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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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155/505

第155話 四人で倒す

四人は《白樹の迷宮》を進み続けた。


 途中。何度か魔物と遭遇した。だが。大きく足を止めるような戦闘はなかった。


 ひなたが敵を見つけ。美月が進むか。避けるか。戦うかを決める。


 戦う時は。玲奈が前に出る。蓮はその動きに合わせた。


「…………」


 少し前までなら。蓮は。魔物を見つければ。どう倒すかを考えていた。


 今は。違う。


 美月が何を見ているのか。玲奈がどこへ動こうとしているのか。ひなたが何を支えようとしているのか。


 それを見ながら。自分の位置を決める。


 まだ。完全に慣れたわけではない。


 それでも。最初よりは。ずっと自然に動けるようになっていた。


      ◆


「ここから第20階層です」


 ひなたが言った。四人は。階段の先を見る。


 これまでと同じように。白い木々が広がっている。


 けれど。木々の間隔は少し広く。地面には。太い根が幾重にも走っていた。


「ここまで来たね」


 玲奈が言う。


「今回の巡回は、この階層の指定区域まで確認したら一区切りだよね?」


「うん」


 美月が端末を見る。


「第20階層の指定区域を確認して、討伐対象がいれば対処。それで帰還」


「了解」


「…………」


 蓮は。前方へ意識を向ける。


 すでに。一つ。大きな気配を感じていた。


 この階層へ入った時から。ずっと。同じ場所にいる。


「…………」


 強い。ここまでに出てきた魔物より。明らかに。


 けれど。今の蓮にとって。危険というほどではない。


「ひなた」


 美月が言う。


「お願い」


「はい」


 ひなたが意識を集中させる。少しして。表情が変わった。


「……います」


「どこ?」


「前方です。少し先に一体」


「強さは?」


「かなり大きい反応です」


 玲奈が剣へ手をかける。


「第20階層周辺で報告されてる大型種かな」


「たぶん」


 美月が端末を確認する。


「この辺りで確認されてるのは――」


 画面を見る。


「《白樹巨獣》」


「それか」


 玲奈が息を吐く。


「今回、見つけたら討伐する対象だよね?」


「うん」


 美月が頷く。


「指定区域にいるなら、そのまま対処しよう」


「了解」


「…………」


 蓮は何も言わなかった。美月が蓮を見る。


「ひなたの報告と合ってる?」


「……うん」


 それだけ答える。ひなたが少し笑った。


「ありがとうございます」


「……うん」


 もう。蓮は。自分が先に分かっていたことを。わざわざ付け加えようとはしなかった。


      ◆


 四人は前へ進む。やがて。木々が途切れた。


 少し広い空間。その中央。一体の魔物が立っている。


 大きい。白角熊よりも。さらに大きい。


 四足。全身を覆うのは。白い毛ではない。


 硬い樹皮のような外殻。背中からは。枝のような突起がいくつも伸びている。


 太い前脚。大きな牙。


 そして。額には。木の角のようなものが伸びていた。


「《白樹巨獣》……」


 ひなたが呟く。魔物が。ゆっくりと顔を上げた。


「グルルルル……」


 低い唸り声。地面が僅かに震える。


「来るよ」


 美月の声。玲奈が前へ出る。


「了解」


 ひなたが杖を構えた。


「補助、入れます」


「お願い」


「《補助魔法》」


 柔らかな光が。玲奈と蓮を包む。


 蓮も。《黒月》を構えた。


 誰も。蓮に何をするかは言わない。


「…………」


 それでいい。


 蓮は。三人を見る。


 玲奈は前。美月は全体を見ている。ひなたは最後尾から。周囲と三人を確認している。


 蓮は。自分が立つ位置を決めた。


 その瞬間。


「グオオオオオッ!」


 白樹巨獣が地面を蹴った。


      ◆


「来る!」


 玲奈が正面へ出る。


 白樹巨獣の前脚が。大きく振り下ろされた。


「っ!」


 玲奈が剣で受ける。重い衝撃。足元の土が沈んだ。


「玲奈!」


「大丈夫!」


 耐えた。だが。白樹巨獣は止まらない。


 反対の前脚を振り上げる。


「…………」


 蓮が動いた。


 玲奈の前へは入らない。側面。


 《黒月》の腹を。白樹巨獣の脚へ当てる。


 振り下ろされる軌道を。僅かに外へ流す。


「グオッ!?」


 前脚が。玲奈の横へ落ちた。


「ありがとう!」


 玲奈が踏み込む。剣を。外殻へ叩き込む。


 甲高い音。


「硬っ……!」


 刃が浅い。


「玲奈、離れて!」


 美月の声。玲奈が後ろへ跳ぶ。


「《炎魔法》!」


 炎が。白樹巨獣の側面へ直撃する。


「グオオオッ!」


 だが。樹皮のような外殻は。炎を受けても。完全には崩れない。


「かなり硬いね……」


 美月が眉を寄せる。


「…………」


 蓮は。白樹巨獣を見る。


 外殻。厚い。


 だが。均一ではない。


 脚の付け根。腹の下。首元。


 外殻の継ぎ目がある。


 一人なら。そこへ剣を入れれば。すぐに終わる。


「…………」


 けれど。蓮は飛び込まない。


「玲奈」


「何?」


「……前脚の付け根」


「そこが薄い?」


「……うん」


「分かった!」


 玲奈が走る。その動きに。白樹巨獣が反応する。


「グオオオッ!」


 巨体が前へ出る。


「玲奈、右!」


「了解!」


 美月の声と同時に。玲奈が横へ飛んだ。


 白樹巨獣が。その玲奈を追って。身体の向きを変えようとする。


「…………」


 蓮は。側面へ回る。


 《黒月》の腹を。白樹巨獣の角へ当てた。


 押す。ほんの僅か。巨体の向きをずらす。


 正面が。美月から外れた。


「ひなた!」


「はい!」


 ひなたが杖を振る。


「《補助魔法》!」


 玲奈の動きが。さらに鋭くなる。


「行く!」


 玲奈が一気に距離を詰めた。前脚の付け根。


「はあっ!」


 剣が入る。


「グオオオッ!」


 白樹巨獣の身体が大きく傾いた。


「美月!」


「見えてる!」


 炎。狙うのは。今。外殻がずれた側面。


「《炎魔法》!」


 炎が爆ぜる。白樹巨獣が。大きくよろめいた。


「…………」


 蓮は。その動きを見る。


 まだ。倒れていない。


 けれど。流れはできている。


 玲奈が崩す。美月が削る。ひなたが支える。


 なら。自分は。


 白樹巨獣が。大きく身体を起こした。


「グオオオオオオオッ!」


 怒りの咆哮。前脚が。地面へ叩きつけられる。


 衝撃。


「っ!」


 地面が揺れる。太い根が跳ね上がる。


「ひなた!」


 美月が叫ぶ。


「大丈夫です!」


 ひなたは後ろへ下がりながら。周囲も確認している。


 別の魔物の気配はない。


「…………」


 蓮は。白樹巨獣を見る。


 次。玲奈へ来る。


 巨体が踏み込む。だが。さっき傷つけた右前脚。


 僅かに動きが鈍い。


「玲奈」


「うん!」


 それだけで。伝わった。


 玲奈も。すでに見ている。


 白樹巨獣が。傷ついた前脚へ体重を乗せた。


「今!」


 美月の声。玲奈が動く。


 同時に。蓮も動いた。


 玲奈は。傷ついた前脚へ。


 蓮は。その反対側へ回る。


「はあっ!」


 玲奈の剣。前脚が崩れた。


「グオッ!?」


 巨体が沈む。


 蓮は。白樹巨獣の横を抜け。その後方へ入る。


 逃げ道を塞ぐ。


 美月が魔力を集める。ひなたが玲奈へ補助を重ねる。


「もう一度いけます!」


「ありがとう!」


 玲奈が踏み込む。白樹巨獣が。玲奈へ顔を向ける。


 その瞬間。首元。外殻の継ぎ目が露出した。


「蓮!」


 美月が呼ぶ。


「……うん!」


 蓮が踏み込む。《黒月》を振るう。


 一閃。刃が。外殻の継ぎ目へ入り。深く斬り裂いた。


「グ――」


 白樹巨獣の身体が止まる。数秒。


 そして。巨体が。地面へ倒れた。


 大きな音。土埃が舞う。


「…………」


 静かになった。


      ◆


「……倒した?」


 玲奈が息を吐く。ひなたが白樹巨獣を見る。


「はい。もう動きません」


「周囲は?」


「他の魔物の反応はありません」


「よし」


 美月が杖を下ろす。蓮も。《黒月》を下げた。


「…………」


 倒れた白樹巨獣を見る。


 最後に斬ったのは。自分だった。


 けれど。そこまでを作ったのは。自分だけではない。


 玲奈が正面で受けた。ひなたが玲奈を支えた。美月が外殻を削った。玲奈が前脚を崩した。


 蓮は。向きを変え。逃げ道を塞ぎ。最後に。開いた場所を斬った。


「蓮」


 美月が声をかける。


「どうだった?」


「…………」


 蓮は少し考える。


 今の戦い。細かい指示は。ほとんどなかった。


 それでも。迷うことは少なかった。


 玲奈が何をするか。ひなたが何を支えるか。美月が何を狙っているか。


 それを見れば。自分が何をすればいいのかも。分かるようになってきていた。


「……できた」


「何が?」


「……四人で」


 三人が蓮を見る。


「……倒せた」


 玲奈が笑う。


「そうだね」


「はい」


 ひなたも笑った。美月が頷く。


「うん。四人で倒した」


「…………」


 蓮は。もう一度。倒れた白樹巨獣を見る。


 一人なら。もっと早かった。一撃で。終わらせることもできた。


 それは。今でも分かる。


 けれど。今の戦いを。無駄だとは思わなかった。


「……一人より遅いけど」


 蓮が言う。


「うん」


 美月が答える。


「……嫌じゃない」


 玲奈が笑った。


「それ、かなり大事じゃない?」


「……そう?」


「そうだよ」


 蓮は少し考える。


「……そっか」


      ◆


 白樹巨獣の死体を。蓮が《アイテムボックス》へ収納する。


 内部で。魔石。外殻。牙。爪。肉。


 その他の素材へ。自動的に分けられていく。


「回収できた?」


 美月が聞く。


「……うん」


「これで第20階層の指定区域も確認できたね」


「じゃあ」


 玲奈が剣を収める。


「今回の依頼は終了?」


「うん」


 美月が端末を確認する。


「戻ろう」


「はい」


「了解」


 蓮も。


「……うん」


 四人は。来た道を戻り始める。


「…………」


 蓮は。前を歩く玲奈を見る。


 後ろには。美月とひなたがいる。


 一人なら。もっと速く終わっていた。それは。分かっている。


 誰かを待つ必要もない。任せる必要もない。合わせる必要もない。


 けれど。今日の戦いを。無駄だとは。少しも思わなかった。


 むしろ。


「…………」


 胸の中に。これまでの戦いでは。感じたことのないものが残っている。


 生き残れた安堵とも。強くなった実感とも。違う。


 まだ。それが何なのか。蓮には分からない。


 ただ。悪くなかった。

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