第15話 火
翌日。
蓮は昨日の夜に考えていたことを試してみることにした。
魔物の肉。
生では、とても食べられなかった。
硬くて、臭くて、噛んでもなかなか飲み込めない。
けれど、火があれば。
「……焼いてみたい」
問題は、その火をどうやって作るかだった。
蓮は周囲を探した。
乾いた草。
細い枝。
そして、硬い石。
使えそうなものを集める。
「これで……できるのかな」
蓮は石を二つ手に取った。
ぶつけてみる。
カンッ。
小さな音が響く。
もう一度。
カンッ。
何も起こらない。
「……無理か」
蓮は別の石を拾った。
今度は少し違う組み合わせでぶつけてみる。
カンッ。
カンッ。
何度も繰り返す。
手が痛くなってきた。
それでも続けた。
そのとき。
小さな光が飛んだ。
「……!」
蓮は目を見開いた。
もう一度。
カンッ。
また小さな光が飛ぶ。
「火花……?」
蓮は地面に乾いた草を集めた。
その上に細かくした植物を置く。
そして、さっきの石を打ち合わせる。
カンッ。
火花が落ちる。
しかし、何も起こらない。
「……」
もう一度。
カンッ。
また失敗。
さらにもう一度。
カンッ。
煙が少しだけ上がった。
「……煙?」
蓮は慌てて顔を近づける。
まだ火はない。
けれど、何かが変わった。
「もう少し……」
乾いた草をさらに細かくする。
何度も火花を落とす。
それでも、なかなか燃えない。
火花が消える。
また失敗する。
それでも蓮は諦めなかった。
何度目だったか。
小さな煙が立ち上った。
「……!」
蓮は息を止めた。
煙の下で、小さな赤い光が生まれている。
蓮は急いで乾いた草を少しずつ重ねた。
息を吹きかける。
赤い光が強くなる。
そして――
小さな炎が生まれた。
「……火だ」
蓮はじっと炎を見つめた。
揺れている。
小さい。
少し風が吹けば消えてしまいそうなほど弱い。
それでも。
確かに火だった。
蓮は嬉しそうに笑った。
「……できた」
何度も失敗した。
手も痛い。
それでも、自分の力で作った。
蓮にとって、それは大きな一歩だった。
◇
しばらくして。
蓮は小さな火を消さないように、周囲に石を並べた。
火が燃え移らないように乾いた草から少し離す。
そして、昨日倒した魔物の肉を取り出した。
今までは食べられなかった肉。
今日は違う。
細い枝に肉を刺し、火の上にかざす。
しばらくすると、肉から音が聞こえてきた。
ジュッ。
「……!」
匂いが変わった。
生のときとは違う。
蓮は何度も肉を回しながら、じっと焼き続けた。
表面が茶色くなる。
中まで火が通ったことを確認してから、蓮は小さくちぎった。
恐る恐る口に入れる。
噛む。
「……」
蓮はもう一度噛んだ。
「……うまい」
思わず声が出た。
もちろん、普通の料理とは比べものにならない。
味付けもない。
肉も硬い。
それでも。
生で食べたときとは、まるで違った。
蓮は夢中になって食べた。
一口。
また一口。
あっという間に肉がなくなった。
最後に木の実を一つ食べる。
「……これも悪くないけど」
蓮は小さな炎を見る。
「肉の方がいいな」
少しだけ笑った。
◇
その夜。
蓮は火のそばに座っていた。
小さな炎が、岩壁を淡く照らしている。
昨日までの暗闇とは違う。
少しだけ暖かい。
そして、何より安心する。
蓮は炎を見つめた。
「……火って、すごいな」
けれど、薪は少しずつ短くなっていた。
炎も次第に小さくなっていく。
蓮は慌てて周囲を見る。
まだ乾いた枝はある。
けれど、今日はもう十分に動いた。
身体も疲れている。
「……明日、もっと薪を集めよう」
蓮は火を見つめながら考えた。
ずっと燃え続けるわけじゃない。
薪がなくなれば消える。
だから、火を使うには準備が必要だ。
そんなことも、今日初めて知った。
やがて炎はさらに小さくなった。
蓮は最後まで火を見届ける。
小さな炎が消えた。
「……消えた」
蓮は少し寂しそうに呟いた。
けれど、もう一度作れる。
それだけでも十分だった。
蓮は岩陰に横になる。
「明日も火を起こそう」
そう呟いて、目を閉じた。
暗闇の中。
蓮は静かに眠りについた。




