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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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163/542

第162話 家族みたいなもの②

すいません。

ちょっと聞きたいのですが、今まで通り①web小説的な書き方で改行多め

改行を減らして地の文をつなぎ、会話と心理描写を自然にまとめる②

どちらの方が読みやすかったですか?


 アイスを食べ終えてから、しばらくが経った。


 さっきまで蓮の感情について話していた四人も、今は少しだけいつもの空気に戻っている。


 玲奈は空になったカップを眺めていたが、ふと思い出したように顔を上げた。


「じゃあさ」


「……?」


 蓮が玲奈を見る。


「蓮にとって、美月って特別なの?」


「玲奈?」


 美月がすぐに反応した。


「何、その聞き方」


「いや、ちょっと気になって」


「何が?」


「だって、Sランクダンジョンの時もそうだったでしょ」


 玲奈は蓮へ視線を向ける。


「美月が取り残されてるって知って、すぐに助けに来た」


「……うん」


「あの時の蓮、美月を助けることしか考えてなかったじゃん」


 蓮は何も答えなかった。


「もちろん、私とひなたも助けてもらったけど」


「はい」


 ひなたも小さく頷く。


「でも、最初に蓮を動かしたのって、美月だったんでしょ?」


 美月も蓮を見る。


 ニュースで、美月たち《アストラ》がSランクへ変異したダンジョンに取り残されていると知った直後、蓮は冒険者登録をするためにギルドへ向かった。


 迷ったわけでも、時間をかけて考えたわけでもない。


 美月を助けるために、身体が先に動いていた。


「だからさ。蓮にとって、美月ってやっぱり特別なのかなって」


「……特別」


 蓮が小さく繰り返す。


「うん。美月だけ、ちょっと違うでしょ?」


「玲奈」


 美月が少し困ったように笑った。


「変な意味に持っていかないでよ」


「まだ何も言ってないじゃん」


「顔が言ってる」


「そんな顔してないし」


 ひなたが隣で笑う。


「少ししてますね」


「ひなたまで!?」


 三人のやり取りを、蓮は黙って見ていた。


 やがて玲奈がもう一度聞く。


「違う?」


 蓮は今度こそ、きちんと考えた。


 美月。


 幼い頃から、ずっと一緒だった。


 学校へ行く時も、帰る時も、遊ぶ時も、秘密基地にいる時も、気づけばいつも近くにいた。


 特別だから一緒にいたわけではない。


 幼い蓮にとって、美月がいること自体が当たり前だった。


「……昔から、ずっと一緒だった」


 美月の表情が少しだけ変わる。


「どれくらい?」


「……小さい時から」


「うん」


「気づいたら……いつもいた」


 蓮は美月を見る。


「学校でも?」


「……うん」


「遊ぶ時も?」


「……うん」


 それだけではない。


 家族を失って、蓮の周りから当たり前だったものが一つ消えたあとも、美月は変わらずそこにいた。


 蓮は少しだけ視線を落とした。


「……ずっと」


「うん?」


「……美月はいた」


 部屋が静かになる。


 玲奈は、それ以上昔のことには踏み込まなかった。


 しばらくしてから、今度は静かに尋ねる。


「じゃあ、蓮にとって美月ってどういう人?」


 蓮は長く考えた。


 幼馴染。友達。仲間。


 どれも間違ってはいない。


 けれど、どれもしっくりこなかった。


「……昔は、美月がいるのが当たり前だった」


「…………」


「朝会って、一緒に帰って……次の日も、いる」


 そんなことを疑ったことすらなかった。


 美月はそこにいる。


 それが蓮にとっての日常だった。


「だから……家族に近い」


「え?」


 美月が蓮を見る。


「家族?」


 蓮は少し考えてから、言い直した。


「……家族みたいなもの」


 玲奈もひなたも、静かに蓮を見ている。


「美月が?」


「……うん」


「どうして?」


 蓮はもう一度、美月を見た。


「……ずっといたから。いるのが……当たり前だったから」


 美月は何も言えなかった。


 玲奈の顔からも、もうからかうような色は消えている。


「そっか」


「……うん」


 少しの沈黙のあと、玲奈が静かに尋ねた。


「じゃあ……もし美月がいなくなったら?」


 その瞬間、蓮の表情が止まった。


 さっきまでとは明らかに違う。


 答えが、すぐには出てこなかった。


「玲奈」


 美月が玲奈を見る。


「ごめん」


 玲奈も、言ってから少し踏み込みすぎたと思ったらしい。


「別に変な意味じゃなくて――」


「……嫌」


 三人が蓮を見る。


「え?」


「……嫌」


「美月がいなくなるのが?」


「……うん」


 ひなたが静かに尋ねる。


「怖いんですか?」


 蓮がひなたを見る。


「……怖い?」


「はい」


 少し考える。


 さっきまで、感情には正解がないと話していた。


 楽しい。悲しい。寂しい。怖い。


 蓮は自分の中にあるものを、ゆっくり確かめた。


「……たぶん」


 そして視線を落とす。


「……もう、家族を失いたくない」


 三人が黙る。


 蓮はゆっくりと言葉を続けた。


「……あんな思い、もうしたくない」


 美月の表情が変わった。


 家族を失った時、蓮が何を感じていたのか。今まで詳しく話したことはなかった。


 けれど、忘れたわけではない。


 昨日までそこにいた人が、いなくなる。


 もう会えない。


 声も聞けない。


 戻ってこない。


 それを蓮は、一度知っている。


「だから……美月まで、いなくなるのは嫌」


 美月は何も言わず、蓮を見ていた。


「美月は……家族みたいなものだから」


「…………」


「家族は……二度と失いたくない」


 美月の目が僅かに揺れる。


「それに……俺も」


「……?」


「美月の前から……いなくなった」


 十年前。


 蓮自身も、美月の前から消えた。


 蓮の意思ではない。


 それでも美月からすれば、ある日突然、ずっと一緒にいた蓮がいなくなった。


「だから……人って、いなくなる」


 それは考え方ではない。


 蓮が実際に知っていることだった。


 家族がいなくなった。


 そして、自分もいなくなった。


 だから、目の前にいる人が明日も同じ場所にいることを、蓮はまだ当たり前だとは思えない。


「私が、一番いなくなってほしくない?」


 美月が静かに尋ねる。


「……うん」


 蓮は迷わず頷いた。


「美月は昔からいるから。家族みたいで……だから、いなくなるのが一番嫌」


 玲奈とひなたは何も言わなかった。


 蓮はふと玲奈を見る。


「……でも、玲奈も」


「え?」


 今度はひなたを見る。


「ひなたも」


「私も?」


「……うん。いなくなるのは……嫌」


 玲奈の表情が柔らかくなる。


「そっか」


「……うん」


「でも美月は別?」


「……うん」


 今度も迷わなかった。


「昔から……ずっといるから」


「なるほどね」


 玲奈が小さく笑い、ひなたも柔らかく頷いた。


 美月は何も言わず、蓮を見ていた。


 その時、美月が何かを思い出したように口を開く。


「そういえば、蓮」


「……なに?」


「私が出かける時、どこに行くのとか、何時に帰るのとか……よく聞くよね」


「……聞いてる?」


「うん」


 蓮は少し考えた。


「……そうかも」


「もしかして、ちゃんと帰ってくるか気になってた?」


 蓮が止まる。


「……分からない。でも……」


 言葉を探すように、ゆっくり続ける。


「朝、いる」


「うん」


「帰ったら……いる」


「うん」


「それだと……大丈夫って思う」


 美月の表情が少しだけ柔らかくなった。


「それ、安心っていうんだと思う」


「……安心」


「うん」


 蓮はその言葉を確かめるように、小さく繰り返した。


「……安心」


 玲奈もようやく、さっきの話とつながったように頷く。


「美月がいなくなるのは怖くて、美月が帰ってくると安心する」


 蓮は少し考えた。


「……両方」


「そっか」


 美月が静かに蓮を呼ぶ。


「蓮」


「……なに?」


「私、出かける時はちゃんと言うね」


「…………」


「どこに行くか。何時くらいに帰るか。遅くなるなら連絡する」


「……うん」


「それで、帰ってきたらちゃんとただいまって言う」


 蓮は美月を見る。


「……毎回?」


「毎回」


「……忘れない?」


「忘れない」


 蓮は僅かに肩の力を抜いた。


 それから玲奈とひなたを見る。


「玲奈とひなたも」


「ん?」


「はい?」


 蓮は少し言葉に迷った。


「……何も言わずに、いなくならないで」


 玲奈が一瞬だけ目を見開く。


 ひなたも蓮を見つめた。


 やがて玲奈が柔らかく笑う。


「分かった」


「私もです」


 ひなたも頷く。


「……うん」


「でも」


 ひなたが続けた。


「蓮さんもですよ」


「……俺?」


「はい。蓮さんだって、何も言わずにいなくならないでください」


 蓮が止まった。


 十年前。


 自分は美月の前から突然いなくなった。


 自分の意思ではなかった。


 それでも、残された美月にとっては突然だった。


「……俺も、言う?」


「言ってください」


 玲奈も少し笑う。


「出かけるなら、出かけるって」


「……うん」


「帰ってきたら、美月にはただいま」


 蓮が美月を見る。


 美月も静かに頷いた。


「私も、おかえりって言う」


 蓮は三人を見る。


 美月。玲奈。ひなた。


「……分かった」


「約束ね」


「……うん」


 家族を、一度失った。


 あんな思いは、もうしたくない。


 そして自分自身も、十年間、大切な人の前からいなくなった。


 だから蓮にとって、誰かが今日そこにいることは、明日もいるという保証にはならない。


 美月は、その中でも特別だった。


 幼い頃からずっと一緒にいた。


 蓮にとって、美月がいることは当たり前だった。


 だから、家族に近い。


 そして家族みたいな存在を、蓮はもう二度と失いたくなかった。


 玲奈も、ひなたも、今ではいなくなってほしくないと思う。


 けれど、美月とはやはり少し違う。


 蓮は三人を見る。


 三人とも、今ここにいる。


 何も言わずにいなくならない。


 そして、自分もいなくならない。


 そんな小さな約束だけで、胸の奥にあったものがほんの少し軽くなった。


「……安心」


 蓮が小さく呟く。


「ん?」


 美月が見る。


「……なんでもない」


 蓮は小さく首を振った。


 誰かがそばにいることを、蓮はまだ当たり前だとは思えない。


 それでも、帰れば美月がいる。


 出かける時はちゃんと伝える。


 戻ってきたら、ただいまと言う。


 そして自分も、もう何も言わずにいなくならない。


 そんな日々を、蓮は少しずつ信じ始めようとしていた。

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