第152話 四人で戦う
《樹甲猪》との戦闘を終え。四人はさらに《白樹の迷宮》を進んでいた。
先頭は玲奈。その後ろを蓮。三番目に美月。最後尾にひなた。
ここまでと同じ隊列だった。だが。蓮の中では。少しずつ。その意味が変わり始めていた。
前を歩く玲奈は。ただ、自分より先にいる人ではない。敵を受け止める前衛。
後ろにいる美月は。ただついてきているわけではない。全体を見て。判断する。
ひなたも。ただ守る相手ではない。敵を探し。味方を支える。
それぞれに。役割がある。
「…………」
蓮が歩きながら三人を見る。
「どうしたの?」
美月が気づく。
「……何でもない」
「また何か考えてる?」
「……うん」
「何?」
蓮は少し考えた。
「……みんな、やること違うんだなって」
「今さら?」
玲奈が振り返る。
「……ちゃんと見ると」
「ちゃんと見てなかったの?」
「……前は」
蓮が言葉を探す。
「……危なくないか見てた」
三人が黙る。
「……戦い方じゃなくて」
「私たちが死なないかだけ見てたってこと?」
玲奈が聞く。
「……うん」
「なるほどね……」
玲奈が苦笑した。
前回のSランクダンジョン。蓮にとって。三人は共に戦う仲間ではなかった。
助ける相手だった。守る相手だった。
だから。それぞれがどう戦うのか。細かく見る必要がなかった。
今は違う。同じパーティーとして。一緒に戦う。
「今日はちゃんと見てね」
美月が言う。
「……うん」
「私も?」
「……見る」
「ひなたも」
「……見る」
「玲奈は?」
「……さっきから見てる」
「なんで私だけ先に覚えられてるの」
「……一緒に前にいるから」
「それならいいけど」
ひなたが小さく笑った。
◆
しばらく進んだところで。ひなたが足を止めた。
「反応あります」
全員が止まる。
「数は?」
美月が聞く。
「四体です」
「位置は?」
「前方。少し広い場所にいます」
「こっちには気づいてる?」
「まだだと思います」
美月が頷く。
「分かった」
蓮は何も言わない。気配は。すでに分かっていた。
四体。大型が一体。小型が三体。
だが。ひなたの報告を待つ。
「大きい反応が一つあります」
ひなたが続けた。
「残り三体は、それより小さいです」
「了解」
美月が蓮を見る。
「蓮」
「……?」
「ひなたの探知、どう?」
聞かれたので。蓮は答える。
「……合ってる」
ひなたが少し笑う。
「今度は、聞かれてからですね」
「……うん」
「ありがとうございます」
「……?」
四人は慎重に進む。やがて。白い木々が途切れ。少し開けた場所へ出た。
そこにいたのは。三体の《白牙狼》。
その奥に。一回り大きな四足の魔物。
身体の大部分が。樹皮のような硬い外殻で覆われている。
「《白牙狼》三体と、《樹甲獣》一体」
美月が確認する。
《樹甲獣》は。先ほど戦った《樹甲猪》よりも大きい。
四本の脚は太く。正面から見える部分の多くが、硬い外殻に守られていた。
「正面からは硬いよ」
美月が言う。
「玲奈」
「前に出る」
「蓮も」
「……うん」
「ひなたは補助。私は後ろから魔法で狙う」
「はい」
蓮が《黒月》へ手をかける。
「今回は」
美月が蓮を見る。
「倒すことだけ考えないでね」
「……うん」
「私たち全員が動きやすくなるように動いてみて」
「…………」
蓮が少し考える。
「……どうやって?」
「そこも考えてみて」
「……難しい」
「だから練習」
玲奈が笑う。
「とりあえず、私たちが何しようとしてるか見てればいいよ」
「……分かった」
魔物たちがこちらへ気づいた。《白牙狼》が低く唸る。
次の瞬間。三体が一斉に走り出した。
「来る!」
玲奈が前へ出る。蓮も並ぶ。
「《補助魔法》」
ひなたの魔法が二人を包む。身体が軽くなる。
「…………」
蓮は僅かに目を見開いた。
「どうです?」
ひなたが聞く。
「……動きやすい」
「よかったです」
蓮は自分の身体を見る。自分で《身体強化》を使ったわけではない。
けれど。確かに。さっきより動きやすい。
その間にも。《白牙狼》が迫る。
玲奈が一体を受け持つ。蓮の前へ二体。
その奥では。《樹甲獣》も動き始めていた。
蓮には。全部見えている。
二体の《白牙狼》。《樹甲獣》。玲奈の位置。美月。ひなた。
「蓮!」
美月が声を上げる。
「狼を一体、右へ流して! 私が狙う!」
「……うん!」
一体目の《白牙狼》が飛びかかる。
蓮は斬らない。身体をずらし。《黒月》の腹を側面へ当てる。
力の向きを変える。《白牙狼》が右側へ大きく流れた。
「そこ!」
美月が杖を向ける。
「《炎魔法》!」
炎が走る。立ち上がろうとした《白牙狼》へ。正確に直撃した。
「…………」
蓮がそれを見る。
自分は斬っていない。だが。自分が位置を変えたことで。美月の魔法が当たった。
「次!」
玲奈の声。
もう一体の《白牙狼》が。蓮の横を抜けようとする。
玲奈は。自分の相手と戦っている。
「…………」
蓮は魔物の進路を見る。そのまま進めば。後ろへ抜ける。
斬る必要はない。蓮が半歩前へ出る。進路を塞ぐ。
《白牙狼》が避けるために向きを変えた。その先には。玲奈。
「こっち!」
玲奈が剣を振るう。一閃。魔物が倒れた。
「…………」
蓮は一瞬だけ目を瞬く。
今度も。斬っていない。ただ。動く場所を変えただけ。
それでも。玲奈が倒した。
「蓮!」
美月の声。意識を戻す。
残った《白牙狼》を玲奈が相手にしている。そして。大型の《樹甲獣》が地面を蹴った。
巨体が。真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる。
「玲奈、そのまま狼!」
「了解!」
「蓮、樹甲獣を止めて!」
「……うん!」
蓮が前へ出る。《樹甲獣》の正面。
外殻は硬い。だが。斬ろうと思えば。隙間は見える。
それでも。今回は。そこを見るだけではない。
後ろにいる美月。玲奈の位置。ひなたの位置。全部を見る。
《樹甲獣》が迫る。蓮は直前で半歩ずれた。
《黒月》を外殻へ当てる。斬るのではなく。突進の向きを変える。
巨体が横へ流れる。
「もう少し右!」
美月が叫ぶ。
「……右」
蓮がさらに力の向きを調整する。《樹甲獣》の身体が。美月から見て横向きになった。
「そこ!」
美月が魔力を集中させる。
「《炎魔法》!」
炎が放たれる。
狙ったのは。正面の硬い外殻ではない。
蓮が向きを変えたことで露出した脇腹。そこへ。炎が直撃した。
「グオオオッ!」
《樹甲獣》が大きく揺れる。
「効いてます!」
ひなたが声を上げる。
「…………」
蓮は魔物を見る。そして。美月を見る。
自分が敵の向きを変えた。だから。美月の魔法が。一番通りやすい場所へ当たった。
ただ待ったわけではない。ただ倒さなかったわけでもない。
自分が動いたことで。美月が攻撃できた。
「…………」
蓮の視線が変わる。
その時。玲奈が最後の《白牙狼》を倒した。
「美月!」
「玲奈、右から!」
「了解!」
玲奈が走る。《樹甲獣》の右側へ。
「ひなた、玲奈を!」
「はい!」
ひなたが魔力を集中させる。
「《補助魔法》!」
玲奈の動きが鋭くなる。
蓮は。その全てを見る。
ひなたが玲奈を強化した。玲奈が右へ回る。
なら。自分は。
「…………」
《樹甲獣》が玲奈を嫌って。反対側へ動こうとした。
左。
「蓮、左を逃がさないで!」
美月が指示を出す。
「……うん!」
蓮が左へ入る。《樹甲獣》の進路を塞ぐ。
魔物が足を止める。その瞬間。
「玲奈!」
「もらった!」
玲奈が踏み込む。外殻の隙間へ。剣を深く入れる。
《樹甲獣》の体勢が崩れた。
「蓮!」
美月の声。
「今!」
「……うん!」
蓮が動く。今は。自分が斬る時。
露出した首元へ。《黒月》を振るう。
一閃。《樹甲獣》が地面へ崩れ落ちた。
静かになる。
「…………」
蓮は黒月を下ろした。周囲には。四体の魔物の死体。
蓮が直接仕留めたのは。最後の《樹甲獣》だけ。
だが。
「…………」
蓮は。さっきまでとは違うところを見ていた。
自分が右へ流した《白牙狼》。美月が倒した。
自分が進路を変えた《白牙狼》。玲奈が倒した。
自分が向きを変えた《樹甲獣》。美月の炎が当たった。
自分が逃げ道を塞いだ。玲奈が崩した。
そして。最後に自分が斬った。
「どう?」
美月が聞く。蓮は少し考える。
「……さっきと違う」
「何が?」
「……倒さなかっただけじゃない」
三人が蓮を見る。蓮は最初の《白牙狼》が倒れた場所を見る。
「……俺が動かしたら」
「うん」
「……美月が倒した」
次に。もう一体。
「……あっちも」
玲奈を見る。
「俺が向き変えたら、玲奈が倒した」
「そうだね」
「……樹甲獣も」
美月を見る。
「向き変えたら、魔法当てやすかった?」
「すごく」
「……逃げるところ塞いだら?」
玲奈が答える。
「私はめちゃくちゃやりやすかった」
「……そっか」
蓮は少し黙った。
これまでは。蓮が考えていたのは。
倒せるのに。倒さないこと。それが難しかった。
けれど。今は少し違う。
斬らなかった。それだけではない。
敵の位置を変えたことで。美月の魔法へ繋がった。
進路を変えたことで。玲奈の剣へ繋がった。
逃げ道を塞いだことで。玲奈が攻撃できた。
「……俺が倒さなくても」
蓮が呟く。
「……俺が動いたら、みんなが倒せる」
美月が笑う。
「そういうこと」
「…………」
「自分で仕留める以外にも、できることはあるでしょ?」
「……うん」
ひなたが蓮を見る。
「それに、蓮さんだけじゃないですよ」
「……?」
「私も敵は倒してません」
蓮がひなたを見る。
「……うん」
「でも、玲奈さんを速くしたり、皆さんが戦いやすくなるようにしています」
「……補助」
「はい」
「……自分で倒さなくても?」
「ちゃんと戦ってます」
「…………」
蓮は少し考える。
「……そっか」
自分で《身体強化》を使えば。もっと速く。もっと強くなれる。
だが。今日は使っていない。ひなたに任せた。
その力で。ちゃんと戦えた。
「ひなた」
「はい?」
「……さっきの」
「補助魔法ですか?」
「……うん」
「どうでした?」
「……動きやすかった」
ひなたが笑う。
「よかったです」
「……またお願い」
一瞬。ひなたが目を丸くする。
それから。嬉しそうに頷いた。
「はい」
玲奈がそのやり取りを見て笑う。
「ちゃんと任せるようになってきたね」
「……うん」
美月も頷いた。
「蓮」
「……?」
「今の戦いで分かった?」
「……少し」
「何が?」
蓮は三人を見る。玲奈。美月。ひなた。
「……全部、繋がってる」
三人が一瞬黙った。美月が。ゆっくり頷く。
「うん」
「それがパーティーだよ」
「…………」
一人でやれば。もっと早い。
四体とも。最初から斬ればよかった。
それは。今でも変わらない。
けれど。速さだけではない。
ひなたが見つけた。美月が判断した。ひなたが補助した。玲奈が敵を受けた。
蓮が敵を動かした。美月が魔法を当てた。玲奈が崩した。そして。最後に蓮が斬った。
「……一人と全然違う」
「そうでしょ」
玲奈が笑う。
「……遅いけど」
「それは言わなくていい」
「……でも」
蓮は少し考える。
「……悪くない」
三人が蓮を見る。
「悪くない?」
美月が聞いた。
「……うん」
「それ、結構気に入ってる?」
「……まだ分からない」
「そこはすぐ認めないんだ」
玲奈が笑った。
戦闘を終え。蓮は四体の死体を《アイテムボックス》へ収納する。
自動解体された素材を確認し。そのまま依頼用として保管した。
「じゃあ」
美月が前を見る。
「もう少し進もうか」
「うん」
「はい」
「……うん」
四人は再び歩き始める。
倒せる敵を。倒さない。
最初は。それだけでも難しかった。
だが。今は。少し違う。
ただ斬らないのではない。敵を動かす。進路を塞ぐ。仲間が攻撃しやすい場所を作る。
自分の動きを。仲間の動きへ繋げていく。
自分が敵を倒すことだけが。戦いではない。
仲間が動きやすいようにすることも。仲間の力を活かすことも。同じ戦いの一部。
そして。それを四人で繋げていく。
それが。パーティーで戦うということだった。




