第157話 初めての依頼報酬
四人が冒険者ギルドへ戻った頃には。外はもう。夕方になっていた。
自動扉を抜ける。朝と同じ場所。
けれど。
「…………」
蓮には。少しだけ違って見えた。
朝は。普通の依頼がどういうものなのかも。よく分かっていなかった。
今は。四人でダンジョンへ行き。依頼された場所を調べ。魔物を倒し。素材を持って帰ってきた。
「まず報告ね」
美月が受付へ向かう。
「了解」
「はい」
玲奈とひなたも続く。蓮も。三人についていった。
◆
「お帰りなさい。《アストラ》の皆さん」
受付の職員が四人を見る。
「《白樹の迷宮》の調査依頼ですね?」
「はい」
美月が冒険者カードを出した。
「第20階層の指定区域まで巡回完了。確認した範囲では異常ありませんでした」
「ありがとうございます」
職員が端末を操作する。
「指定討伐対象については?」
「何体か倒してます。《白樹巨獣》も一体」
「白樹巨獣もですか」
「うん」
「では、討伐確認用の魔石と回収素材を確認させてください」
美月が蓮を見る。
「蓮」
「……うん」
蓮は。受付横の素材提出用の台を見る。
「……ここ?」
「はい。そこで大丈夫です」
「……分かった」
《アイテムボックス》を開く。
今日。回収した素材。
白牙狼。樹甲猪。樹甲獣。白角熊。そして。白樹巨獣。
内部ですでに分けられている魔石や素材の中から。今回提出するものだけを取り出していく。
台の上へ。次々と並べる。
「…………」
受付の職員が。しばらく素材を見つめた。
「どうしました?」
美月が聞く。
「いえ……」
職員は白樹巨獣の外殻を手に取る。
「かなり状態がいいですね」
「そうなんですか?」
「はい」
別の素材も確認する。
「傷が少ないですし、余計な組織もほとんど残っていません。魔石も綺麗に取り出されています」
「…………」
蓮は。何も言わなかった。
玲奈も。ひなたも。理由を知っている。
けれど。口にはしない。
蓮の《アイテムボックス》に。自動で魔物を解体する機能があること。
それは。支部長から。外部へ漏らさないように言われている情報だった。
「状態がいいと、査定も変わるんですか?」
美月が聞く。
「はい。素材によってはかなり変わります」
「なら、よかった」
美月は。それ以上の説明をしなかった。
職員も。処理方法について深く聞くことはなく。並べられた素材の確認を続ける。
「では、査定担当にも確認してもらいます。少々お待ちください」
「お願いします」
◆
しばらくして。四人は再び受付の前に立った。
「お待たせしました」
職員が端末を見る。
「《白樹の迷宮》第20階層までの巡回調査。指定魔物の討伐を含め、依頼内容はすべて達成されています」
「よかった」
美月が小さく息を吐く。
「異常報告もありませんので、こちらで正式に依頼完了となります」
「了解」
玲奈が言う。
「報酬は?」
「今回の依頼報酬が八十万円です」
職員が続ける。
「それとは別に、回収された魔石と素材の買取額が四十八万円」
「合わせて百二十八万円となります」
「結構いったね」
玲奈が言う。
「白樹巨獣の素材が大きかったですね」
ひなたが頷く。
「状態もかなり良かったですし」
「うん」
美月も頷いた。そのまま。受付の職員へ言う。
「四等分でお願いします」
「承知しました」
職員が端末を操作する。
「一人三十二万円ずつですね」
「…………」
蓮が美月を見る。
「……俺も?」
「もちろん」
美月が。当たり前のように答える。
「……同じ?」
「うん」
「…………」
「四人で受けた依頼だからね」
「……四人で」
「そう」
玲奈が言う。
「ひなたが探して、美月が判断して、私が前で戦って、蓮も一緒に動いた」
「……うん」
「だから四人分」
「…………」
蓮は。少しだけ考えた。
今日の戦い。最後に白樹巨獣を斬ったのは。自分だった。
けれど。一人で倒したとは。もう思っていない。
玲奈が前で受け。美月が魔法を使い。ひなたが支えた。
そして。自分が動いた。
「……そっか」
蓮が頷く。
「……分かった」
◆
「それでは振り込みます」
職員が操作する。少しして。
蓮のポケットの中で。スマートフォンが震えた。
「…………」
取り出す。画面を見る。
銀行からの通知。入金。三十二万円。
「……入った」
「早いでしょ?」
美月が聞く。
「……うん」
蓮は。しばらく画面を見る。
金額そのものに。驚いたわけではない。
もっと価値のある魔石を。蓮はすでに持っている。
けれど。これは。それとは少し違った。
今日。四人で依頼を選んだ。準備をして。ダンジョンへ行った。
調査して。戦って。素材を持ち帰った。
そして。仕事を終えた。
その結果として。自分の口座に入った金。
「…………」
「どうしたの?」
美月が聞く。
「……これ」
蓮はスマートフォンを見る。
「うん」
「……仕事したお金?」
「そうだよ」
「…………」
もう一度。入金通知を見る。
「……そっか」
ほんの少しだけ。口元が緩む。
「嬉しい?」
玲奈が聞く。
「…………」
蓮は少し考えた。
「……ちょっと」
「ちょっとなんだ」
「……うん」
玲奈が笑う。
「でも」
「ん?」
「……これ」
蓮は。画面を見ながら言う。
「……ちゃんと仕事したお金って感じする」
三人が蓮を見る。美月が。少し笑った。
「今日、四人で受けた依頼の報酬だからね」
「……うん」
それが。蓮には。少し嬉しかった。
今まで。魔物を倒した後に残るものといえば。生き残った自分。魔石。素材。そして。少し強くなった身体。
それだけだった。
でも今日は。依頼を受け。仲間と進み。仕事を終えて。報告をして。報酬を受け取った。
「……これが」
蓮が呟く。
「冒険者の仕事?」
「うん」
美月が答える。
「普通の依頼なら、だいたいこんな感じ」
「……普通」
蓮は。その言葉を静かに繰り返した。
今日。ダンジョンへ行った。三人と戦った。楽しかった。
そして。仕事を終えて。報酬を受け取った。
十年間。蓮が知らなかった。冒険者としての。普通の一日。
「……悪くない」
「何が?」
玲奈が聞く。
「……冒険者」
玲奈が笑う。
「今さら?」
「……うん」
「世界一位が、初めて冒険者の仕事を気に入ったみたいになってるよ」
「……?」
美月とひなたも。思わず笑った。
◆
「それでは、今回の依頼は以上になります」
受付の職員が頭を下げる。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
美月が答える。
四人が。受付を離れようとした。
その時。
「あ、神崎さん。黒瀬さん」
「はい?」
「……?」
二人が振り返る。職員が。少しだけ表情を改めた。
「支部長がお呼びです」
「支部長が?」
「はい」
美月が聞く。
「何かありました?」
「先日のSランクダンジョンの件で」
「…………」
「精算がまとまったそうです」
美月の足が止まる。蓮も。職員を見る。
「支部長が、可能であればこのあとお話ししたいとのことです」
「分かりました」
美月が頷く。
「蓮」
「……うん」
「行こう」
「……分かった」
玲奈とひなたも。二人を見る。
「私たちは?」
玲奈が聞く。職員が答える。
「《アストラ》の皆さんにも関係する内容ですので、よろしければ全員で」
「了解」
「分かりました」
四人は。受付の奥を見る。
初めての。普通の依頼報酬を受け取ったその日。
今度は。あのSランクダンジョンで起きた出来事の。正式な精算を。聞くことになった。




