れた《鉄殻大蜥蜴》を見る。


「…………」


 自分一人なら、もっと早かった。たぶん一撃で終わっていた。


 でも今日は違った。


 玲奈が動きを止めた。ひなたが玲奈を支えた。美月が魔法を撃った。自分も外殻を崩した。


 そして、それぞれが自分の役割をした。


 そのために、自分が見えていることを伝えた。


「…………」


 それで、四人の動きが繋がった。


      ◆


「蓮」


「……?」


 玲奈が近づいてくる。


「今のよかったじゃん」


「……何が?」


「ちゃんと全部言ってくれた」


「…………」


「外殻ずらすとか」


「うん」


「私が止めるとか」


「……うん」


「美月が腹狙うとか」


「…………」


「ちゃんと分かった」


 蓮が少し考える。


「……言った方が」


「うん」


「みんな」


「…………」


「動きやすい?」


「めちゃくちゃ」


 玲奈が即答する。


 ひなたも頷いた。


「蓮さんが見えてるものを教えてもらえると」


「……うん」


「私たちも、その情報で動けます」


「…………」


「一人で分かってるだけより」


 美月が続ける。


「四人で分かってる方が」


「……うん」


「パーティーとしては強い」


「…………」


 蓮がその言葉を少し考える。


「……四人で分かる」


「そう」


「…………」


「それも」


 美月が笑う。


「パーティーだよ」


「……パーティー」


 蓮は小さく繰り返した。


      ◆


 討伐証明になる素材、魔石、必要なものを回収する。


 そして帰路。


「蓮」


 玲奈が歩きながら聞く。


「今日どうだった?」


「…………」


 蓮が止まる。


 また、その質問。


 でも以前ほど困らない。


「……楽しかった」


「うん」


 玲奈はそれ以上、すぐには聞かない。


 三人とも待つ。


「…………」


 蓮は少し考える。


「前より」


「うん」


「……一緒に戦えた気がする」


 美月が蓮を見る。


「どうしてそう思った?」


「…………」


 蓮はまた、自分の中を探す。


「俺が」


「うん」


「言ったら」


「…………」


「みんなが動いて」


「うん」


「それで」


 少しだけ言葉を止める。


「……倒せた」


「…………」


「だから」


「うん」


 蓮が三人を見る。


「……四人で」


 少し考える。


「……ちゃんと戦えたの」


「…………」


「よかった」


 美月が柔らかく笑う。


「ちゃんと伝わったよ」


「…………」


「……うん」


 蓮も少しだけ頷いた。


      ◆


 ダンジョンを出た頃。


 外はまだ明るかった。


「よし」


 玲奈がスマートフォンを見る。


「時間ある」


「……?」


 蓮が玲奈を見る。


「何が?」


「何がって」


 玲奈がにやっと笑う。


「忘れた?」


「…………」


「焼肉」


「…………」


 蓮が一瞬止まる。


 美月もひなたも笑っている。


「依頼終わったら行くって言ったでしょ」


「……うん」


「どうする?」


「…………」


 蓮は一度考える。


 そして、いつもの「うん」だけではなく。


「……行きたい」


 ちゃんと、そう言った。

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