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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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151/496

第151話 合わせるということ

最初の戦闘を終えてから。四人は《白樹の迷宮》をさらに奥へ進んでいた。


 先頭は玲奈。その少し後ろを蓮。三番目に美月。最後尾にひなた。


 隊列は変わらない。


「前方、反応ありません」


 ひなたが報告する。


「了解」


 美月が答えた。蓮も。何も言わない。


「…………」


 もちろん。蓮には分かっていた。


 周囲に魔物の気配がないことも。少し先で道が分かれていることも。さらにその向こうに。小さな気配があることも。


 だが。今は言わない。ひなたに任せる。


「…………」


 玲奈が横目で蓮を見る。


「今度は答え合わせもしないんだ」


「……しない方がいいって言われた」


「ちゃんと覚えてるんだね」


「……うん」


 玲奈が笑う。


「少しずつ慣れてきてるじゃん」


「……まだ我慢してる」


「やっぱり我慢なんだ」


「……うん」


 その後も。何度か魔物と遭遇した。


 ひなたが気配を探り。美月が判断し。玲奈が前へ出る。


 蓮も。指示された相手だけを倒した。


 自分の相手を倒したあと。玲奈の方へ動きかけることもあった。


 倒せる。そう思った瞬間。身体が勝手に動きそうになる。


 だが。そのたびに止まった。


 任せる。待つ。少しずつ。それを繰り返していく。


「……難しい」


 蓮が呟く。


「まだ?」


 玲奈が笑う。


「……まだ」


「まあ、一日目だからね」


 美月が言った。


「一気に慣れなくてもいいよ」


「……うん」


 しばらく進むと。ひなたが足を止めた。


「待ってください」


 四人も止まる。


「前方に三体。さっきまでの魔物より反応が大きいです」


「距離は?」


 美月が聞く。


「近いです。こっちへ来ています」


「分かった」


 美月が前を見る。


「玲奈、前へ」


「了解」


「蓮も玲奈の横に」


「……横?」


「うん。今回は一緒に前衛をやってみよう」


「……分かった」


 蓮が前へ出る。玲奈の隣。


 これまでは少し後ろだった。今度は。同じ位置に立つ。


「…………」


 蓮が玲奈を見る。


「何?」


「……横にいる」


「いるよ」


「……変な感じ」


「それ今日何回目?」


「……分からない」


 玲奈が笑った。


 木々の奥から。低い唸り声が響く。


 現れたのは。大きな猪に似た魔物だった。


 背中から肩にかけて。樹皮のような硬い外殻に覆われている。


 三体。


「《樹甲猪》」


 美月が言う。


「この辺りから出てくる魔物。正面の外殻が硬いから注意して」


「了解」


「……うん」


 蓮は三体を見る。


 脚の付け根。腹。首の下。外殻に覆われていない場所。


 どこを斬れば倒せるか。すぐに分かった。


「蓮」


 美月が言う。


「今回は一人一体じゃないよ」


「……?」


「玲奈と合わせて戦ってみて」


「……合わせる?」


「玲奈が前で相手の体勢を崩す。蓮はその動きを見て、空いたところを狙う」


「……倒していい?」


「玲奈が作った隙ならね」


「……分かった」


 玲奈が蓮を見る。


「私の動き、見てて」


「……うん」


「先に全部終わらせないでね」


「……分かってる」


「ちょっと不安」


「……頑張る」


 三体の《樹甲猪》が地面を蹴った。巨体が。真正面から突進してくる。


「来る!」


 玲奈が前へ出る。


 一体目。正面から受け止めない。


 直前で横へずれ。剣を外殻へ滑らせる。


 突進の向きがずれ。《樹甲猪》の身体が傾いた。


「今!」


 玲奈が叫ぶ。


「……うん」


 蓮が動く。露出した腹部。そこへ。《黒月》を走らせる。


 一撃。《樹甲猪》が地面へ倒れた。


「次!」


 美月の声。


 二体目が正面。三体目が横から回り込む。


 蓮には。両方の動きが見えていた。


 どちらも。斬れば倒せる。


「…………」


 だが。先には動かない。


「玲奈、正面!」


「了解!」


「蓮、左を止めて!」


「……うん!」


 美月の指示を受け。玲奈が正面へ。蓮は左へ動く。


 三体目の《樹甲猪》が突進してくる。急所は見えている。


 首の下。そこへ黒月を通せば。終わる。


「…………」


 だが。美月は。倒せとは言わなかった。


 止めろと言った。


 蓮は《黒月》を返す。刃ではなく。剣の腹を使った。


 突進してきた頭部へ当て。力の向きを横へ流す。《樹甲猪》の進路が逸れた。


「おお……」


 玲奈が一瞬だけ蓮を見る。


「ちゃんと倒さなかった」


「……止めろって言ったから」


「そうだけど!」


「玲奈、前!」


 美月の声で玲奈が視線を戻す。二体目が迫る。


 玲奈は正面を避け。脚へ剣を入れる。巨体が崩れる。


「蓮!」


「……うん!」


 今度は。玲奈の声。


 蓮が踏み込む。空いた首元へ。一閃。


 二体目が倒れた。


 残る一体。進路を逸らされた《樹甲猪》が、こちらへ向き直る。


「最後、二人で!」


 美月が言う。


「了解!」


「……うん!」


 玲奈が先に出る。蓮はその横。だが。前には出ない。


 玲奈の動きを見る。《樹甲猪》が突進する。


 玲奈が直前でかわした。同時に。剣を外殻の隙間へ滑り込ませる。


 魔物の身体が止まる。


「今!」


「……うん!」


 蓮が踏み込む。露出した首元。黒月を振るう。


 《樹甲猪》が崩れ落ちた。静かになる。


「…………」


 玲奈が息を整える。蓮も黒月を下ろした。


「どう?」


 美月が聞く。玲奈が蓮を見る。


「さっきよりずっといい」


「……そう?」


「うん」


「私が崩したところをちゃんと狙ったし」


「……うん」


「美月に止めろって言われた時も倒さなかった」


「……うん」


「最後も先に行かなかった」


「……頑張った」


「そこは自分で言うんだ」


 ひなたが笑う。蓮は倒れた三体を見る。


「……これが合わせる?」


「そう」


 玲奈が頷く。


「まだ簡単な連携だけどね」


「……一人で倒すのと違う」


「違うでしょ」


「……うん」


 一人なら。三体とも。最初から急所を斬れば終わっていた。


 その方が早い。その方が簡単。何より。倒せるのに。倒さない理由がなかった。


 ダンジョンで過ごしていた時なら。斬れる隙を見つけたなら。迷わず斬った。


 敵を残しておく方が危険だった。


 けれど。今は違う。


 玲奈が崩した。蓮が斬った。美月が状況を見て指示した。


 そして。倒せる敵を。あえて倒さず。進路だけを変えた。


 玲奈がもう一度崩し。最後に蓮が斬った。


「…………」


 蓮は少し考える。


「……難しい」


「何が?」


 美月が聞いた。蓮は倒れた《樹甲猪》を見る。


「……斬れば終わるのに」


「うん」


「……斬らない方を選ぶの」


 三人が蓮を見る。


「……倒せるなら、倒した方が早い」


「そうだね」


 美月は否定しなかった。


「蓮一人で戦うなら、それでいいと思う」


「……でも、今は違う?」


「うん」


 美月が頷く。


「今は四人で戦ってるから」


「…………」


「蓮が全部倒すことが、一番いいとは限らないの」


「……一番早くても?」


「早くても」


 蓮は少し黙った。


「……難しい」


「だろうね」


 玲奈が苦笑する。


「蓮からしたら、斬れば終わるのに、わざわざ斬らないようにするんだもんね」


「……うん」


「でも」


 美月が続ける。


「さっきはちゃんと選べてたよ」


「……倒さない方を?」


「そう」


「倒せるから倒すんじゃなくて」


 美月は蓮を見る。


「その時、パーティーに必要なことをする」


「……必要なこと」


「うん」


 蓮はもう一度、倒れた魔物を見る。


 斬れば終わる。それは今も変わらない。けれど。斬らない方がいい時もある。


 蓮にとっては。その判断の方が。魔物を倒すより、ずっと難しかった。


 戦闘を終えると。蓮は三体の《樹甲猪》を《アイテムボックス》へ収納する。


 内部で自動解体された素材を確認し。そのまま依頼用として保管した。


「回収も終わり」


 美月が言う。


「じゃあ進もうか」


「うん」


「はい」


「……うん」


 四人は再び隊列を組む。


 玲奈。蓮。美月。ひなた。


 歩き始める前に。美月が三人を見る。


「次は、もう少し四人で合わせてみようか」


「……四人で?」


 蓮が聞く。


「うん」


 玲奈が笑う。


「今度は私だけ見てればいいわけじゃないってこと」


「……美月とひなたも?」


「もちろん」


 ひなたが頷く。


「私もちゃんといますからね」


「……うん」


 蓮は少し考える。


「……難しそう」


「だから練習するの」


 美月が笑った。


「……分かった」


 四人が歩き始める。


 力を合わせる。言葉だけなら。簡単だった。


 けれど。相手を見る。動きを待つ。任せる。指示を聞く。


 そして。倒せる敵を。あえて倒さない。


 そのうえで。今、自分が何をするべきなのかを選ぶ。


 一人で戦っていた頃には。必要のなかった判断だった。


 だからこそ。蓮にとっては。魔物を倒すことよりも。ずっと難しい戦い方だった。

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― 新着の感想 ―
蓮のステータスの傾向的にタンクを練習させるのがお互いの成長に繋がりそう、ステータスの配分の決まり方分からないけど
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