第16話 火のある生活
翌朝。
蓮は目を覚ました。
昨日までと同じ、薄暗いダンジョン。
けれど、一つだけ違っていた。
昨日、自分で火を起こした。
「……」
蓮はしばらく天井を見つめた。
そして起き上がる。
周囲を見る。
昨日の火は、もう完全に消えていた。
「やっぱり消えるか」
蓮は少し残念そうに呟いた。
けれど、昨日とは違う。
火を起こす方法は分かっている。
「もう一回やってみよう」
◇
蓮は昨日使った石を取り出した。
乾いた草も集める。
細い枝も用意する。
昨日より手際がいい。
石を打ち合わせる。
カンッ。
火花が飛ぶ。
もう一度。
カンッ。
煙が上がった。
「……!」
昨日より早い。
蓮は慎重に息を吹きかける。
赤い光が生まれる。
そして――
小さな炎が立ち上がった。
「できた」
昨日よりずっと早く火を起こせた。
蓮は嬉しそうに炎を見る。
「覚えてるんだな」
昨日は何度も失敗した。
今日は、その失敗を思い出しながらできた。
これも、この場所で生きていくために覚えたことだった。
◇
蓮は火を消さないようにしながら、周囲を見渡した。
燃料が必要だ。
昨日よりも多くの枝を集めなければならない。
蓮はダンジョンを歩き回った。
乾いた枝。
枯れた植物。
燃えやすそうなもの。
使えそうなものを集める。
そして、自分が休む場所の近くにまとめて置いた。
「これならしばらく大丈夫かな」
火を使うには準備が必要。
それも昨日、一晩で学んだことだった。
◇
昼頃。
蓮は食料を探しに出た。
いつもの木の実を見つける。
いくつか採る。
そして、小さな魔物も見つけた。
蓮は慎重に近づく。
以前よりも魔物の動きが分かる。
無駄に追いかけない。
逃げ道を考える。
そして、一撃。
魔物が倒れた。
「……よし」
蓮は魔物を持ち帰った。
◇
火のそばに戻る。
肉を切り分ける。
枝に刺す。
そして火にかざす。
昨日よりも上手く焼ける。
焦げすぎないように回す。
肉から脂が落ちる。
ジュッ。
香ばしい匂いが広がる。
蓮のお腹が鳴った。
「……」
蓮は少し笑った。
焼き上がった肉を食べる。
「……やっぱり美味しい」
昨日より美味しく感じる。
火があるだけで、食べられるものが増えた。
蓮は木の実も一緒に食べた。
酸っぱい。
けれど、焼いた肉と一緒なら、それほど気にならない。
◇
食事を終えると、蓮は火を見つめた。
昨日までは、食べられるものを探すだけだった。
今日は違う。
自分で火を作り。
薪を集め。
肉を焼いた。
少しずつ、自分でできることが増えている。
「……明日は何ができるかな」
蓮はそう呟いた。
その言葉を口にした瞬間。
自分でも少し不思議に思った。
明日のことを考える余裕がある。
昨日までなら、ただ生き残ることしか考えられなかった。
今は違う。
明日を少しだけ楽しみにできる。
それは、蓮にとって小さな変化だった。
やがて火が小さくなる。
蓮は薪を一本だけ追加した。
炎が少し大きくなる。
「……今日はもう少しだけ」
蓮は火を眺めながら、静かに過ごした。
火のある生活。
それは、蓮がダンジョンで生きるために手に入れた、新しい日常だった。




